2 ボケンシャと出会った
寝床にしていた森を出て13日。
ニンゲン?に出会った。
でかい。
ソウゾウシイお爺さんよりもでかい。
4人とも俺の倍くらいある。
母さんが教えてくれた巨人族?
「ねえ、そこの君。」
巨人達が立ち止まり、巨人の姉ちゃんが俺に声を掛けて来た。
”俺?“
「ねえ、聞こえていたら返事して?」
“聞こえているよ”
「私の事が判る?」
念話が通じない?
困った、生まれてこの方念話しか使った事が無い。
「あ~。」
うん、声は出る。
「ねえ、君一人?」
「・・・、うん。」
出来た、ちゃんと答えられた。
「親は?」
「空?」
上を指さした。
「両親二人ともか?」
腰に剣をぶら下げた巨人の兄ちゃんが聞いてくる。
「うん。」
「・・・そうか、辛い事を聞いてすまん。」
良く判らないが兄ちゃんが納得しているみたいなのでまあいいか。
「ここで何をしているの?」
「街、行く。」
念話ならすらすら答えられるのに口で答えるのは難しい。
「私達も街に戻るところよ、一緒に行く?」
悪い人ではなさそうだ。
「うん。」
どうやら4人は巨人族では無く、普通の人間らしい。
俺もいつか4人のように大きくなると聞いてびっくり。
姉ちゃんはコマン、剣の兄ちゃんがダンテ。
一番ごっつい盾の兄ちゃんがテスト、槍の兄ちゃんがリシュ。
4人は草原の風というパンティー?でボケンシャ?という仕事をしているらしい。
「野営の準備をするから待っていてね。遠くに行ってはダメよ。」
「うん。」
兄ちゃん達が棒を立て、布を掛ける。テントと言うものらしい。
盾の兄ちゃんが石を組んで竈を作っている。
父さんに教えて貰ったので竈は俺にも判る。
竈を使うなら薪がいる筈だ。
「木、持って来る。」
うん、ちゃんと話せた。
森に入って枯れ枝を拾う。ついでに食べられる草も見つけた。
川辺に戻って腰の袋から枝や草を出す。
「おい、それって魔法袋なのか?」
何故か兄ちゃんが驚いている。
魔法袋が何かは知らないが、凄い袋らしい。
「父さん、貰った。」
「お父さんの形見なのね。とっても高価な物だからあまり人前で使っちゃダメよ。」
「そうだぞ、盗まれないように注意しろ。」
「うん。」
凄い袋らしい。父さんに貰ったものだから勿論大事にする。
「シェルはここで待っていてね。」
「うん。」
街に行く途中で剣の兄ちゃんが黒猪を見つけた。
襲って来た訳ではないが、食べる為に命を奪うのは悪い事ではない。
剣の兄ちゃんが猪を挑発してこちらに逃げて来る。
猛然と追いかけて来た猪を盾の兄ちゃんが止め、姉ちゃんの弓と兄ちゃんの槍で弱らせて剣の兄ちゃんが止めを刺した。
慣れているらしくそれぞれの役割を果たす連携の取れた攻撃?
でも素材となる革が傷だらけ、ちょっともったいない。
盾の兄ちゃんと槍の兄ちゃんが猪を縛ると頭を下にして木に吊るした。
「何、してる?」
初めて見る光景に思わず聞いてみた。
「血抜きだ。直ぐに血を抜かないと肉が不味くなるからな。」
「血抜き、出来る。」
「「えっ?」」
“血抜き”
猪の上に血の玉が浮く。血玉がどんどん大きくなる。
血玉を森の奥にポイっと捨てた。
「出来た。」
「「「ええっ。」」」
剣の兄ちゃんが猪を確認している。
「本当に血抜きが出来ている。」
「それって魔法?」
「うん。」
「他にも魔法が使えるの?」
「結界?」
「結界も張れるの? ねえ属性は何?」
「闇、光、無?」
「闇と光、それに無か。聞いた事も無い組み合わせだな。」
「母さん闇、父さん光、お爺さん無。」
「そうか、遺伝か。なるほどな。」
「闇属性は嫌う人もいるから属性を聞かれたら光って答えておきなさい。」
「うん。」
闇属性は嫌われるの?
