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17 美味しいは正義

春、教授の研究室に行ったら宰相と王太子の兄ちゃん、そして知らない姉ちゃんがいた。

「こちらは王太子の婚約者、ロイテル嬢で御座います。」

宰相が紹介してくれた。

誰?

コンヤクシャって何? コンって啼くヤクシャ?

「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。3年前、強盗を装った傭兵に襲われたところをシェル様に救われました。雇ったのが侯爵家であるという証人の捕縛にもシェル様にご尽力いただきました。貴族家同士の事ですので表立ってお礼を申し上げる事も出来ず失礼致しましたこと、お詫び申し上げます。」

「はあ。」

報酬は貰った、と思う。

確認はしなかったけどギルマスが振り込んだって言っていた。

「俺の婚約者を誰にするかで貴族同士が揉めていた訳だ。王家としてはロイテルで決まっていたので、娘を婚約者にしようとした侯爵家がロイテルの暗殺を企てた。それをシェルが防いだわけだが、高位の貴族同士の事なので表ざたにすることが出来なかった。そして今回の事件だ。」

「今回の事件?」

「シェルを襲ったバカ息子。父親の侯爵家は隣国の王女を俺の嫁にしようと色々と裏工作をしていた1派の中心人物だった。」

「はあ。」

「公爵待遇のシェルに3人がかりで襲い掛かってくれた。嫡男の振る舞いは侯爵家当主の責任。社交シーズン中は3家だけでなく1族も謹慎。隣国の王女どころではなくなって王女の話が消えた。」

「はあ。」

バカ息子もかかわりがあったんだ。

俺は何にもしていないけど、王太子が喜んでいるからまあいいか。

「シェルのお蔭で新年の儀において俺の婚約発表が行われた。秋には挙式となる。」

何かを自慢しに来た? 

めっちゃ嬉しそう。

「挙式の前に恩人であるシェルに一言お礼を言いたいとロイテルが言ったので連れて来たという訳だ。」

「王家の褒賞すら断るお方なので、何も差し上げる物は御座いませんが、甘い物がお好きと伺いまして我が家の料理長が心を込めて作りましたシフォンケーキをお持ちしました。どうぞご笑納下さい。」

扉が開いて料理長らしいおっさんが大きなシフォンケーキを持って来る。


メイド達が切り分け、香りの高いお茶を淹れてくれた。

「美味しい!」

思わず叫んでしまった。

山には甘い物が少なかったから甘い物は嬉しい。

「本当に美味しいわね。」

教授も嬉しそう。

「ありがとう、とっても美味しいよ。」

料理長に言うとおっちゃんが笑顔になった。

「お姉さんもありがとう。」

あれ、お礼の順番を間違えた? 

王太子がしかめ面。

お姉さんが嬉しそうにしているからまあいいか。

「爵位も領地も勲章も即断で断った英雄がお菓子一つでこれかよ。」

王太子は呆れただけらしい。

美味いものは正義、当然だ。

爵位や領地は食えん。

「喜んで頂けて良かったですわ。本当にお世話になり、ありがとうございました。」

うん、良いお姉さんだ。



「結婚式には是非ともシェル閣下に参列して頂きたいと陛下のお言葉がありました。」

今日も宰相が来ている。

「嫌。」

「何故に?」

「風呂が恥ずかしい。」

「はあ?」

「洗われるのが恥ずかしい。」

「謁見の儀の折には王都でも有名で貴族達も多く通うという最高級の湯屋から湯女を呼びましたが、ご不満だったでしょうか。」

「王宮の人では無いの?」

「王族は風呂に慣れておりますので侍女が2人、乳母の監視の下で背中を洗うだけだ。冒険者は風呂に入ることはめったにないと聞いたので、全身を洗う湯女がいた方が良いと進言された。」

「閣下、その湯女を紹介したのはどなたですか?」

執事長らしいおっさんが口を挟む。

「ソープ子爵だが、それがどうかしたか?」

ソープ子爵と聞いて、執事長のおっさんと護衛の騎士が額に手を当てて天井を見上げている。

「どうした。」

「ソープ子爵は夜遊びで有名な方。毎晩のように怪しげな店に出入りしていると聞き及んでおります。」

「そうなのか?」

「はい。恐らくその湯女はその手のお相手をする湯女かと。」

「・・・・。」

宰相が固まっている。

何かあった?

