24 新しい寝床
目の前には屋台がたくさん並んでいる。
何度も練習したから大丈夫な筈。
まずは匂いと見た目で屋台を選ぶ。
汚い所はダメ。ビスなんちゃらに教えて貰った秘術。
小銭入れを魔法袋から出してポケットに入れる。
目指す店が決まったら屋台の値段表を見て銅貨を用意する。
胸を張って堂々と店の前に立つ。これはコマンさんに教えて貰った。
「おっちゃん、1本おくれ。」
何度も練習したから、上手く言えた。ビスなんちゃらに教えて貰った注文の仕方。
「お、おう。」
店のおっちゃんがなんか変。
俺間違えた?
「はいよ。」
串を受け取って銅貨2枚を渡す。
「ありがとう?」
おっちゃんがおかしい?
店の正面からどいて、串焼きを頬張る。
「美味しい。」
おっちゃんの方を向いて言う。
こうすると顔を覚えてくれて、おまけしてくれたり情報を教えてくれる時も有るらしい。
ここで常連になる気は無いが、王都に戻った時の練習。
「お、おう。」
おっちゃんの反応がイマイチだが、串焼きを食べながら次の店を探す。
何故か陛下のおっちゃん達がぞろぞろとついて来る。
食べたかったら自分で買ってね。
俺は他の人に上げる分の買い方は教わっていないから。
次に選んだのは肉の入ったスープ。
これはSランクの難しい作業。
「おっちゃん、一杯おくれ。」
「お、おう。」
やっぱりおっちゃんの反応がおかしい。
目がキョトキョトしている。
「はいヨ。」
スープを受け取り、握りしめた銀貨を渡す。
「おつりだ。」
おっちゃんが銅貨を渡してくれる。
スープを屋台の台に置いて銅貨を確認。
小銭入れに入れてポケットにしまう。
台の上のスープを持つ。
うん、ここまでは完璧だ。
屋台の横の空き地でスープを飲む。
大きな肉が入って結構おいしい。
スープを飲み終えたら屋台に戻って、屋台横の台に椀と匙を返す。
「ご馳走様。」
「おう。」
おっちゃんが差し出す銅貨1枚を受け取る。
食器を返せば銅貨1枚を返してくれるのだ。
出来た。
どうや。
陛下のおっさん達の方を向いて胸を張った。
「これはどういう事じゃ?」
「お買い物。3回目。」
「お、おう。」
「ありがとう。帰る。」
大門に向かって走る。
宰相のおっさんが何か言っているがもう約束の2か月。
遅くなるとグラーフに怒られる。
大門を出て、人気の無い所で王都に転移した。
イーカ焼きとオクト煮をあげたのに、・・・・。
俺は精霊水を樽に注ぎながら美容クリームを作っている。
時々休憩のサイン会。
グラーフは鬼だ。
夕方になったので学院の食堂へ。
久しぶりの食堂。
「派手に活躍しているらしいな。」
マエスト達に声を掛けられた。
「へ?」
何のことか意味が判らない。
「スタンビートを殆ど一人で殲滅したって大陸中で評判になっているらしいぞ。」
「そうなの?」
ついこの間の筈なのに、もう知っていることに驚いた。
「大陸では150年ぶりのドラゴンスレイヤー。単独討伐は200年ぶりだからな。」
山で訓練中に何頭もドラゴンを倒したことは黙っていた方が良さそうだ。
「スタンビートはギルド通信で大陸中に連絡するから情報が速いんだよ。」
「上位種だけで4~500頭を倒したと伝わって、それはもう王都中が大騒ぎになったぞ。」
「おう、アリタイ王国の誉れだとかで店はどこも記念セールだ。」
「俺は礼服を半額で仕立てて貰った。」
「俺は剣を買って貰った。」
良く判らないけどみんなが喜んでいるからいいか。
夕食を済ませて寝床に帰る。
どうなってるの?
寝床の近くに大勢の人がいる。
何かあったの?
寝床を見ると薄暗くではあるが、魔道具の照明が当てられている。
“シェル閣下御寝所”
寝床の看板が大きくなっている。
その下には“本日は 番の枝でお休み中”の大きな立札。
立札には木の絵が描いてあって枝に番号が付いている。
「これ何?」
寝床の木を取り巻く壁に作られた門に立っているおっちゃんに聞いた。
「見物人が閣下を探して騒がぬよう、お休みの枝が判り易くするために宰相閣下が考案なされました。周辺はヤカンソウオン禁止区域に指定されております。」
ヤカンソウオンってなに?
