第9話 魔王の幹部、BBQをする
「『テレポート!』」
リアル・ワールドの公園からマジカル・ワールドのクロカゲの城に、魔王の幹部クロカゲと早苗とすみれが移動する。
今日はドロローンも襲ってこない土曜日。
お昼にバーベキューをごちそうすると言われ魔法少女達はクロカゲの所に来たのだ。
「うわあ…、お肉たくさん…。本当にいいんですか?」
「ああ、今日は遠慮なく食べてくれ」
「うさんくさいわね…。何のお肉なのよ」
「そっちの世界のスーパーで買った国産牛だ」
「お、お金はどうしたんですか?」
「マジカル・ワールドのお金をリアル・ワールドに持って行ったらリアル・ワールドのお金に不思議な力で変換されるんだ。それで買った」
「わ、悪いお金じゃないですよね?」
「魔王が来る前にちゃんとまっとうな商売で稼いでいた金だ」
「うさんくさいわね…。ところでミソラはどうしたの?」
「ミソラならここだ」
クロカゲが部屋の奥のカーテンを開ける。
「んー! んんー!」
そこには猿ぐつわを咬まされ椅子に縛り付けられたミソラがいた。
「アンタミソラに何してんのよ!」
「BBQをするって言ったらミソラが自分が焼くと張り切っていたんだが…。ミソラが焼くと全部黒炭になるだろ?」
「………まあ、そうね」
「ゴメンねミソラちゃん。私、ちゃんと焼けたお肉が食べたいの…」
「んうー!!?」
仲間にあっさり見捨てられたミソラが嘆きの声を上げるが、早苗とすみれは黙殺する。
彼女たちはすでに、ミソラの手料理の被害に遭っていたのだった。
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「さあ、焼けたぞ」
「わあ…、ホ、ホントに食べていいんですか?」
「ああ、もちろんだ」
「い、いただきます。………んん~、おいしい~…」
「…フン、まあまあね」
「ホラ、ミソラ。君も食べろよ」
「つーん」
「あ、あの…、ミソラさん…」
「つーん」
「…その、すまなかった。謝るから機嫌直してくれ」
「つーん」
お肉を手に謝るクロカゲを、両手を組んだミソラがそっぽを向いて無視する。
「ミソラちゃん、食べないのかな?」
「ほっときなさい。それよりこっちのお肉も焼けてるわよ。早苗、食べなさい」
「い、いただきまーす」
遠慮がちにしながらも、普段滅多に食べられないお肉に早苗がかぶりつく。
早苗の「おいしい~」という声と、お肉の焼ける匂いにミソラの空腹感が刺激される。
結局食い気に負けて、ミソラがクロカゲの差し出すお肉を食べる。
「んん……おいひいれふ」
「機嫌、直してくれるか?」
「今夜一緒に寝てくれたら許してあげます」
「いや、それは…」
「ダメなんですか?」
「…ダメじゃない」
機嫌を直したミソラと対照的に落ち込むクロカゲ、そんな彼をすみれが『こっちに来なさい』と言わんばかりに手招きする。
「(ちょっと! ミソラに手を出さないって約束したでしょ!)」
「(手は出してない…)」
「(信用ならないわよ!)」
「(本当だって…)」
「(そうだとしてもいずれ手を出しちゃうでしょ! それにあなたとミソラは…)
「すみれちゃんにクロカゲさん? 何話してるんですか?」
「な、何でもないわよ」
「さ、さーて、続きの肉を焼くか」
「?」
「そ、それにしてもあの精霊は来なかったのか?」
怪訝な顔ですみれとクロカゲを見るミソラ、そんな彼女をごまかすようにクロカゲが話題を逸らす。
「チャッピーなら『魔王の幹部なんて信用できないチャピ!』と言ってお留守番です!」
「それが普通の反応よね。それにしても……何でBBQなのよ」
「君達が頑張ってるのをねぎらいたいのと……そこのが苦労してるのを見てたからな」
クロカゲの視線に、早苗が「?」という感じで小首をかしげる。
魔法少女達の弱点を探るためにリアル・ワールドでこっそり様子を見ていたクロカゲは、早苗が家事に追われて苦労してるのを見て同情していたのであった。
「それにしても…あの精霊は一体なんなんだ?」
「チャッピーの事ですか?」
「ああ」
「なんなんだも何も、マジカル・ワールドの精霊でしょ?」
「あんなの見た事も聞いた事もないぞ…。昔の文献を調べてみたけど見つからなかったし…」
「チャッピーはチャッピーです! 魔王ジャ=アークから世界を救うために現れた精霊です!」
「…まあひとまずそれでいいとしても、君達を魔法少女に変身させたり、新しい武器を生み出したり…、一体何者なんだ?」
「不思議な存在です!」
「うんミソラちゃん、ちょっと黙ろうね」
早苗がミソラの口にお肉を詰め込む。
ミソラはお肉をモッシャモッシャし始め静かになった。
「確かに……冷静に考えるとチャッピーって何なのかよく分からないわね」
「私達を魔法少女にしたりするのって、魔法じゃないんですか?」
「そんな魔法聞いた事ない。ていうかあんな生き物見た事ない」
「魔法の世界ならいっぱいいそうですけど…」
「生き物なら君達の世界の方が多いくらいだ。まあ、こっちの世界の生き物は皆石に変えられちまったけどな」
「人間もでしょ? ていうか、なんであなたは石に変わらなかったのよ?」
「分からん」
「…まあいいじゃないですか! その話はもうしましたし! それよりお肉食べましょう! お肉!」
お肉を咀嚼し終えたミソラがクロカゲとすみれの背中をグイグイ押してBBQへと戻す。
かくして彼らは大事な話をできないまま終わってしまったのだった。
好きな焼き肉の部位は?
ミソラ タン塩!
すみれ カルビ
早苗 豚トロ
クロカゲ レバー