27 パーティー分け
庭園の四阿に6人掛けのテーブルが設置されている。
メイド達がお茶を淹れ、王宮料理長さんがアップルパイを持って来てくれた。
香ばしい匂いだけでよだれが零れそう。
秋から冬の季節限定らしいが、他の季節は違うデザートを作ってくれるというので安心。
ティータイムの順番に当たった庭師達の顔がだらしなく緩んでいる。
王宮のアップルパイは高位貴族でないと食べられないらしい。
ワクワクしながらアップルパイを切って口に入れる。
「う~ん、美味しい~っ。」
思わず声を上がると料理長が嬉しそうに笑っている。
「本当に美味しいです。料理長様、有難う御座います。」
「「有難うございます。」」
みんなが笑顔でお礼を言うと料理長は益々嬉しそうにしている。
「何で俺は籤に参加出来ないんだ。」
後ろで従者長がブツブツ言っている。
俺が屋敷にいる間は執事長か従者長が側にいる事になっている。今日は従者長の番で従者二人と共に俺の後ろに立っている。
執事長、従者長、メイド長の3役は交代で夕食の相伴をしながらスケジュールや情報交換をする事になっているのでティータイム相伴の籤には参加しない。
と言う事は執事長達は永久にアップルパイにはありつけない。
がはは。
夕方近くになったが、ギルドに行った。
ギルドは依頼を終えた冒険者達で賑わっている。
「おい、チビもギルドに登録するのか?」
見ると同じ学生服。
「うん。」
「無理して怪我をするんじゃねえぞ。」
心配してくれているようだ。
「シェルさん、ギルマスがお待ちです。2階に上がって下さい。」
エルフ事件の時に知り合いになったお姉さんから声を掛けられた。
「おまえギルマスと知り合いなのか?」
「うん。」
学生服のお兄さんが驚いている。
2階に上がるとギルマスが笑顔で迎えてくれた。
「漸く来てくれたか。」
「遅くな・りま・した?」
うん、ちゃんと言えた。
「忙しいのは判っているんだが、いつ何が起こるか判らんのがギルドだから勘弁してくれ。」
「うん。」
「授業は週明けの3日間の午前中に4コマか。午後は図書館か王宮だな。」
「うん。」
「ここではギルドの仕事は受けないのか?」
「盗賊、来る?」
「ああ、そう少ししたら社交シーズンだからな。この2年ほど王都付近の盗賊が増えている。アリタイから引っ越して来たらしい。」
「午後、やる。」
大規模な盗賊団は結構素材を貯め込んでいるからグラーフが喜ぶ。
「夕方王都に着く商隊が多いから、午後ならちょうどいい。期待してるぞ。」
「うん。」
週明けのHRはパーティー分け。
1学年はいざという時に身を護れるようにと社交シーズン前に日帰りの冒険者演習、学年末に1泊の宿泊演習という実践授業がある。
課題は必ず全員が役に立つ働きをする事。
何もしないまま演習が終わった生徒がいた場合は班の全員が補習。
みんな真剣だ。
先生が大きな紙を広げた。
19人が入試で使った魔法の種類と得点、武器の種類と得点が書かれているらしい。
これを参考に、自己PRを聞いて組みたい相手を見極めるそうだ。
皆が張り出された紙の前に集まって真剣に見ている。
俺は興味が無いのでぽつんと席に座っている。
候補が決まった後は、実際に話をしたり授業の様子を見て2週間後までにパーティーを決める事になっている。
「先生、なぜシェルだけ試験の成績が無いのですか?」
女子生徒が首を傾げた。
試験?
そんなのがあったの?
俺は知らない。
「シェルは員数外だ。入試を受けていないから点数は無い。」
「員数外?」
「一番弱そうなパーティーに入れる。」
全員がなる程と納得顔で頷いている。
「俺の得意は剣。足が速いからおとり役も出来るぞ。」
「俺は火魔法だ。弓も使えるから中距離攻撃なら任せろ。」
それぞれが自己PRをする。
「シェルも一応やっておけ。」
「えっと、戦いは苦手・です。光魔法が使える・です?」
「何で疑問形なんだよ。」
「まあうちのパーティーには要らないな。」
生徒達が笑っている。
担任は苦笑い?
