20 北に向かえば良かった
目が覚めると視線を感じる。
俺が眠れるように静かにしていてくれたらしい。
「目が覚めたか。」
「うん。」
「魔獣は温泉都市に向かったのか?」
温泉都市って何だ?
「知らん。」
「・・・・。」
「調べる。」
洞窟の入り口に行って、探知魔法の範囲を広げる。
魔獣は多いが強力な魔獣や上位種の大型魔獣はいない。
通常種の大型魔獣も数が少ない。
15km程先に大勢の人間がいるのが判った。
周囲には魔獣が少ない。スタンビート対策の本営?
他にも何か所か、人間がいる洞窟がある。
「皆、運ぶ。」
「運ぶ?」
「重力魔法。」
一人を浮かせて手を引くと簡単に動く。
ロープの束を出す。
「腰に巻く。纏めて引っ張る。」
盗賊を運んだやり方。
リーダーらしい兄ちゃんが皆にロープを巻くように指示を出してくれた。
ロープの根元を一纏めにして結ぶ。
皆を浮かせて洞窟を出た。
「ヒエ~ッ。」
「おお~っ。」
喧しいが無視して飛ぶ。
「キャ~!」
時々飛行系の魔獣が襲って来るのを撃ち落としながら進む。
大勢の人間が見えて来た。
俺達を見上げている。
ゆっくりと着地すると場所を空けてくれた。
「君は何だ?」
おっさん達が剣を構えている。
「シェル。まだいる、助けに行く。」
空に飛んだ。
2か所目は入り口の見張りに驚かれたが、無事に運べた。
3か所目は揉めた。
「私を背負って王都に飛びなさい。父上にお話してすぐに援軍を送って頂くので他の者はここで援軍を待つのよ。」
危険な女がいた。
胸に巨大な凶器を持っている。
命が危ない。
干し肉と水の樽を置いて逃げた。
4か所目を終えた所で日が暮れた。
大人数を浮かせて魔獣から守りながら20km近く飛ぶのは時間も掛かるし疲れる。
「話を聞きたい。」
「疲れた、寝る。」
おっさん達が来たが、無視して近くの木の枝で寝た。
この辺りには森が残っているので寝床は選び放題。寝心地の良い枝を見つけられた。
夜明けと共に干し肉を齧りながら5か所目の洞窟に飛ぶ。
洞窟にいた人達に干し肉と水を与えて元気を回復させる。
腰にロープを巻かせて重力魔法で浮かせる。
ロープを引っ張って森の上を飛んだが、暴れる程の元気も残っていないようだった。
何度か探知範囲を変えて捜索したが、残るは凶器を持った女の所だけ。
干し肉と水を置いてきたので大丈夫な筈。
洞窟を目指して飛んでいたら、捜索中らしい大勢の兵達に出会った。
「この先500m。山の麓、洞窟。23人。」
すぐそばに見える山を指して伝える。
「感謝する。」
隊長らしいおっさんが了解してくれた。
助かった。
凶器を持った女は危険。
俺は経験から学ぶことが出来る子だ。
人間が多くいる場所に戻った。
おっさん達が走って来る。
「兵隊、洞窟、行った。」
「そうか、ご苦労であった。」
「シェル様!」
見覚えのあるおっさんが走って来た。
「えっと、チェペリ?」
「ツェッペリンで御座います。ご無事で何よりでございました。」
「ツェッペリン、この子供は誰だ?」
「シェル商会のオーナー、シェル閣下で御座います。」
「閣下?」
「アリタイ王国では公爵格、国王陛下の盟友でもあるSランク冒険者で御座います。」
おっさんが目を剥く。
「シェ、シェル閣下とは存ぜずに失礼した。この度のご助力、心より感謝する。」
「うん。」
「少年がドラゴンを倒したと召喚術者から報告があったが、シェル閣下であればさもあらんと納得致しました。」
「うん。」
そう言えばいきなり雷竜に襲われた。
4日間走り回っていたのでもうだいぶ前のような気がする。
「瘴気の沼も大穴に変えてくれたそうで感謝する。いずれ陛下から恩賞が与えられる筈です。」
召喚獣の目を借りて見ていたらしい。
そう言えば小さな飛行獣が何頭も飛んでいた。
「いらん。」
「な、なんと。」
「恐れながら、シェル様はアリタイ王国でも爵位や領地、勲章、一切を断りました。貴国で恩賞を受け取る事は無いと存じます。」
「それは誠か。」
「はい。会頭のグラーフよりそのように聞いております。」
チェベリ?さん、助かります。
「・・・・。」
「行く。」
「どちらへ?」
「南。」
「会頭に伝えておきます。」
「うん。」
ここにいるとめんどくさそうなので、とりあえず逃げた。
南に行きたいが、瘴気の沼が気になったので確認に行く。
直径1kmの巨大な穴。
壁は完全な垂直の円筒形。
飛行魔法で底に降りる。
所々の壁にキラキラした鉱石が見えるが、無視。
底に大きな反応があったから。
生物では無く鉱物の反応。
8km程で底に着いた。
50㎝程の真っ黒な丸い球。
俺のナイフと同じ?
精密鑑定を掛ける。
“鑑定 瘴縮鋼 膨大な瘴気が凝縮された鋼 闇魔法でのみ成形可能”
闇属性の成形魔法は難しすぎて今の俺には無理。
レイおじさんなら喜びそう。
アイテムボックスに放り込んで地上に戻り、南に飛んだ。
南へ、南へ。走る、飛ぶ、転移する。
探知魔法で探りながら南を目指す。
ふと気が付いた。
暑い。
今は夏が近い。
王都にいても夏は暑い。
南はもっと暑い。
しまった、今回は北に向かえば良かった。
突然探知に妙な地形が入って来た。
現地に飛んで驚いた。見渡す限りの水。
高く飛んでも向こう岸が見えない。
水辺に降りてみる。
妙な匂い。
水を舐めた。
しょっぱい。
判らん。
周囲の地形を覚えて王都に転移する。
レイおじさんの屋敷に行って聞いてみた。
「それは海じゃ。」
「海?」
「王都の西に小さな島がある湖があるのを知っておるか?」
「うん。」
「この大陸は海と言う大きな湖に浮かぶ島のようなものだ。」
「・・・・。」
判らん。
レイおじさんに瘴縮鋼を上げたら喜んでいた。
転移で海に戻った。
レイおじさんから教えて貰った水の中で呼吸できる魔法を使って海の中を歩く。
息をするのに必要な空気を水から取り出す魚の鰓のような役割の結界らしい。防御力は低いので注意しろと言われている。
成る程水中でも息が出来るし、濡れないで済むのが良い。
ただ動きが圧倒的に遅い。
魚やカニを捕まえようとしたが、簡単に逃げられた。
少し深くなると急に暗くなる。
海の中は楽しい所では無かった。




