3 教授の助手?
「探知魔法は魔力を薄く広がるように流す、だって。」
コマンがギルマスから借りて来た本を指でなぞり乍ら読んでくれる。
無属性魔法の事を知りたいと思ったが、コマンも無属性については全く知らないし俺は字が読めない。
ダンテがギルマスから借りてくれた本をコマンが毎晩読み聞かせしながら俺に字を教えてくれていた。
昼は草原の風と一緒に討伐依頼に出掛け、草原の風が魔獣と戦っている間に俺が薬草を探す。
倒した魔獣を俺が解体して魔法袋に納める毎日。
俺の魔法袋が目立たないように、街に戻ると一度草原の風が借りている家に帰って大きな袋に詰め替えてギルドに持ち込む。夕食後は魔法の本を使って読み書きの練習。
半年後くらいには読み書きもある程度出来るようになり、1年後には難しい魔法の本も何とか読めるようになった。
小さな事からコツコツと、お爺さんに言われたことを守って毎朝のランニングと魔力訓練は欠かさない。ダンテには剣を教えて貰っている。
ダンテの剣は早い。
ワイバーンの尾のような速さで振り下ろされる。
でも父さんの闇弾よりはずっと遅い。
ヒョイヒョイと避けたらいきなり剣筋が変わる。
ゴン。
腹に当たった。
防具と言うのを付けてはいるが痛い。
”ヒール“
自分で治してダンテに挑む。
俺が気絶した時はコマンが治癒魔法を掛けてくれるので安心。
結構楽しい。
運動の後の食事も美味しい。
料理を作ってくれる通いのおばさんのお蔭か、身長もグングン伸びて120㎝を超えた。
「王立高等学院教授の魔導師に聞いたところ、闇と光の属性を持つというのは稀どころか文献にも載っていないそうだ。研究したいので助手として雇いたいと言っているがどうだ?」
ギルマスのおっさんに言われた。
俺を研究するの?
「素材?」
「ありていに言えばそうだ。だが、助手の仕事は週に1日で他の日は基本的に自由、君の嫌がる実験はしない。学院の本は読み放題、聴講生として授業にも参加出来るようにすると言っている。」
「・・・・。」
知らない人の事なので信用していいのか判らない。
「その魔導師は人間的にも信用できるし、住居は学院の寮で食堂も使える。嫌になったらすぐにやめても良いと言ってくれている、どうだ?」
「草原の風、相談。いい?」
「勿論だ。」
草原の風のみんなに相談したら、高等学院の教授なら俺を護るだけの力を持っているし、もっといろいろな教育を受けさせてくれる。
しかも学院は庶民が行ける所では無いので普通では手に入らないような無属性魔法の本も沢山ある。
断る手は無いと即断された。
嫌になったらいつでもこの家に戻って来いと皆が口を揃えて言ってくれたのが嬉しかった。
「少しでも疲れたと思ったらすぐにやめるのよ。」
「うん。」
「無理しちゃダメよ。」
「うん。」
「目立ちすぎるから今日はこれで終わりにしなさい。」
「うん。」
驚いたのはこのお姉さん。
高等学院の偉い教授と聞いたのでてっきりお爺さんだと思っていたのに若いお姉さん。
しかも俺を子供扱いして世話を焼きたがる。
今日は魔力量の判定の為に朝から教会の治療院で治癒魔法を掛けているが、何度も休憩しろと煩く言ってくる。
怪我や痛みが治まって嬉しそうに帰っていく患者さんについつい張り切りすぎた俺も悪いけどちょっと心配しすぎだと思う。
お爺さんの加護を受けてからは魔力量に不安を感じたことは無い。
優しいし美人だし、怖いお爺さんの教授を想像していた俺からすれば凄く有難いけど、雇い主だからそんなに世話をしなくていいと思う。
草原の風は賄いのおばさんにこれが食べたい、あれが食べたいと注文ばかり言っていた。
聞いてみたら雇い主だから構わないと言っていた。
教授とは随分違う。
先週から学院の寮に入れて貰えた。
草原の風の家は学院から遠いので寮は便利。
管理人も優しいし食堂も美味しくて幸せな気分になれる。
学院での仕事は週に1日、今日のようにサラート教授の研究に付き合うだけ。
朝のトレーニングは殆ど今まで通り、剣の稽古が素振りに変わったのが唯一の違い。