「でも冒険者だから魔獣討伐の経験者よね。」
女の子が俺をかばってくれた。
「うん。」
男子が何か言おうとしたのを担任が掌を向けて遮った。
「説明をしておいた方が良さそうだな。どうしてシェルを一番弱そうなパーティーに入れるかと言うと、シェルが1番強いからだ。」
「「「ええっ?」」」
「この学園だけでは無くこの国、いやこの大陸で1番強い。」
「「「ええっ!」」」
「諸君らも知っているだろうが、1年ちょっと前に大規模なスタンビートが起こってこの学院生も犠牲になりかけた。そのスタンビートを殲滅したSランク冒険者がシェルだ。たった一人で雷竜をはじめとする上位種魔獣500頭と大型魔獣数千頭を倒し、大勢の生徒を救ってくれた学院の恩人でもある。今年から本学院の名誉学院長に就任して頂いたので入試を受けていない。」
「「「ええっ!」」」
「秘密と言う訳では無いが、シェルが普通の学生生活を楽しめるようにという陛下の配慮だ。他のクラスには言いふらすな。敬語もいらん、普通通りにしろ。」
「本当なの?」
さっきかばってくれた女の子が俺に聞く。
「多分?」
「何で疑問形なのよ。」
「生徒を救った・か、知らない、です。人・は、助けた、です。」
「弱いパーティーでもシェルが要れば安全だから1番弱いパーティーに入れるということだ、判ったな。」
「俺は弱いぞ。」
「私はおしとやかだからすっごく弱いわよ。」
「俺なんか剣で勝った事が無いぞ。」
なんでみんな弱い弱いPRなんだ?
「本当に戦うのは嫌いなの?」
「うん。」
「でも冒険者なんでしょ?」
「薬草採取。」
「薬草採取してSランクってなんだよ。」
「薬草採取ってドラゴンを倒すのか?」
HRはカオスで終わった。
「少し良くなりました。これからも頑張りなさい。」
現代語の先生に褒められて機嫌よく食堂に向かう。
食堂の入り口で取り囲まれ、テーブルに拉致された。
「俺の奢りだ。遠慮なく食ってくれ。」
伯爵家の4男? 兄ちゃんが日替わり定食を奢ってくれた。
「ありがとう?」
お礼の挨拶は大事。
4人掛けのテーブルなのに周りを大勢の生徒が取り囲んでいる。
「何でカリメアに来たんだ?」
「アップルパイ?」
日替わり定食を食べながら答える。
「はあ?」
「アップルパイ・が・食べれる?」
うん、上手に言えた。
「ええっ?」
「シェル閣下はアップルパイを食べに来たのか?」
「閣下・は・嫌い。アップルパイは・好き?」
うん、絶好調。
「アップルパイって王宮のアップルパイか?」
有名らしい。そうだよな、美味しいもん。
「うん。」
「・・・・。」
何となく可哀そうな人を見る目?
日替わり定食を口に運ぶ。
「名誉学院長の俸給はいくらだ?」
「・・・ボウキュウって何だ?」
口の中の物を飲み込んで答える。
「幾ら貰えるのかって事。」
「無い。」
「俸給無し?」
「借り、嫌い。」
「何も無しで引き受けたのか?」
考えてみると寝床を貰った事を思い出した。
「・・・、木・を・貰った?」
「木?」
「俺・の・寝床。木・の上・で寝る?」
うん、言えた。接続が大事だってさっきの授業で教えて貰ったところだ。
「待て待て、シェルは木の上で寝ているのか?」
「うん。」
「毎晩?」
「うん。」
「ベッドは?」
「嫌い。」
「・・・・。」
何だこの雰囲気は。
「木ってどこにあるんだ?」
「城・の近く?」
「ひょっとしてめっちゃ大きい木か?」
「うん。」
「宰相の屋敷だ。王都で1番大きな木がある。」
王都1なの? でも納得できる大きさだ。
「宰相に大きな木を貰ったのか?」
「陛下?」
おっさんでは無く陛下とお呼び下さいって執事長が言っていた。
うん、俺はやればできる子だ。
どうや。
「・・・、宰相は屋敷にいるのか?」
「知らん。」
食堂しか行ったことは無い。
「こら、授業が始まるぞ。急いで教室に行け。」
食堂のおっちゃんに怒られた。




