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魔法少女、嫁になる。  作者: アブラゼミ


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第50話 魔法少女、嫁になる

6月のある日。

マジカル・ランドの王女様の結婚式に参列するため招かれた早苗とすみれが王城のメイクルームでドレスに着替えて待っていた。


「早苗さん! すみれさん!」


水色のウェディングドレスを着たミソラが、待ちきれずに2人に挨拶にやってきた。


「ミソラちゃん! きょ、今日はお招きいただきありにゃとうごにゃいにゃしゅ!」

「どんだけ緊張してんのよ。もっと堂々としなさいって」

「だ、だって……結婚式なんて初めてだし、ドレス着るのも初めてだから緊張するよ…」


マジカル・ランドの魔法のドレスを着た早苗が、落ち着き無くあちこち触る。

一方すみれは付き合いで堂々としたものだ。堂々としたものだが…


「すみれさん、リボンが派手にズレてますよ?」

「にゃわっ!? ききき、気づいてたわよ!!!」


顔を真っ赤にしながらすみれが胸元のドレスのリボンを直す。

どうやらすみれも緊張しているようだ。早苗が少しだけ落ち着きを取り戻す。


「それにしてもミソラちゃん…。さすがはお姫様だね。すごく、キレイ…」

「ありがとうございます!」


いつも通りの様子だけど、いつもとは違う気品と美しさが漂っているミソラに早苗が気圧される。

すみれもすみれでフンと鼻を鳴らして、ミソラの美しさを認めた。


「…それに引き換えアンタは、何て顔をしてんのよ」


そして一方、顔色が紙みたいに真っ白になっているクロカゲの胸を肘で小突く。


「…仕方ないだろ。緊張してんだから。3日前からメシが、喉を通らないんだ…」


今更ながら王女様と結婚するプレッシャーに潰されかかっているクロカゲが、すみれの肘を払いながら震える声で答える。白いタキシードがまったく似合っていない。


「しっかりしなさいよ。そんなんじゃミソラとの結婚生活、やっていけないわよ」

「ええっ!? それは困ります! クロカゲさん、しっかりしてください! 子作りできないと困ります!」

「こ、子作り!?」

「…大丈夫だ。しっかりする。ミソラと、子作り…」

「アンタはアンタで何言ってるのよ!」


完全に混乱しているクロカゲの頭をすみれが叩き、クロカゲが正気を取り戻す。

厳粛な式の前とは思えない賑やかな控え室。


「早苗さん、すみれさん、本日はお越し頂きありがとうございます」


その賑やかさが落ち着き、ミソラが2人に改めて礼を述べる。


「いいわよ。私達も来たかったし」

「う、うん。そうだよ」

「マジカル・ランドの王女様の結婚式ともなれば披露宴でご馳走が出るんでしょ? 楽しみだわ」

「そこなの!?」


すみれの発言に早苗が驚く。そしてまたはじけるような笑い声がメイクルームにこだました。

笑いすぎて出た目尻の涙をぬぐったミソラが、佇まいを直し2人に改めて向き直る。


「早苗さん、すみれさん。式の前に、お2人に大事な話があるんです」

「「大事な話?」」

「はい、チャッピーの話です」


ミソラの言葉に、クロカゲが頷き外に出て首輪を着けたチャッピーを連れてくる。


「チャ、チャッピー…」

「…大丈夫なの? コイツ、邪神なんでしょ?」

「大丈夫だ。改心させたからな」

「カイシンシタチャピ」

「「…」」


目の光が消えているチャッピーの言葉とその様子に、早苗とすみれが戸惑う。


「…あ、あの、チャッピー、どうしたんですか?」

「どう見ても様子がおかしいんだけど…」


2人の疑問に、クロカゲが理由を答える。


「この3ヶ月間ミソラの手料理を毎日食べさせただけだ」

「どんな拷問よ…」


すみれとクロカゲの会話に、ミソラが複雑そうな顔をする。


「で、でも、大丈夫なんですか? 改心したフリをしてるだけかも…」

「大丈夫だ。頭の中をちょっといじって、マジックアイテムもつけてもう悪さできないようにしたから」

「サラッと怖い事言ってんじゃないわよ」


クロカゲの言葉にすみれが苦虫を潰したような表情になるが、クロカゲはそれを無視しチャッピーを連れて外に出る。

あの首輪がマジックアイテムとやらなのだろう。首輪を着けられたチャッピーは借りてきた猫みたいに大人しくなってクロカゲのされるがままになっている。


「それで、チャッピーの事なんですが。式の後に力を全て奪う事にしました」

「「力を全て奪う?」」

「先代のマジカル・プリンセス、ずっと昔のマジカル・プリンセスがチャッピーを封印した後に、もっといい方法はなかったかを考えその方法を残していたんです。マジカル・ランドには重罪人の頭にかぶせ廃人にするマジックアイテムがあるのですが」