良く判らないままに飛び上がって寝床を決める。
その日の気分や風向きで寝る枝を決めるのだ。
今日はここだな。
風が程よく当たる枝に腰を下ろして木の幹に背を預ける。
めっちゃ視線を感じる。
下を見ると壁の向こうに大勢が集まって俺を見上げている。
久しぶりの慣れた寝床なのに何故か眠り難い。
人に見られながら寝るのは無理。
隠蔽魔法を強化したら視線が少なくなった。
それでもちょっと嫌。
教授に相談したら考えてみると言ってくれた。
4日間のお仕事でようやくグラーフから解放されたので、草原の風の家に行った。
何故だ。折角来たのに留守だった。
連絡もせずに来たのだからいなくても当然だけど、ちょっと悔しい。
コマンさんに俺の実力を見せる事が出来ないのが残念。
よし、次の機会までにお買い物スキルをレベルアップしておこう。
ビスなんちゃらに教えて貰った高度な技に磨きを掛ける事にする。
屋台の有った場所に向かう。
どうしてこうなった。
屋台の並ぶ通り、入り口には大きな看板が掲げられている。
”シェル通り“
案内板がある。
“シェル閣下が初めてのお買い物で歩いた順路”
“シェル閣下が初めてお買い物をした屋台”
“シェル閣下が初めてスープのお買い物を成功させた屋台”
“シェル閣下がお買い物に失敗しかけた果物屋。言い値の半額以下で買い物成功”
ナニコレ、めっちゃお買い物に行きづらい。
お買い物スキルの練習は諦めた。
今日は教授の研究室に“遊び”に行く日。
「136㎝、順調に伸びているわ。」
去年は4㎝伸びた、今年は3㎝。
ぐぬぬ。
「来年はまた4㎝伸びる、かな?」
何で疑問形なんだ?
「ともかく成長は止まっていないから大丈夫、安心しなさい。」
「うん。」
小さな事からコツコツと、一気に大きくならなくてもいいのだ。
うん、着実に大きくなっていればそれでいい。
「例の木の事だけど、宰相が誰にも邪魔されずに寝られる木を探してくれたわ。」
「ほんと?」
「近くに専用の食堂も作ってくれるって。」
「凄い。」
「気に入るかどうか、確かめに行ってみる?」
「うん。」
大きくて程よく枝が張り出した立派な木。
周りには誰もいない。
でも、何かがおかしい。
「お屋敷?」
「今は空いているの。」
「人、いた。」
「空き屋敷でも手入れをしないと荒れるから、王宮で雇った使用人が屋敷や庭の手入れをしているの。夜は木の周りに近寄らないから大丈夫よ。使用人達の食事を作る料理人がいるから、シェルの食事も作って貰えるわ。訓練用の広い場所もあるから便利でしょ。」
確かに目の前には広いスペースがある。
「馬場?」
「今は馬が少ないから空いているの、好きなように訓練出来るわよ。」
「王城?」
少し離れた所に王城の塔が見える。
「禁書庫にも近いでしょ?」
「う、うん。」
確かに便利だし場所も良いけど何かおかしい気がする。
「大丈夫よ。シェルに何かさせようとかは無いから。使用人は王宮の職員だし、シェルの食事は使用人のついでに作るだけだからお金も要らないわ。」
「だったらいい。」
凄く眠り易そうな木だったのでここを寝床にすることにした。
丁度夕食時になったので教授が食堂に案内してくれた。
3階建ての大きな建物に入る。
入り口から少し歩いたところにある小さな部屋に4人掛けのテーブルがあった。
落ち着いた雰囲気の部屋。
すぐに二人分の食事が運ばれてきた。
美味しい。
「日替わり?」
学院の日替わり定食を思い出す。
毎日同じ食事は嫌だ。
「一応日替わりだけど、朝注文しておけば食べたい物を用意してくれるわ。朝食と昼食も簡単な物ならここで食べられるわよ。」
「そうなの?」
「そうよね。」
教授が壁際に立っているメイドさんに声を掛ける。
「はい。食材は御座いますので、簡単な物でしたらすぐにご用意出来ます。」
「だって。ここで良いなら手続きしておくけどどうする?」
「うん。ここにする。」
「だったら使用人を紹介しておくわね。」
執事長、侍従長、メイド長、料理長を紹介された。
使用人に用事を言えばそれぞれの担当者に連絡して貰えるらしいので俺には関係ない。




