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30 ダンスは難しい

週の後半4日はアリタイで精霊水と美容クリームの製作。

社交シーズンはシェル商会の稼ぎ時、カリメア王室にも献上品として精霊水と美容クリームを贈るのでフル生産。

「俺・の仕事増え・てる?」

「シェル様に作って頂いているのは王族や高位貴族向けの最上級品だけです。国内向けは以前よりもだいぶ減っています。高級品以下はシェル様のレシピに書かれている代替素材で商会の工場で生産しておりますので。」

何で目を逸らすんだ?

「でも、・・・。」

何となくだがいつもより多い気がする。

「・・・取引先の国が増えましたのでその分多少は増えてはおりますが、それは小さな事。シェル様が気になさらなくても大丈夫です。」

やっぱり仕事が増えてた。

俺の出した資金で工房だけでなく支店も増やしたらしい。

全然ダイジョバナイ。

グラーフの顔が鬼に見えた。



今日から週に1回アリタイ国の屋敷でもダンスを教えて貰う事になった。

執事長に2階の広い部屋に案内される。

「こちらが練習場で御座います。」

部屋の隅にあるソファーに腰を掛けていたおばさんとお嬢さんが立ち上がった。

「ダンスの指導を仰せつかりましたカブールで御座います。」

綺麗なカーテーシーで挨拶してくれた。

俺も胸に拳を付けてご挨拶。

「シェルです。よろしくお・ねがいします?」

ちょっと詰まったがちゃんと挨拶できた。

現代語の先生に鍛えられているから当然だ。

「ダンスのお相手を務めさせていただくルイージで御座います。」

俺よりもちょっと大きいが、4人組よりは俺に近い。

凶器は持っていない、助かった。

「シェルです。よろしく・お願いします。」

2度目なので上手く言えた、どうや。

俺は経験から学ぶ子だ。

カブールさんはカリメアの先生よりも優しくて丁寧。

「1・2・3。1・2・3。」

ステップも俺の方を向きながら俺と同じステップを踏んでくれる。

左右も前後も全て逆に動かすって、めっちゃ高等技術?

先生と同じ側の足を同じように動かせば良いので真似しやすい。

先生もずっと俺を見ているので、時々上手に見えるコツを教えてくれる。

ルイージは部屋の隅に置かれたソファーに座って俺の練習を見学。

休憩時間にはソファーでお茶を飲みながら3人でお話。

お嬢さんは俺より2つ下の12歳だった。

何故か俺よりも背が高いが女の子としては普通らしい。

子供の頃は女の子の方が背が高いと教授も言っていたからすぐに俺の方が大きくなる筈だ、たぶん。

2時間の練習の最後にルイージの手を取ってダンスの練習。

俺がステップを間違えてもルイージの足を踏むことは無かった。

カリメアでは何度も足を踏んだのに急に上手くなった?

「流石にルイージ様はお上手ですわね。」

ルイージが上手いだけのようだ。

それでも少し自信が付いた。



グラーフに解放されたので残り少ない冬休みは暖かい筈の南に向かうことにした。

スンラフ王国に転移して、そこからはひたすら走る。

アリタイでは雪が積もり始めて魔獣が減って来たが、南は暖かいらしく結構魔獣がいる。

図鑑でしか見た事が無い魔獣に出会えると嬉しくなる。

薬草や木の実も全然違う。

鑑定魔法の掛け捲り、楽しい。

ポーションに使える新しい素材もいくつか見つけた。

探知魔法で地形を確認しながら南に走る。



「ん?」

大きな魔力反応があった。

立ち止まって精査すると大きな反応の周りには大勢の人間。

気付かれないように少し離れた山の上から遠視魔法で見学することにした。

囲んでいる人間達は装備や隊列で軍隊と判る。

大きな魔力は地竜だった。

大きくて堅いがブレスが無いし飛べない上に遅いので軍隊で立ち向かえる唯一の竜?