「サラッと怖い事言ってんじゃないわよ」

「…そのマジックアイテムを応用し邪神の力を全て奪う事ができるものがあるんです。それでチャッピーの力を全て奪います」

「そ、それでチャッピーはどうなるの?」

「邪神から普通の生き物になるようです。寿命を持ちやがて死を迎える普通の生き物に。普通の生き物に変えた後は、歴史学会のペット兼史料として大事に飼われる予定です。ずっと昔のマジカル・ランドを知る貴重な生き字引ですからね」


そこまで言って、ミソラが一つ息を吐く。




「それで、チャッピーの力を奪った後は……マジカル・ワールドとリアル・ワールドの行き来はできなくなります。私達が通信に使っている魔道具も、通じなくなるんです」

「「…」」




ミソラの言葉に、早苗とすみれが息を呑む。

それはつまり、ミソラとの別れが来るという事。

いずれそんな日が来るだろうと予想はしていたが、いざ来てしまうとそのショックは大きかった。


「早苗さん、すみれさん」


佇まいを直し、ミソラが2人に深々と頭を下げる。


「マジカル・ランドを代表して御礼を言わせて下さい。この国を救って頂き、ありがとうございました」

「そ、そんな……私達は何も…」

「そうよ。お礼なんて言う必要ないわ」

「そうはいきません。だって今日が……最後なんですから」


顔を上げたミソラの目から涙がこぼれ、頬を伝っていく。


「や、やだ… ミソラちゃん…。最後だなんて、言わないでよ…」

「そうよ…。我慢、できなくなるじゃない…」

「お2人には大変お世話になりました。お2人がいなければ私、きっと挫けていたと思います。お2人がいたから、私は頑張れたんです」

「やだ…、やめてってば…」

「そうよ…、私達がいなくても、きっとアンタは頑張れたわよ…」

「そんな事ありません。お2人がいてくれたおかげで、とても心強かったです。楽しい思い出もたくさんできました。お2人との出会いは、お2人との思い出は、私の一生の宝物です」

「…っ」


そこが早苗の限界だった。

大粒の涙を流しながら、早苗がミソラに抱きつき声にならない声を上げる。

すみれは気丈に腕を組んで耐えているが、その目は涙で決壊寸前だった。


「早苗さん、すみれさん。離れ離れになっても私達の心は繋がっています。お2人の幸せを私は願っています。だからリアル・ワールドに帰っても私の事、忘れないでください」

「忘れない…! 忘れるわけなんかないよ、ミソラちゃん…!」

「そうよ…! 忘れるわけないでしょ…! バカ言わないでよ…!」


すみれの目からも大粒の涙がこぼれ、ミソラの目からもとめどない涙が流れる。

左手で早苗の頭を軽く撫でたミソラが、すみれを誘うように右腕を広げる。

すみれは迷わずミソラの腕に飛び込み、ミソラを強く抱き寄せた。

それから魔法少女達3人は、抱き合いながらメイクが崩れるのも構わず声を上げて泣き続けた。

その様子を廊下から見たクロカゲは、そっとドアを閉じ3人だけの別れの時間を邪魔しないようにした。




*************************************




マジカル・ランドの大聖堂に、荘厳な音楽が流れる。

祭壇の前には式を執り行う大司教と、新郎のクロカゲが立っており新婦の到着を待っていた。

一番前の特等席にはこの世界を救った一番の功労者、早苗は落ち着きなさそうに、すみれは堂々とした様子で王妃と並んで式が始まるのを待っていた。

大聖堂の扉が開き、ミソラとその父である国王が参列者に深く一礼をする。

盛大な拍手の中を、ミソラと国王が手を取ったままゆっくり進んでいく。

美しい花嫁と厳かな雰囲気に、参列者達が息を呑む。

しかし突然父親の手を放したミソラがベールをめくり、ウェディングドレスのスカートの裾を両手で持ってヴァージンロードを駆け出し始め、大聖堂にいる参列者達が戸惑いどよめきの声を上げる。

そんな周囲を気にせずヴァージンロードを駆け抜けたミソラが、勢いのままクロカゲに飛びつきキスをする。

段取りも雰囲気も無視した花嫁のキスにどよめく大聖堂、

呆気にとられた様子で口をあんぐり開ける国王、顔を真っ赤にしてうろたえる早苗、苦笑いを浮かべるすみれ。


「オ、オイ、ミソラ…」


クロカゲが戸惑いながらミソラの名前を呼ぶ。


「ハイ!」


そんなクロカゲに向けて、ミソラがいつも通りのはつらつとした返事をし、輝くような笑みを浮かべる。




「私はあなたのお嫁さんです!」

ミソラに最後のセリフを言わせるためにこの物語をずっと書いていた気がします。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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