18 傀儡
少し走ると街に着いた。
街に入る前に転移の実験。
うん、隣の国でも転移は出来る。
転移に国境は関係ないらしい。
街の近くに戻って門の所に行った。
門が2つある。
空いている大きな門に向かう。
王都には3つ門があるが、俺はいつも空いている大きな門に行けと言われていた。
「こら、ここは貴族様専用だ。平民は向こうに回れ。」
怒られた。
混んでいる門に並んだ。
妖精さん達の様子がおかしい。
“どうしたの?”
“なんか嫌な感じ”
”悪い魔法?“
“気持ち悪い”
この街には寄らない方がいいかな、そう思った時に声を掛けられた。
「身分証明書を出せ。」
ギルドカードを差し出す。
“こいつ傀儡に掛かってる”
“気を付けて”
精霊さんが警告している。
「その剣をよこせ。俺が預かる。」
「嫌。」
これは妖精さんが心を込めて作ってくれた剣。
他の人には渡せない。
「捕えろ。」
兵士達が俺を取り巻く。
門の内側の小屋からも兵士が出て来るのが見えた。
めんどくさい。
空に飛び上がって逃げた。
逃げるが勝ち、父さんが言っていた。
南に飛ぶ。
街から離れた所で街道に降りて走る。
目的は訓練、飛んでいては体を鍛えられない。
時々転移で王都に帰る。うん、まだ余裕がありそう。
街道に戻って走る。
街を離れて3日後、妖精さん達が騒ぎ始めた。
“どうしたの?”
“嫌な感じ”
“街の男と同じ”
“傀儡?”
“そう”
誰かが傀儡魔法で心を操られているらしい。
“エルフが捕まってる”
“エルフは良い人、助ける”
探知魔法の範囲を広げる。
人間の反応が6つ。
空に飛びあがって接近すると馬に乗った6人が見えて来た。
おっさん4人とお姉さん2人。
お姉さん1人は縛られて馬に括り付けられている。
5人から邪悪なモノを感じた。
“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”、“麻痺”。
5人が馬から落ちた。
地上に降り立って、馬に括り付けられていたお姉さんを馬から降ろしてあげる。
「今の、君がやったの?」
「うん。」
「ありがとう。縄を解いて。」
縄を解いてあげた。
「ずいぶん妖精に好かれているのね。」
俺の周りを見回している。小さな妖精さんでも見えるらしい。
「うん、友達。」
「私はジャービ、見た通りエルフよ。」
胸には凶器がない。
危険な女性では無さそうだ。
「何か変な事を考えてない?」
「ナニモカンガエテナイヨ。」
「森の中で突然網を掛けられて捕まえられたの。助けてくれてありがとう。」
「妖精さんが、助けろって。」
「皆さんありがとうね。」
周りを見回しながらお礼を言っている。
「傀儡。」
倒れている5人を指さした。
「えっ、こいつら傀儡で操られているの?」
「うん。街も。」
「精霊魔法で解けるけど、この首環で魔法が使えないのよね。」
ジャービの首に黒い首環が付いている。
鑑定すると魔封じの首輪。魔力を使えなくするらしい。
魔力吸収と魔法無効?
あれ、王宮の禁書庫といっしょ?
魔力の流れを追っていく。
禁書庫の結界に比べれば遥かに単純。
あちこちに変なトラップがあるけれど、直ぐに核心の魔法陣にたどり着いた。
えっと、この文字を変えて、ここに魔力を注ぐ。
「えっ、外れた?」
魔封じの首輪が地面に落ちている。
「君がやったの?」
「うん。」
「これって設定した魔導士で無いと解除できないのよ。」
「そうなの?」
解除してはいけなかった?
「ともかく、有難う。助かったわ。」
解除しても良かったらしい。
「こいつらの傀儡を解除するけど、もしもの為に縄を掛けておきましょう。」
5人に縄を掛けた。
「××〇△×〇△!」
5人が光に包まれた。
妖精魔法による浄化だ。
父さんが使っていたのよりずっと弱いけど効くのかな。
「な、なんだ?」
「何で縛られているのよ。」
「どういうことだ。」
効いたらしい。
「街の入り口で疑惑があるからと捕らえられて牢に入れられたの。」
「すぐに釈放されると思ったからおとなしく捕まったんだけどな。」
「それからずっと食事も貰えなくてフラフラになった時に魔導士が来た。」
「私もそう。そこまでは覚えているけど、・・・。」
「傀儡は心が弱っていると掛かりやすくなるの。あなたたちひょっとして結構強い?」
「Bランク、王都のギルドでも結構名の売れたパーティーだ。」
「だから手間をかけて弱らせてから傀儡を掛けたのね。」
「くそっ、ぶっ殺してやる。」
「それよりもエルフの捕獲は重罪よ。王都のギルマスに相談した方が良くない?」
5人が急に慌てだした。
「・・・・、そうだな、そうしよう。」
何故か俺も一緒に王都に向かう事になった。
俺はリーダーであるサウスの馬に、ジャービは魔導士のヘレナの馬に乗せて貰った。
初めての乗馬、めっちゃ揺れる。
サウスにしがみ付いているだけで精一杯だった。
野営の道具も無いと言う事で馬を休ませる小休憩以外はひたすら馬を走らせて3日、王都カリメアに着いた。
国境の街よりもだいぶ南東?