まあ遅いと言っても馬よりは速いし、尾の1撃はめっちゃ強力。

わざわざ軍隊を派遣したと言う事は竜の素材が必要?

竜種の中では比較的倒しやすいけど、ドラゴンはドラゴンだ。

魔法袋から出した干し肉を齧りながら軍隊の戦い方を見せて貰った。

魔導師隊が魔法を撃って、弓隊が矢を射る。

地竜は寝てる?

まああの程度の攻撃なら痛くも痒くもないよね。

騎士団が長い槍を構えて一斉突撃。

地竜の鱗はミスリルの槍でも刺さらないよ、指揮官はバカなの?

尾の1撃で2~30人の騎士が跳ね飛ばされた。

まあそうなるな。

歩兵が倒れた騎士を引きずって後方に運んでいる。

地竜は、・・・寝てる。

軍隊が引き揚げて行った。

指揮官は全くのバカではないらしい。

俺の魔法袋にはたいていのドラゴン素材が揃っている。どうしても必要な素材が有って命懸けでドラゴンに挑んだのなら手助けできるかもしれない。

軍隊に付き添っていた道案内らしい冒険者に聞いてみよう。

最後尾を歩いている冒険者に声を掛ける。

「こんにちわ。」

挨拶は大事。

「お、おおっ? 坊主はこんなところで何をしているんだ?」

「軍隊、何して・たの?」

「王子殿下のドラゴン退治だ。」

「退治した?」

「俺は魔獣の警護役だから判らんが、今日は引き上げるらしい。」

「何でドラゴン退治?」

これが大事な所だ。

「手柄を立てれば王子が王太子になれるらしい。」

心配して損をした感じ。

街まで付いて行ったら巻き込まれそうなので軍隊と分かれて南に向かった。

地竜?

襲ってこない魔獣を必要もないのに倒す趣味は無い。

当分はギルドに寄らない様にしよう。

王侯貴族には近づかない方が安全だ。


南に行くほど木の実や果実が多くなった。

鑑定で確認しながら美味しそうなものを採取する。

グラーフにあげたら俺の待遇が良くなるかもしれない。

いや、イーカ焼きもオクト煮をあげた時もダメだった。

期待するのはやめたほうが良さそう。



バカ王子の国からはだいぶ離れたので久しぶりに街に入った。

毎日干し肉と草と木の実、調理された物が食べたくなったのだ。

街暮らしで贅沢になった?

屋敷の食事が美味しすぎるのが悪い。

俺は悪くない。

さっそく屋台に突撃した。

目指せ買い物スキルアップ。

良く判らないお肉の串焼きやシチュー、うん美味しい。



街を出て南に走る。

峠に国境の砦があった。

並んでいる商人達が身分証明書を見せて荷物の検査を受けている。

俺の順番になったのでギルドカードを出した。

「おおっ、貴殿がシェル閣下であったか。」

門の横にある屋敷に拉致される。

何も見えない。

周りは2mを超える竜人ばかり。

獣人はアリタイやカメリアでも見かけたが、獣人ばかりと言うのは初めて。

竜人は俺のギルドカードを手に取ると、一度頭上に掲げて拝んでからしげしげと見て次の竜人に渡す。次の竜人も頭上に掲げて拝んでいる。

どうなっているの?

立派な服を着た竜人がやって来ると、やはりギルドカードを拝んでいる。

「我が獣人国では強き者が敬われる。Sランク冒険者は最も強き者、ぜひ獣王に会って頂きたい。」

獣王って王様?

近寄りたくない。

「獣人国にSランク冒険者が立ち寄るのは60年ぶり。このまま立ち去られては我々が罰せられます。是非ともお願い致します。」

竜人から預かった手紙を持って獣人国の王都に走る。

送っていくと言われたが、馬車で8日、馬で5日。

そんなに時間を掛けられるほど暇ではない。

走って飛んで、2日で王都に着いた。


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