「失礼ながら、どのような事が恥ずかしかったのでしょうか。」

執事長のおっさんに聞かれた。

いや、恥ずかしかった事なんか言えないよ。

思い出すだけでも恥ずかしいんだから。

思い出したら顔が熱くなった。

「良く判りました。失礼な事をお尋ねして申し訳ありませんでした。」

執事長が引き下がってくれた。

何故か結婚式の出席はしなくていいと言う事になった。

有難い。



せっせと魔法袋を作っている。

グラーフから増やして欲しいという注文があったから。

王宮や諸国からも注文があったらしいが戦争が増えると断ったそうだ。

俺には良く判らないが、戦争をしやすくなるらしい。

戦争はダメだ。

シェル商会は規模が大きくなって取引国が増えたので魔法袋が欲しいらしい。

魔法袋は斑蛇の第3、第4胃袋に亜空間を閉じ込めて作る。

外側はワーバーンの革。

大きい物は紫斑蛇、小さいのは黄斑蛇の素材で作る。

どれもアイテムボックスに入っている。

結構手間が掛かるので夏休み中ずっと製作に追われてしまった。

マーカーと使用者制限を付けているので取られても安心。

魔法袋狙いの強盗に襲われたら魔法袋を捨てて逃げればいい、大切なのは命。



秋になって恒例の身体測定。

なんと4㎝も伸びて133㎝。

このまま順調にいけば30歳では2mを超える。

「12歳だと150㎝位が普通なんだけど、・・・。」

教授の独り言は聞かなかった事にした。

食堂で夕食を摂って木に戻る。

寮の部屋は全く使わないのでだいぶ前に引き払った。俺の帰るところは木の枝の上。


門番のおっちゃんから声を掛けられた。

「王妃殿下からなるべく早く王宮へ参内するようにとのご伝言がありました。」

何の用事かさっぱり判らん。

王城に行くと衛兵に指示してあった様ですぐに客間に通された。

「シェル、高価な肌の薬があるそうだな。」

「はあ?」

意味不明。何のこと?

「手に塗る薬を顔に塗ってみたところ、肌がツルツルになった。」

「はあ。」

まあ顔も皮膚だから。

「ギルドに問い合わせた所、上級品のレシピがあると判った。作って欲しい。」

そう言えば代替素材や効能を書いたような気がする。

「・・・・。」

その為に呼んだの? 

レシピは渡したんだから、ギルドで作って貰えばいいんじゃね?

「ギルドに作成を依頼したら、上級品の素材を集められるのはシェルだけと断られたそうじゃ。」

「はあ。」

「急ぎ素材の採取に向かって欲しい。指名依頼の書類も用意してある。」

めっちゃ目が怖い。

最近は危険察知能力が向上した。

これって絶対に断れないやつだ。



「素材、ある。調理場、作る。」

「なんと、持っていると。これ、シェルを調理場に案内いたせ。」

侍女さんに調理場に案内された。

なぜか王妃のおばさんも付いて来る。

薬草を煮込みながらグレートアウルの肝臓を磨り潰す。

黒角馬の蹄を真空空間で瞬間冷却。

脆くなったところを重力魔法で粉砕する。

レイおじさんに教えて貰った粉末作成法。

火属性や水属性が無くても無属性魔法で出来る優れもの。

煮詰めた薬草を濾した汁に闇属性の魔力を注入、素材、粘り草とスライムの粉を入れて混ぜ混ぜ。

最後にドラゴンの血を入れて混ぜ混ぜ混ぜ混ぜ。

出来た。

鑑定してみる。

“鑑定 美容クリーム 浄化、活性化、保湿、保護”

ビヨウって何だ? 

名前が意味不明だが、問題は無さそう。

少量を手の甲に塗ってみる。うん、大丈夫そう。

顔に塗ってみる。問題は無い。

「侍女さん、試す。」

「お願いします。」

侍女さんの手の平に少し載せた。

侍女さんが指で掬って顔に塗る。

「凄い、全然べとべとしないのにお肌がつるつるになりました。」

「私にも。」

王妃のおばさんも手を差し出して来た。

掌に美容クリームを少し載せる。

王妃のおばさんがもっと乗せろという顔。

「多く塗る、ダメ。これくらい。」

おばさんが顔に塗っている間に浄化した小瓶にクリームを入れる。

10本出来た。

鍋に残ったクリームをいつの間にか集まって来た侍女さんが奪い合っている。

見なかったことにしよう。

代金はシェル商会に任せて帰った。

侍女さん達の目が怖かったから。

危険察知能力が重大な危険を警告している気がした。



「美容クリームの注文が殺到しております。何本くらい作れますか?」

グラーフが突然木の家を訪ねて来た。

「へ?」

「王妃殿下が効能を披露したので、上位貴族の夫人達に知れ渡ったようです。」

「判らん。」

「月に10本なら作れますか?」

纏めて作った方が楽。

「3か月30本。」

「ではそれで、お願いします。あまり多いと値が下がりますから。」

「はあ。」

また山に行ってグレートオウルさんに襲われておいた方が良さそうだ。



今年の冬は寒い。

南に行くと暖かいとグラーフが教えてくれた。

山に籠るよりも南に走った方が良さそうだ。

「春、帰る。」

古代語はもう読めるようになったので授業は要らない。

グラーフに告げて南に向かって走った。

暖かい。

止まると寒い。

走ったから体が温もっただけだった。

少し走ったくらいでは気候が変わらないらしい。



時々止まって周りの景色を覚えて王都に転移。

目で見えていなくても覚えている場所なら転移出来るようになった。

故郷の山へは転移が出来た。山よりも遠い所からも転移出来るかの実験。

王都に転移出来た、すぐに元の場所に転移で戻る。

時間が掛かると元の風景を忘れてしまいそうだから。

はっきりと覚えている場所にしか転移は出来ない。

元の場所に転移で戻るとまた南に走る。

大きな砦?がある。

門の前に人が並んでいる。

俺も並んでみた。


「ここ、何?」

俺の順番になったので兵士さんに聞いてみた。

「国境だ。身分証明書が無いと通れぬ。」

「ミブンショウメイショ?」

何それ、美味しいの?

「領主様か代官様の証明書かギルドカードだが、坊主はまだ小さいから無いな。」

「持ってる。」

ギルドカードを出した。

「Sランクだと!」

「うん。」

兵士さんが大勢集まって来て俺のカードを覗き込む。

「初めてSランクのカードを見ました。良い物を見せて頂きありがとうございます、どうぞお気をつけて。」

丁寧に返してくれた。


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