第5話 魔王の幹部、ダメ出しをする
「……つまりこの人は元々マジカル・ランドの住人で私達の味方になってくれるって事?」
「その通りです!」
「信用ならないわね」
「すみれさん、クロカゲさんはいい人なんです! 私を縛る時も『きつくないか?』って優しくしてくれましたし!」
「余計信用ならないわよ!」
変身後と変わらない金髪をファサっとかき上げて、マジカル・シャイニングこと西園寺すみれがクロカゲを睨む。
場所はウスグラーイ領ウスグラーイ城のクロカゲの仕事部屋。
ミソラに話を聞かされ、本人からも話を聞こうという事になりここまで来たのだった。
「なるほど……仕方がありません! クロカゲさん! すみれさんを縛ってください!」
「ハアっ!? ハアアっ!!?」
「クロカゲさんに縛られればすみれさんも分かるはずです! さあ、どうぞ!」
「どうぞ!じゃないわよ! 嫌よ絶対!」
「大丈夫です! 最初はちょっと痛いし苦しいですが、段々気持ちよくなってきますから!」
「変な癖に目覚めてるじゃない!? 嫌ったら嫌よ絶対!」
「…なあ、お前さんよくこいつらをまとめてるな」
「…まとめれてはいないですけどねー」
1番年下なのに魔法少女のリーダーをしているマジカル・スカーレットこと赤城早苗と、クロカゲが揃ってため息を吐く。
人の話を聞かない猪突猛進のミソラと気が短いお嬢様のすみれは噛み合わない間柄で、しょっちゅうこんなやりとりを交わしているのだった。
「ハイハイ。落ち着いて、ミソラちゃん、すみれちゃん」
パンパンと、手を叩きながら早苗が2人の間に割って入る。
「すみれちゃん、この人の話は本当だと思うの。すみれちゃんも見たでしょ? 城の中にあった石に変えられた人たちの石像」
「…まあ、そうね」
「これまでの事は済まなかった。魔王に命令されて仕方なかったとはいえ君たちを傷つけた事は許される事じゃなかったと思っている」
「…いいわよ。あなたはジュモクンほど陰険じゃなかったし」
大事なピアノコンクールの日に襲ってきて発表会を台無しにしたり、魔法少女達を木の根っこで締め付けてきたりと意地悪で陰険だった最初の魔王の幹部ジュモクンと比べれば、クロカゲの印象はすみれの中でもそこまで悪くなかった。
お茶とお菓子が振る舞われ、ミソラもすみれも落ち着いた所でクロカゲが話を始める。
「俺はもう君達の相手から外される事になった。これからはドロローンが君達の相手になる。いつ襲ってくるか、どう襲ってくるかという情報を君達に教える。協力させて欲しい」
「外された? どうしてですか?」
「どうしても何も、失敗ばかりで何の成果も上げられなかったからな」
この1ヶ月、魔法少女達と戦い続けていたが成果らしい成果を何も上げられなかったクロカゲが肩を竦めてそう言う。
マジカル・ウィンディを打ち負かし捕らえたとはいえ、3人がかりでの勝負ではいつも押されていたくらいだ。
このまま任せていてもダメだと魔王に判断されたのだろう。
「ドロローンってこの前の泥の怪人よね。頭の悪そうなしゃべり方をする身体の大きい」
「ああ」
「そいつが襲ってくるってどうやって私達に知らせるの?」
「ミソラに持たせてる魔道具で連絡する。君達リアル・ワールドの人間が持ってるスマホ?みたいなもので会話や文字での連絡ができる奴だ。そいつを君達にも渡す。これに連絡するから確認してくれ」
クロカゲがすみれと早苗に通信用の魔道具を渡す。
「これって……充電はどうすればいいんですか?」
「込められてる魔力で半永久的に動くから不要だ」
早苗の問いかけにクロカゲが答える。それから使い方を説明した。
「中々便利ね。早苗もミソラもスマホ持ってないから助かるわ」
すみれが魔道具を手の中で弄びながら笑みを浮かべる。
これまでは連絡するのにいちいち仲間の元へ走って行かないといけなかったので大変だったのだ。
