21 屋台でお買い物
東南方向に陸が続いているので海沿いを進む。
港に船が泊まっていた。
湖で見たような船では無く、大きな帆が沢山ある巨大な船。
港の街壁に大きな門が見えた。
商人達が馬車を連ねて並んでいる。
門は二つ。
ここでは無いと警備兵に怒られた経験が何度もある。
列の長い方に並んでおけば、違っていてもあまり怒られないと学んだので長い方に並ぶ。
順番が来てギルドカードを出すと、次回からは隣の門をお使い下さいと言われた。
丘の上から眺めるのもよさそうだが、近くで船が見たいので港に向かう。
「凄い。」
小型のドラゴン程もある大きな船。
3本の太いマストが立っていて、太い横木が渡され波にゆっくり揺られている。
絶対に寝心地が良さそうだ。
今晩あそこで寝たい。
許可を貰えばいい?
船にいるおっさんに聞いてみた。
「お前はバカか。」
怒られた。
岸壁を歩いていると良い匂い。
匂いを辿ると屋台。
イーカ焼き。
イーカって何だ?
自慢じゃないが屋台の買い物なら自信がある。
2度も買った事があるのだ。
コマンが付いていてくれたけど。
屋台を見ると1本銅貨2枚と書いてある。
魔法袋から小銭袋を出して銅貨2枚を準備する。
胸を張って堂々と屋台に近づく。
「1本。」
言えた。
「はいヨ、銅貨2枚だ。」
銅貨2枚を渡してイーカ焼きを受け取った。
やった~!
コマンさん、一人で出来たよ。
心の中でコマンさんにお礼を言う。
お礼は大事。
イーカ焼きに齧り付く。
旨い。
良く判らないしょっぱくて香ばしい調味料がイーカに凄く合っている。
食べ終わると周囲の匂いを確かめる。
いい匂いがする屋台を発見。
オクト煮?
鍋から沢山の棒が突き出している。
おっちゃんが並んで買っている。
人気があるらしい。
銅貨3枚を手に握りしめて俺も並んだ。
「1本。」
「はいよ。」
銅貨3枚を出して串と言うよりも棒が突き刺さった30㎝程の赤い肉の棒を受け取る。
出来た。
人生で初めての連続買い物成功。
買い物の練度が上がったような気がする。
頑張ればコマンさんのような買い物の達人も夢ではない?
棒には沢山の丸い物が付いている赤い肉?が刺さっている。
俺は何でも食べられる。にんじんは飲み込むけど。
赤い棒に齧りつく。
柔らかいのに噛み応えがある?
良く判らないがめっちゃ旨い。
この街が気に入った。
イーカ焼きとオクト煮を食べたらお腹一杯。
街を出て海岸線を走る、飛ぶ、転移する。
食べたら運動。これ基本。
夕方まで訓練して、岬にある木の上で干し肉を齧って寝た。
朝のトレーニングを済ませると海に入る。
あまり好きではないが、海の中でも自由に動けるようになっておくのは大事。
小さな事からコツコツと。
練習は大事。
海の中に張ったバリアを蹴って海の中を進む。方向転換をする。海の底を走る。
お魚さんがスイスイと俺を追い越していく。
ぐぬぬ。
縮地は出来なかったが転移は出来た。
闇弾は途中で消滅したが光弾とレーザーは撃てる。
色々と試す。
晴れているうちに屋根を直せ、父さんの言葉。
安全な時に練習しておくのが大切。
レイおじさんに教えて貰ったバリアを張りながら地上にいる時のように探知魔法や転移が使えるようになっておきたい。
頑張って練習。
深い所に来たようであたりが暗くなってきた。
暗視は出来るが、昼間のようにはっきりと見えるわけでは無い。
暗視の練習は森の中でも出来る。
無理に慣れない海の中でするのは危険。
陸に引き返し、干し肉を齧って寝る。
3日の予定だった訓練が6日に伸びた。
港町に大きな魔力を感じたから。
襲い掛かってきたら戦うけど、わざわざ強い相手がいる所に近づくのは無謀。
もう一度屋台のイーカ焼きでとオクト煮が食べたかったので街から少し離れた所で訓練しながら待っていた。
水中訓練に飽きたのとひょっとしたら屋台が出ているかもと言う期待で港町に戻った。
「ここは通行禁止だ。」
屋台の出ていた岸壁に行こうとしたら兵士に止められた。
道を戻って大門近くのギルドで様子を聞くことにする。
