1 ソウイゾウシイお爺さん
作者名を免独斎頼運に変更して新作、SSランク冒険者のお仕事は下着の洗濯です ~討伐依頼? そんなものありません~の投稿を開始しました。
今迄の作品は全て改訂予定ですがだいぶ先になる予定です。
申し訳ありません。
“シェイド、ウィル、任務だ”
“”ヒェエッ!“”
父さんはともかく、いつも毅然としている母さんまでが怯えている。
“母さん父さん、どうしたの”
俺達の目の前には突然現れた白い服のお爺さん。
俺の掌に乗れる母さんや父さんどころか、大きな俺よりもずっと大きい。
“シェルよ、そなたの母と父にはなさねばならぬ任務がある”
”ニンム?“
えっと、ニンムってお仕事って言う意味だったよね。
母さんと父さんに一杯お話して貰っているから、難しい言葉も少しは判るようになった。
俺って偉い、えへん。
”もう少し共に暮らさせてやろうと思っていたが、そうもいかなくなった。そなたはもう充分に生きる力を身に付けた。人間の街に行き、人間としての生き方を学ぶが良い。“
”ニンゲン?“
ニンゲンってなんだ? 聞いた事の無い言葉?
“そなたの本当の親は人間であった。つまらぬ風習に従ってそなたを森に捨てたが、両親にも事情があっての事、恨むではないぞ”
??
何を言っているのかまるで判らない。
“シェイドとウィルは森に捨てられたそなたを哀れに思い、母父としてそなたをこれまで育てて来た”
そうなの? 俺って捨てられていたの?
俺は要らない魔獣の内臓をポイっと捨てる。
俺もポイっと捨てられたの?
“でも母さんは母さんで父さんは父さんだよ。他に母さんと父さんはいないよ”
“そうだな、それでよい。いつの日かまた母さんや父さんと会える時が来る。その時まで一人で生き抜くのだ”
“うん”
大丈夫。母さんと父さんは一人になっても生きられる力を付けてやるって言っていた。
“良い目だ。我からも創造神の加護を与えよう”
ソウゾウシイってなんだ? やかましいとは違うのか?
考えていたら俺の体が光に包まれた。
“どうだ、体に魔力が漲ったであろう”
お爺さんの言う通り、何度も魔法が使えそうなくらい力が湧いてきた。
“うん”
“母より学んだ闇魔法、父より受け継いだ光魔法、そして我が与えし無属性魔法。鍛錬を怠らずに精進すればいつの日か再び母や父と会う事も出来る。小さな事からコツコツと成し遂げよ。さらばだ”
お爺さんだけでなく母さんと父さんも空高く舞い上って消えて行った。
えっ、ええっ!
母さんと父さんは闇魔法と光魔法の使い方を丁寧に教えてくれたけど、お爺さんは説明なし?
ムゾクセイ魔法って何?
ソウゾウシイって何?
ニンゲンのマチに行き、ニンゲンとしての生き方を学べって、マチって何?
それってどこにあるの?
お爺さん説明が無さ過ぎだよ。
マチ、マチ、街。あれ、聞いた事があるような気がする。
そうだ、川は街を通ってウミに流れるって母さんが言っていた。
ウミって何だ。
まあいいか。
うん、川を下ろう。
水魔法が使えない俺にとって山は苦手。
川ならいつでも水を飲めるから安心、川を下ることにした。
いつもの通り母さんに教えて貰った隠蔽魔法で魔力を隠す。
魔獣は人間の魔力を感知して襲ってくると父さんから教えて貰った
大きな魔力を振り撒くと、めっちゃ強い魔獣が襲っている。
隠蔽で少し魔力を抑えれば、めっちゃ強い魔獣は見逃してくれる。
大型魔獣は自分よりも強いと判るので逃げる。
襲ってくる魔獣は弱い魔獣かバカな魔獣、父さんに教えて貰った光の結界魔法で防げる。
うん、大丈夫。
母さんと父さんに教えて貰った事を守れば一人でも生きていける筈だ。
石や岩だらけの川沿いは走り難い。
時々滝もある。
でも歩けるようになってからはずっと川の近くで暮らして来たから慣れてる。
岩を足場にひょいひょいと飛び跳ねながら川を下っていく。
崖を飛び降りても身体強化と結界が守ってくれる。
時々襲ってくる魔獣は貴重な食料。
”襲って来たら躊躇せずに倒せ“が母さんの教え。
”なるべくなら殺すな“が父の教えだが、必要と思ったら殺して良いとも言っていた。
倒した魔獣を母さんに貰った解体用ナイフで綺麗に解体する。
堅い魔獣の革もスパスパ切れる優れもの。
何年も使っているが全然切れ味が落ちない。
解体は俺の仕事だったから慣れてる。
“大切な命を奪ったのだから、肉や素材を無駄にしてはいけない”は父さんの教え。
使わない素材はナイフと一緒に腰に下げた袋に入れておく。
父さんに貰った袋は見た目以上にたくさん入る優れもの。
大型魔獣は逃げてしまうから襲って来た小型魔獣の肉だけではお腹が空く。
森で見つけた木の実や森に生えている草を食べる。
小さな時から母さんに毒茸や麻痺草を少しずつ食べさせられたので毒耐性や麻痺耐性が出来ている。
今では毒草や麻痺草でも普通に食料として食べられる。
“毒や麻痺の魔法を得意とする闇属性の使い手が毒や麻痺で動けなくなったら笑われる”と母さんが言っていた。
お陰で何を食べても何を飲んでも大丈夫、多分。
夜も結界を張ったまま眠れるので大丈夫、多分。
一人になるのは初めてだから判らないけど。
5日ほど川を下ると見た事の無い魔獣が木の上から飛び掛かって来た。
魔獣の姿を目にした瞬間、急所に光弾を撃ち込む。
母さんに教えて貰った敵の急所が見える魔眼と父さんに教えて貰った光弾の組み合わせ。
ジョウケンハンシャで撃てるようになれって母さんに何度も何度も練習させられた。
ジョウケンハンシャが何かは良く判らないけど、すぐに撃てば褒められた。
攻撃魔法は苦手なので威力が低い。急所を撃っても相手が強ければ跳ね返される。
そんな時は全速で逃げろと逃げ方も教えられた。
幸いにも魔獣は眉間を撃ち抜かれて絶命していた。あまり強くなかったらしい。
いつもなら母さんか父さんが使える素材を教えてくれる。
見知らぬ魔獣なので使える素材があるのかどうかも判らない。
でも命を奪ったのだから捨ててしまっては魔獣に申し訳ない。
じっと魔獣を観察する。
“鑑定 飛び兎 美味 革、爪、牙が素材”
いきなり頭の中に情報が飛び込んで来た。
えっ、ええっ。
もう一度魔獣を見る。
何も起こらない。
あれ?
もう一度魔獣を見ながら頭の中にさっきの言葉を浮かべる。
”鑑定“
“鑑定 飛び兎 美味 革、爪、牙が素材”
他の魔法と同じように頭の中に言葉を思い浮かべると発動するらしい。
ソウゾウシイお爺さんの加護で頂いたムゾクセイ魔法?
魔獣を解体して素材を魔法袋に入れた。
練習しなくちゃ。
“小さな事からコツコツと“
お爺さんの言葉を思い出し、時々止まっては鑑定魔法を掛け捲る。
“どんな魔法でも何度も何度も練習すれば精度や威力が上がる”、父さんの教えだ。
毎日新しい薬草や素材を発見できるので川下りも苦痛ではない。