第7話 魔王の幹部、茶色いデロンデロンを食べる。
「今度の今度こそ絶対に倒してやるからなー! 覚えてろー! ドロン!」
魔法少女達との戦いに敗れたドロローンが、捨て台詞を吐き地面に潜り退散していく。
「あらあら、また負けちゃったわねドロローン」
「むしろなんであの作戦でイケると思ったんですかねー。ドロローンさん」
「ああ、いくらなんでもあんな作戦じゃあな」
魔法少女達の戦いを見ていたミズ・シズクティーヌ、ウーリーン、クロカゲがそれぞれ戦いの感想を漏らす。
「クロカゲさん、呆れてる場合じゃないですよ。ジャ=アーク様のために何か策を考えて下さい」
「ああ、今度までに考えておく」
「あらクロカゲ? 帰るの?」
「ああ、ちょっと用事があってな」
「そう、じゃあまたね」
ウーリーンとミズ・シズクティーヌをあしらい魔王の城を跡にするクロカゲ。
その足取りは普段より重い。
なぜなら彼は……毎日大変な戦いを強いられているからだ。
*************************************
「お帰りなさいクロカゲさん! ご飯にします? お風呂にします? それとも…」
「ご飯にするよ」
「ご飯ですね! 分っかりました!」
いそいそと夕飯の支度を始めるミソラ。
彼女にリアル・ワールドと自分の城をつなぐテレポートの魔法陣を渡してから、クロカゲは毎日その事を後悔していた。
なぜなら、彼女の料理は…
「お待たせしました! 愛情たっぷり、肉じゃがです!」
「肉、じゃが…?」
肉じゃがが何かは分からないが、これが肉じゃがなんだろうかと言いたくなるほどデロンデロンの茶色い液状の何かにクロカゲが戸惑った顔をする。
毎晩毎晩自分の城に泊まり、夕飯を作るようになったミソラの料理の腕前は残念を通り越していた。
食べ物の原型をとどめていない謎の物体を前に、クロカゲのスプーンが躊躇する。
しかし食べないわけにはいかない。好きな女の子がせっかく一生懸命作ってくれた物を食べないなんて事はできない。
クロカゲは、意を決して茶色いデロンデロンをスプーンですくって口にした。
「うっ…!? こ、個性的な味だな…」
「そうでしょう! 隠し味にテンメンジャンを使ったんです!」
テンメンジャンが何かは分からないが、とてもしょっぱい味付けにクロカゲが顔をしかめる。
ミソラの料理は食べられないというほどではないが、やたらとしょっぱかったり甘かったり苦かったり辛かったり苦行のような食事を毎晩強いられていた。
「おかわりもありますよ! たっくさん食べてくださいね!」
「…」
クロカゲは、大粒の汗を流しながら黙々と茶色いデロンデロンをかきこんだ。
………
……
…
「クロカゲさん、かゆい所はございませんか?」
「…いや、大丈夫だ」
「じゃあ次は前を洗いますね! こっちを向いて下さい!」
「い、いいから! 前は自分で洗うから!」
ミソラからスポンジを奪い、クロカゲが自分で自分の身体を洗う。
クロカゲはタオルを腰に、ミソラは身体にバスタオルを巻いて大事な所は隠しているが毎日毎日一緒にお風呂に入ってくるミソラにクロカゲは閉口していた。
「ふ~…」
湯船に浸かって、ようやくクロカゲが一息吐く。
しかしその平穏もわずか2秒で破られてしまう。
「えへへ~、お邪魔します」
「…」
クロカゲの身体に、ミソラが背中を預けもたれかかってくる。
シャンプーの匂い、柔らかい身体の感触、温かい体温。
抱きしめたくなるのをぐっとこらえてクロカゲがお湯で顔を洗う。
「クロカゲさん」
「なんだ?」
「ギュって、してくれないんですか?」
「…」
クロカゲが、ギュッと抱きしめたいのを堪えミソラを後ろからそっと抱きしめる。
「えへへ…」
ギュッとしてもらえなかったのは不満だが、抱きしめられたミソラがクロカゲの腕に自分の手を重ねうれしそうにする。
「…」
クロカゲは心の中で素数を数えながら必死でギュッと抱きしめたいのをこらえた。
………
……
…
「クロカゲさんクロカゲさん」
「…」
「もう、寝ちゃいましたか?」
「寝た」
「起きてるじゃないですか。も~」
背を向けて寝ているクロカゲの背中に抱きつきながら、ミソラが不服そうに文句を言う。
クロカゲの部屋のベッドは1人で寝る物のため狭い。
ミソラが小柄とはいえ2人で寝たらギュウギュウだ。つまり逃げる場所がない。
もう1つベッドを用意したのにそちらで寝てくれないミソラに、クロカゲがそっとため息を吐く。
「なあ、君のご両親は家に自分の娘がいなくて心配しないのか?」
「お父さんとお母さんはいつも家にいないので大丈夫です」
「何の仕事してるんだ?」
「政治家です」
「…政治家」
「お父さんとお母さんは、いつもそうなんです。私の事はいつもほったらかしで、家庭教師やメイドさんに任せっぱなし。なのに私に自分達の希望を押しつけてくるんです」
「…」
「悪い人達じゃないんですよ? 昔はよく遊んでくれましたし、色々買い与えてくれましたし、私がやってみたいって言った事をさせてくれましたし…。でも、私はそれより毎晩一緒にご飯を食べてくれる家族が欲しかったんです」
「…」
「だから今すごくうれしいんです。毎日クロカゲさんが私のご飯を食べてくれたりお風呂に一緒に入ってくれたり一緒のベッドで寝てくれたりして…。これまでずっと、夜は1人でしたから」
「…」
「クロカゲさん」
「…」
「ギュッて、してくれませんか?」
「…」
「…寝ちゃったんですか?」
「…」
「…バカ」
クロカゲの背中に抱きつきながら、ミソラが文句を言う。
文句を言いながらも、その顔はうれしそうだ。
「…」
一方クロカゲは、振り向いてギュッと抱きしめたいのを懸命にこらえていた。
そのまま夜が明けるまで、一晩中。
かくしてクロカゲは毎日寝不足になる、大変な戦いを毎晩強いられているのであった。
チャッピー
年齢:???歳
身長:???cm
体重:???g
特技:不思議な力を使う事
趣味:イタズラ
好きな食べ物:おにぎり
苦手な食べ物:ミソラの手料理
最近の悩み:1話目以降出番がない…