「治癒魔法や回復魔法も使えるのか?」
「うん。」
「この歳でこれ程の魔法が使えるって、シェルは天才だな。」
「テンサイ?」
「凄いってこと。」
「母さん父さん、もっと凄い。」
「それはそうだろうな。ともかくシェルは凄いよ。」
「・・・。」
良く判らないが褒められたらしい。
「血抜きが済んだから解体だ。」
兄ちゃん達が黒猪を草の上に降ろした。
2m程の猪に剣のにいちゃんと槍の兄ちゃんが解体用のナイフを入れていく。
弓の姉ちゃんと盾の兄ちゃんは座って見ている。
「私は苦手なの。」
「俺は不器用だから。」
コマンとテストがきまり悪そうに言い訳してる。
解体をしている二人もあまり上手いとは言えない。
「手伝う?」
「出来るのか?」
「うん。」
「だったら皮を剥ぐのを手伝ってくれ。」
2人の手伝いを始めたが、気が付いたら俺が一人で解体をしている。
ダンテもリシュもポカンとして俺を眺めている。
一人の方が慣れているので助かる。
手早く解体を済ませた。
「これ、袋に入れる?」
「入るのか?」
「うん。」
肉や素材を腰の袋に入れた。
「「「「・・・・」」」」
「どうしたの?」
「凄いな。」
俺には何が凄いのか判らない。
「いや魔法袋も凄いが、解体の手際にはもっと驚いた。」
「ああ、ギルドの本職並みだ。」
「母さん、教えて・くれた。」
おっ、最長記録? ちゃんと話せた。
「お前の両親は凄い冒険者だったんだな。」
「ボケンシャ?」
「いやいや、ボケンシャじゃなくて冒険者。魔獣討伐や薬草採取をする仕事だ。」
「良く判らない。」
「まあいい。とにかく助かった、ありがとうな。」
途中でいくつかの薬草を採取しながら、翌日の夕方街に着いた。
でかい。
大きな石を積み上げた壁で囲まれている。
真ん中に大きな穴。
その前に大勢が並んでいる。
皆でかい。
人間のオトナはこの大きさらしい。
「その子は何だ?」
大きな穴の所で髭のおっさんに声を掛けられた。
「両親が死んで森で迷っていたんだ。」
いや、母さんも父さんも空に上っただけで死んで無いから。
上手く話せないので黙っていた。
「そうか、それは大変だったな。」
「とりあえず連れて来たので、ギルマスに相談する。」
「おう、そうしてやれ。」
4人に連れられてギルドと言う所に行った。
「これがさっき聞いた子供か?」
狭い部屋で待っていたらギルマスというおっさんが来た。
「ああ、薬草採りも解体も1流だ。しかも治癒魔法も使えるらしい。」
「孤児院に預けるのは無いな。」
「俺もそう思う。」
「坊主はどんな仕事がしたい?」
「どんな仕事?」
仕事は知っている。
魔獣を倒したり木の実を探して食べ物を見つける事だ。
他にあるの?
「金を稼がなければ食べて行けない。仕事をすれば金を貰える。」
「カネって何?」
「・・・・。」
ギルマスとコマンが銅貨とか銀貨、金貨を出してお金のことを教えてくれた。
判らん。こんなものは食えん。
薬草がお金になるというので腰の袋から薬草を出した。
「どんだけ入るんだ?」
テーブルに積み上げられた薬草を見てギルマスが呆れている。
「父親の遺品らしいが、狙う奴も出て来るから出来るだけ秘密にしてくれ。」
「それはそうだな。この魔法袋だけで1財産だ。これも何かの縁だ、とりあえず見習い冒険者登録をしてお前らが面倒を見てやれ。」
「ああ、その方が良いだろうな。」