教授と相談して、午前に古代語Ⅰと剣術Ⅰ、午後は錬金魔法研究、古代魔法研究、付与魔法研究、薬学研究という4科目の授業を受けさせて貰えることになった。
来週から新学期が始まると言う事で時期的にも良かったらしい。
空いた時間は書庫で好きな本を読める。
うん、結構楽しい。
正式の学生ではないので成績も単位もないが、授業は学生と一緒に受けられる。
学院生は貴族や大商人の子弟が殆どらしいが、手が3本あったり目が4つあると云う事は無いと教授が断言してくれた。
週末は冒険者ギルドで草原の風のお手伝い。
草原の風が護衛依頼などでいない時は単独で薬草採り。
人に危害を加えるからとはいえ、魔獣を一方的に殺すのはちょっと嫌なので討伐依頼は受けない。
薬草採りは人に喜んでもらえるし、指名依頼も貰えるようになったのでちょっと好き。
週末をギルドの日にしたのは学院では出来ない魔法の練習をする為。
特に今練習中の特定素材探知魔法は王都の外でないと練習出来ない。
薄く広げた魔力が特定の素材に反応するように調整するのは難しい。
草原の風と一緒に行動する時は魔力の大きさで脳裏に浮かぶマーカーの大きさを調整する練習。単独で薬草採りをする時には知っている薬草をマーカー表示する練習。
まだまだ探知出来る範囲が狭いが、1kmくらいならはっきりと判るようになった。
魔法は練習すればするほど練度が上がる。
探知魔法の面白さは練度が上がったのが実感出来る事。
少しずつだが探知範囲が広がる。指定できる素材や人物が増える。今では漠然としたもの、例えば高く売れる物や危険な物と言う指定も出来そうな気がしている。
日々これ練習、小さな事からコツコツと。
「優しい先生で良かったね。」
「うん。」
「困ったことが起こったらすぐに相談に来るのよ。」
「うん。」
ここにも心配性のお姉さんがいた。
心配してくれるのは有り難いけど、ちょっと恥ずかしい。
「あれ?」
「どうしたの?」
「馬車、襲われてる?」
「本当?」
「8人、40人。戦い。」
「どっちだ。」
リーダーのダンテは反応が早い。
「あっち、500m?」
馬車の方角を指さした。
「行くぞ。」
ダンテが皆に声を掛けながら走り出した。
俺達も後に続く。
身体強化魔法を使って俺が先頭に立つ。
道の無い森の中なので道案内役がいる方が早い。
数分で森を抜けると街道脇の魔獣除け草原。
その先の街道で1台の馬車を盗賊風の男達が襲っていた。
俺は速度を落としてダンテ達を先に行かせる。
戦うのは苦手。
「助勢する。」
ダンテ達が声を掛けながら盗賊達に切り掛かる。
コマンは少し離れた所から矢を射かけている。
探知魔法で全体を見ると少し離れた森の中に2人の反応。
盗賊の仲間らしいが、この距離では麻痺魔法は届かない。
マーキングだけしてダンテ達を追った。
“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”。
麻痺魔法を連発すると盗賊が次々と倒れて動かなくなる。
不利を悟って盗賊達が逃げ出そうとする。
“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”。
逃げる盗賊を全て麻痺させた。
ダンテが護衛の騎士?と何か話している。
少し離れた所で探知魔法の練習をしていたらダンテに呼ばれた。
「麻痺している男達はどれくらいで動けるようになる?」
「1時間?」
「二人ほどすぐに口が利けるようにしたいが出来るか?」
「うん。」
騎士が連れて来た二人に浄化魔法を掛ける。
護衛の騎士やテスト達が倒れている盗賊?を縛り上げている。
俺は体が小さいから大人を縛るのは無理。
草原に腰を下ろして精神を集中、探知魔法の範囲を広げる。
さっきまで近くにいた二人がかなり遠くを走っている。
マーカーを眺めているうちに探知の範囲を超えた。
「君が見つけて草原の風に知らせてくれたと聞いた。感謝する。」
でっかい騎士のおっさんに声を掛けられた。
「森の中、2人。逃げた。」
うん、上手に喋れた。
「そうか、情報感謝する。」
「うん。」