目指していた方向からはだいぶ逸れてしまっている、まあいいか。
「すまん、ギルマスに至急の報告だ。通して貰うぞ。」
「サウスか、通れ。」
門の警備隊は知り合いらしく、顔パスで通過させてくれた。
「何だと! すぐに王宮に知らせろ。」
事情を聴いたギルマスが怒って職員のおっさんに怒鳴った。
そもそもがサウス達疾風の嵐は代官からの指名依頼で街に向かったそうだ。
それが護衛隊によって捕らえられ、傀儡魔法でエルフ狩りに使われた。
指名依頼を疾風の風に伝えたギルマスも利用されたらしい。
めっちゃ怒っている。
「すぐにギルドカードの使用歴を調べろ。」
奪われたギルドカードから現金が引き出されたかを調べるらしい。
職員が登録の魔導具を持って来た。
サウス達が次々と魔導具の水晶に掌を乗せる。
「全額引き出されております。」
ギルド職員が魔導具の表示を読み取ってギルマスに伝えると、ギルマスの顔が強張る。
「ギルド職員が絡んでいる可能性もあるな。」
苦虫をかみつぶしたような顔だ。
俺はソファーの隅で眺めているだけ。
「これが魔封じの首輪か。」
「ええ、この坊やが外してくれたの。」
ジャービが説明する。
「疾風の嵐を全員麻痺させた上、魔封じの首輪を外したのか。さすがはエルフだな。」
「エルフじゃ無いわよ。精霊に教えられて助けに来てくれたのよ。」
「待て待て、傀儡の魔法を掛けられていても疾風の嵐はBランクパーティーだ、こんな子供が倒せる相手じゃないぞ。」
「この子は普通じゃないわよ。魔封じの首輪の解除は大魔導士級で無いと無理だもの。きっと凄い魔導師だと思うわ。」
「おい坊主、そうなのか?」
俺って魔導師なの?
「知らん。」
「名前は何だ?」
「シェル。」
「なんだと、アリタイのシェルか?」
アリタイって何だ? 聞いた事があるような無いような。
「アリタイ?」
「すまぬ、ギルドカードを見せて貰えないか。」
「取られた?」
忘れてた、カードは門の所で渡したままだった。
「なんだと! いや、すまん。申し訳ないがこの水晶に掌を置いて貰えるか?」
「うん。」
俺が登録の魔導具に掌を当てる。
「間違いありません、Sランク冒険者アリタイのシェル閣下です。」
「「「ええっ!」」」
部屋中の人間が声を上げた。
「毎日金貨99枚を引き出されております。」
「99枚?」
何で99枚なんだ?
思わず声を上げてしまった。
「100枚以上は魔導具による本人確認が必要です。他人が引き出せるのは1日に99枚までですから。」
お姉さんが教えてくれた。
引き出したのは妖精剣の鞘を作った時だけ、あの時は99枚よりも少なかったから水晶球に手を当てる事も無かった。
うん、知らなくても当然だ。
何故かギルマスが頭を抱えている。
「どうしたの?」
「誠に申し訳ない。毎日99枚を引き出しているとなればギルドの関与は明白だ。しかもカードを取り上げたのは代官支配の警備隊、王国の役人だ。俺の判断でどうこうできる問題ではない。説明の為に王城に行って頂きたい。」
王城?
なんで王城?
全然意味が判らないが、おっさんが困っているようなので一緒に行くことにした。
「この度は迷惑を掛けた。直ちに兵を差し向けたので決着がつくまで王城に滞在して頂きたい。勿論王城内を自由に歩いて貰って構わないし、王都を見物して貰っても良い。」
王宮の客間で待っていたら高そうな服を着たおっさん達が来て俺に頭を下げた。
良く判らないが、一緒に待っていたエルフのお姉さんも疾風の嵐もソファーから立ち上がり、直立不動で固まっている。
俺はソファーに座ったまま美味しいクッキーを食べている。
とりあえず口の中のクッキーを飲み込んだ。
食べながらしゃべると口の中のクッキーが飛び出して勿体ない。
めっちゃ美味しいクッキーなのだ。
「うん。」
王都見物もしたいからまあいいか。
「シェル閣下は凄いですね。」
「閣下嫌い。シェル。」
「俺も敬語は苦手だから助かる。しかし陛下の前でも堂々としていられるなんてさすがはSランク冒険者だ。」
「そうなの?」
「普通は陛下の前では緊張するものだ。」
「シェルはレイスキングと話をした男だからな。」
「確かにレイスキングよりは陛下の方が楽だ。」
いやレイおじさんはお友達だから。
王都見物と言う事で、有名な公園や広場を疾風の嵐に案内して貰い、今は王都の有名な茶房のテラスでお茶を飲んでいる。
大きな音がすると思ったら数十騎の騎士達が通りを走り抜けていった。
「何かあった?」
「あれは第3騎士団だな。昨日第1騎士団が出発したから応援部隊だろう。」
サウスが説明してくれる。
「何で?」
「何でって、シェルの1件に決まっているだろ?」
「俺?」
「シェルは公爵待遇だ。公爵が他国の役人に持ち物を奪われ、捕えられそうになったとなれば外交問題だ。それにギルドも加担していたとなれば、ギルド本部の責任問題にもなる。ギルドも大騒ぎで、ギルマスが非常招集を掛けて冒険者達が派遣されたそうだ。」
「そうなの?」
良く判らないが何か大きな事件が起こったらしい。
俺には声が掛からなかったし、ここのお菓子は美味しいから問題ない。
「シェルは何も心配しなくていいの。」
「そうよ、シェルのお蔭で不正が判ったんだから後は他の人に任せておけば良いわ。」
ジャービとヘレナが慰めている?