それぞれ学校があったり部活があったり習い事があったり家事があったりで行き違いになる事もあったのでこれは助かる。
「すみれさんすみれさん、メッセージ送りました!」
「ちゃんと届いてるわよ、お返事送るわ」
「わはー! 届きました! これで毎日お話できますね!」
「ええ、そうね」
「…なあ、こいつら仲悪いのか仲いいのかどっちなんだ?」
「…言い合う事は多いですけど仲はいいみたいですよ。よく一緒に遊んでますし」
キャアキャア盛り上がってるミソラとすみれを見ながら、クロカゲと早苗がそんな会話を交わす。
変身前の魔法少女達の事を観察していた事もあったけど、知らなかった事の方が多そうだなと思いながらクロカゲがミソラを見る。
クロカゲの視線に気づいたミソラが「何ですか?」という表情をする。クロカゲは「何でも無い」とばかりに手を振って答えた。
「とにかく、これでドロローンが襲ってくる日時を連絡する。まあ、今の所それくらいしか役に立てないが…」
「何言ってるんですか! それだけでもかなり助かります!」
「そうね、いつ襲ってくるか分からなくて気が休まらないよりはるかにマシだわ」
「皆部活や家事や習い事もありますしねー」
最初の幹部ジュモクンに散々な目に遭わされてきただけに、ミソラ・すみれ・早苗が揃ってクロカゲの提案に好意的な反応を示す。
「で、ここからが本題なんだが」
「何よ」
「これを見てくれ」
クロカゲが部屋の壁に白い布を下ろし、魔道具で映像を映す。
ずっと前に魔法少女3人とクロカゲが戦った時の映像だ。
「これがどうしたんですか?」
「どうしたんですか?じゃない。ミソラ、何でこの時突っ込んできたんだ?」
「え? それは…、勢いで勝負をつけようと……」
「後ろでスカーレットが攻撃を放とうとしてたのに気づかなかったのか?」
「え? そ、そうだったんですか?」
「うん…」
「それとここ、何で2人同時にかかってきたんだ?」
「なんでって…」
「そんなのあなたを倒すために決まってるでしょ!」
「ウィンディとシャイニングの攻撃は強力だけどワンパターンでタイミングが同じだから避けやすいんだよ。時間差をつけるとかもっと工夫したらどうだ?」
「ううう、うっさいわね! なんでそんな事アンタに言われなきゃいけないのよ!」
「いつもそうなんだがスカーレットが『待って!』って言ってるの聞かずに突っ込んできてやられてるのはどこのどいつだよ。俺にしてみればスカーレットの遠距離攻撃を軸に戦われた方が厄介だったぜ。ウィンディとシャイニングの脳筋コンビが突っ込んでくるせいで、スカーレットが攻撃しづらそうにしてたのは敵ながら気の毒だったぞ」
「「…」」
脳筋コンビと言われたミソラとすみれが、反論できずプルプル震える。
「そもそもなんで君達は毎回真正面から突っ込んでくるんだ?」
「それは…」
「そんなのアンタを倒すために決まってるでしょ!」
「毎回毎回真っ正面から『ハアアア!』とか『ヤアアア!』とか言いながら突っ込んでくるしかできないのか? ジュモクンも『あやつらはイノシシと一緒じゃのう』と言ってたぞ」
「「…」」
「で、次なんだが…」
クロカゲの微に入り細を穿つダメ出しが続く。
主にウィンディとシャイニングへのダメ出しが。
かくして、魔王の幹部クロカゲは魔法少女達の仲間になったのだった。
魔法少女マジカル・シャイニング/西園寺すみれ
年齢:15歳(高校1年生)
身長:167cm
体重:50kg
特技:ピアノの演奏・空手・水泳
趣味:美容関係のメディアを見る事・友達とおしゃべり・友達と遊ぶ事
家族構成:祖父・祖母・父・母・兄(大学生)
部活:帰宅部
得意科目:英語・数学・日本史
苦手科目:国語
好きな食べ物:たこ焼き
苦手な食べ物:数の子(食感が苦手)
最近の悩み:身長がこれ以上伸びないで欲しい…