「魔獣いるの?」
受付のお姉さんに聞いた。
「海竜っていう大きな魔獣よ。危ないから近寄らないでね。」
「うん。」
「シェル様!」
見覚えのあるおっさんが駆け寄って来る。
「えっと、ビス・・ビスケット?」
「ビスマルクです。探しておりました、2階に上がって下さい。」
嫌な予感しかしない。
「シェルだと」
「あれがドラゴンスレイヤーのシェルか。」
「あの歳でSランクかよ。」
ごちゃごちゃと騒いでいる冒険者達を残して2階に連れて行かれた。
「南に向かったと聞いたので探していたところだ。海竜を倒して欲しい。」
いきなりギルマスから討伐依頼の話が出た。
「なんで?」
「港が塞がれて商船も漁船の出港出来ん。商会も市場も閉鎖せざるを得ない状況だ。海竜の尾で船が10隻程沈められた。見物に来たバカ共が10人程食われた。魔法もバリスタの大矢も全く効かん、お主に頼るしかない。」
それはどうでも良い。
「屋台は?」
「屋台って何だ?」
「イーカ焼き、オクト煮。」
屋台が無ければお買い物が出来ない。
「船が出られないから市場も閉まっている。屋台が出ている筈があるか。」
「・・・・。」
それは大変だ。
「王国にとっても最大の港だ。王宮からの指名依頼も来ている。引き受けてくれ。」
指名依頼よりも屋台が大事。
「うん。」
ギルマスが今までの状況を整理して教えてくれた。
尾を突然振り回して船を壊し、人間を海に落とすらしい。
人間を飲み込んだ時も海水ごと吸い込むので、口の中は見えなかったらしい。
頭や首はバリスタですら弾かれたそうだ。
海上に出ている部分が無理なら海中から狙うしかない。
岸壁に行くと、防波堤の所に大きな首が見える。
ギルマス達に見送られて海に飛び込んだ。
隠蔽魔法全開で魔力と気配を消して海底を走る。
頭上に海竜の大きなヒレ見える。
いつでも転移が出来るように転移の目印を頭に刻み込んで慎重に海竜の下を潜る。
海竜の後ろに回った所で海底を蹴ってゆっくりと海竜に近づいた。
魔力を練る。大きさは50㎝、2~30mは進むから心臓まで届く筈。
”闇穴“
至近距離で海竜の尻穴に闇穴を打ち込んですぐに転移。
転移したとたんに凄い速さの流れに押し流された。
海面に出るとかなり離れた所で海竜が暴れている。
体の中をゆっくりと闇穴が進んで体に穴を開けている筈。
探知魔法のマーカーの光が小さくなっていく。
海面から空に飛んで海竜に向かう。
首が海に倒れ落ちる直前で海竜に手を当ててアイテムボックスに放り込んだ。
岸壁に戻ると大騒ぎをしている。
「どうなった?」
「倒した。」
「海竜は?」
「魔法袋。」
アイテムボックスは秘密。
「60m、いや尾を入れれば70mはあったぞ。」
「うん。」
「その袋はそんなに入るのか?」
「うん。」
嘘ではない。もしも空なら楽に入る。
「向こうの広場で出してくれるか。」
「血抜き。人、離れる。」
「承知した。遠くから見るのは良いか?」
「うん。」
警備兵達がロープを持って人を遠ざけた。
隅に大樽を並べる。
海が赤く染まっていたので大量に出血したようだが、まだかなり残っている筈。
ドラゴン種の血は薬の素材としても貴重。
“血抜き“
海竜の上に赤い球が浮く。
大きくなっていく赤い球から樽に血を注ぐ。
赤い球が消えた。
海竜の大きさからすればだいぶ少なくなってはいたが、大樽12個分の血が採れた。
「尻ダメ、他触っていい。」
「みんな良く聞け。尻の所は絶対に触るな。他は触ってもいいぞ。」
警備兵が尻穴の所を警備してくれた。
皆が近寄って触っている。
尻穴の所は少し離れた所から覗き込んでいる。
「何の魔法を使ったんだ?」
「秘密。」
闇魔法は秘密だ。
「しかし凄いな。あの海竜を1撃かよ。」
「屋台は?」
「幾らなんでも今日は無理だ。漁船が漁から帰ってからだから早くても明後日だな。」
ぐぬぬ。
海竜を全部買い取るのは無理と言う事で、長い首の上半分と頭、ヒレ1枚を王国が買い取ることになった。
その晩は念願のマストの上で眠れた。