何のことか判らないし、俺は何も心配していない。
唯一の心配はヘレナが胸に凶悪な兵器を持っている事。
ヘレナには逆らわないようにしよう。
暇なので王宮の書庫を見せて貰ったり騎士団の訓練に参加したりしているうちに2週間が経った。
食事も美味しいし騎士団との訓練も楽しかったが、木の上で寝るのを止められてしまったのが少し残念。ふかふかのベッドではあまりよく眠れなかった。
「誠に申し上げ辛いが、この度の件はカリメア国の指名依頼と言う事にして頂きたい。」
宰相のおっさんに言われたが、何の事か良く判らない。
「代官が魔導士と組んで私服を肥やすためにエルフの奴隷売買を行ったというのが今回の真相であった。その際にギルドカードを奪えば冒険者の口座から金を引き出せると気が付いてギルドマスターを代官の娘が篭絡、高ランク冒険者に言いがかりをつけて捕縛するという悪行を行うようになった。シェル殿が役人の捕縛を免れたので事件が発覚したのであるが、事実をそのまま公にすれば、カリメア王国の名もギルドの名誉も傷つくことになる。」
「はあ。」
全然判らない。
「そこで、本件は不正を行う高位魔導士の討伐をシェル閣下に依頼したと言う事にして頂きたい。」
意味が判らないのでジャービとサウス達の顔を見た。
「要するにシェルが魔導士の不正を暴いて、証拠を王国に報告したと言う事ね。」
「魔導士は勿論代官とその1族も処刑した。奴隷とされたエルフの発見と奪還にも全力を挙げている。奴隷とされたエルフには相応の保証金も支払う。エルフ捕縛を行った疾風の嵐は傀儡の影響下にあった事と、事件解決に大きな貢献をしたのでエルフ捕縛の罪は問わない。ギルドカードの操作によって奪われた金は規定に従って3倍の返金をする。」
「俺達の罪が消えるなら有難いが、・・・。」
「私もカリメア王国が責任を持ってエルフ達を戻してくれるなら異存はないわ。長老たちも納得してくれる筈よ。」
ジャービとサウス達は良いらしい。
「うん、いい。」
俺は何もしていないし、良く判らないからどうでも良い。
「感謝する。」
宰相のおっさんが頭を下げた。ギルマスのおっさんも頭を下げている。
宰相のおっさんもギルマスのおっさんもほっとしている?
みんなが喜んでくれるならそれでいい。
「くそっ、こんなことならもっと金を貯めておくんだった。」
槍のサミュエルと盾のロバーツが嘆いている。
「めっちゃ儲かった。」
ヘレナとシーフのダコタはニコニコ顔。
牢に入れられずに済んだし、全財産が3倍になって戻って来たのだから皆が喜んでいるけど、喜び具合には温度差があるようだ。
リーダーのサウスは疾風の風が罪に問われなかった事の方が嬉しいらしい。
「シェルには世話になった。俺達に出来る事があればいつでも声を掛けてくれ。」
「そうとも、命がけで手伝うからな。」
「本当にありがとうね。」
ヘレナに抱きしめられる。
苦しい。
ギブ、ギブ。背中を叩く。
「こら、シェルが苦しがっているじゃない。離しなさい。」
「ぶふぁっ。」
ようやく息が出来た。
油断してヘレナが凶悪兵器を持っている事を忘れていた。
「ごめんなさい。私胸が大きいから。」
「なんで私の胸を見るのよ。」
ジャービが怒っている。
危険を察知して1歩下がる。
何故かサウス達も俺と一緒に下がっている。
うん、危険な事には近寄らない方が良い。
「何でみんな離れてるの?」
「そうよ、どうしてなのよ。」
「「「あはははは。」」」
「「笑って誤魔化すな!」」
男性陣が纏めて怒られた。
思わぬ大金が貰えたからと疾風の風は王都で買い物をするらしい。
ジャービも多額の報奨金が貰えたので王都で村へのお土産を買って帰りたいらしい。
カリメアに用の無い俺は暖かさを求めて南西に旅立った。
買い物は苦手だ。
昨日投稿操作のミスで、第5作 ”吾輩は猫(仮)である 第1話” をフライング投稿してしまいました。
竜騎士完結後に第2話を投稿する予定です。
ミスばかりで済みません。




