第44話 一件落着?
「…」
「…」
「…」
ウーリーンこと、瓜生正義の独白を聞いた一同が、重々しい表情になる。
「オイ」
「チャピー!?」
「チャピー!?じゃねえよ。お前何やってんだ」
こそこそ逃げ出そうとしていたチャッピーを、影を伸ばして捕まえていたクロカゲがより一層強く締め上げる。
「まさかチャッピーが邪神だったなんてね。怪しいとは思ってたけど…」
「そ、そんな事って…!?」
「ウソですよねチャッピー!? ウソって言って下さい!」
「…ウソじゃないチャピ」
本当の全ての元凶である、邪神チャッピーが悪びれる事なく口を開く。
「この世界は退屈チャピ。チャッピーはこの世界を面白くしたかったんだチャピ。チャピピピピ! 本当はウーリーンが勝ってたら一番面白かったんチャピが、おかげで楽しかったチャピ!」
「…1つ聞きたい」
「チャピ?」
「なんでお前は、自分が戦わなかったんだ。ウーリーンに力を与えるなんて回りくどい真似をして、自分でこの世界を征服しなかったんだ?」
クロカゲの言葉に、チャッピーが短い手足をバタバタさせて答える。
「チャッピーはただ不思議な力を与えるだけの存在チャピ。それと不思議な力で物事をねじ曲げる事しかできないチャピ。戦闘力はゼロチャピ」
「…ああ、よーく分かった。それで千年前も魔法使いを操って世界をメチャクチャにしようとしたんだな」
「そうチャピ。千年前は失敗したからウーリーンには策を授けてたのに失敗して残念チャピ」
「わ、私達を魔法少女にしたのはなんでなの?」
「決まってるチャピ。その方が面白そうだからチャピ」
「お、面白そうって…」
「どうなるか分からない方が物事は面白いチャピ? ただウーリーンが世界を征服するだけなんて面白くないチャピ。だからミソラ達を魔法少女にして、どっちが勝つか楽しんでたチャピ」
「で、でも…! 私達とウーリーンさん達、どっちが勝ってもあなたがこうして悪者だってバレる結果になるでしょ!?」
「チャッピーは世界をメチャクチャにできればそれで十分チャピ。その後また封印されても、消滅させられてもいいチャピ。まあ理想は千年前にチャッピーの野望を阻止した、マジカル・プリンセスに復讐できれば万々歳だったんだチャピが」
「破滅的な思考ね。ホンット、邪神だわ」
豊かな胸の前で腕を組んだすみれが、フンと鼻を鳴らす。
「…どうしてですか」
「チャピ?」
「どうして、こんな事を…!」
「どうしても何も、楽しいからだチャピ! チャッピーはこの世界も皆も、メチャクチャに…!」
「…もういい、黙れ」
闇の球体でチャッピーを包み、強制的に眠らせクロカゲがチャピーを黙らせる。
「クロカゲさん…」
「ミソラ、これ以上振り回されるな。俺達はやるべき事をしよう。この国の人間の石化も解けているだろうし、王やお妃様にこれまであった事を説明して、この国の復興に向けて動き出そう」
「…はい、そうですね」
複雑な気持ちを飲み込み、ミソラがクロカゲに頷く。
そう、マジカル・ランドの王女たる自分にはその責務がある。ミソラはその事をよく自覚していた。
「その前に、コイツの処分だが…」
長身のクロカゲの鋭い視線に射すくめられ、ウーリーンこと瓜生正義がビクっと身体を震わせる。
「…お前さんがリアル・ワールドでどんな思いをしてきたか想像できないし、邪神に騙された被害者とも言えなくないわけだが、俺はお前さんを許さない。もう二度と、この世界に関わらないでくれ」
「私もクロカゲさんと同意見です。今回の件に関してあなたに責任を問う考えはありません。…責任が取れるとも、思えないですしね。今回の件はすべてチャッピーに責任を負わせます。あなたはもう二度と、この世界に関わらないと約束して下さい」
「…」
クロカゲとミソラの厳しい言葉に、ウーリーンこと瓜生正義が力なく頷く。
やってきた事を考えれば甘い処分と言われてもおかしくない。
ミソラが自分を見初めてくれるんじゃないかという都合の良すぎる期待も打ち砕かれた。
「すみれさんと早苗さんも、それでいいですよね?」
「ええ、当事者であるアンタ達がそれでいいならそれでいいわ」
「…わ、私は迷惑料をいくらかいただければ…」
「早苗…」
すみれが早苗を呆れた目で見るが、まあそのくらいの権利はあるかと思い直し財布に入ってた全額(2万円)をすみれと早苗の2人で分ける。
その後、「もう二度とマジカル・ランドに関わらない」という誓約を結ばされウーリーンこと瓜生正義はクロカゲの手によりリアル・ワールドに強制送還された。
「…さて、それじゃ王様と王妃様の元へ行くとするか」
「わ、私達も付いていっていいんですか?」
「当然です! お二人はマジカル・ランド救った英雄ですから! お礼をしなくてはなりません! お礼させてください!」
クロカゲのテレポートで、全員がマジカル・ランド王都の城へ移動する。
「おお! ミソラ!」
「ミソラ! 無事でしたのね! よかった!」
「お父様! お母様!」
石化の魔法が解けた王と王妃にミソラが抱き付く。
その目には涙が浮かんでおり、早苗だけでなくすみれももらい泣きしてしまう。
一方クロカゲは、テレポートでその場をそっと離脱した。
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「…よし」
ウスグラーイ城の領主の居室。
荷物をまとめ、机の上にミソラに宛てた手紙を残したクロカゲがその扉を閉める。
そのまま外に出ようとして…
「どこへ行くおつもりですか?」
扉の外に立っていたミソラに行く手を阻まれた。
「え、あ、う…」
「答えて下さい、ど・こ・へ、行くおつもりですか?」
「よ、夜風に当たりに…」
「ウソおっしゃい! そんな大荷物を持って何が夜風ですか! この国から、いえ、この世界から出て行くおつもりだったんでしょう!」
「…ど、どうしてここに」
「お父様にテレポートで送ってもらいました。私は魔法が使えませんから」
「…」
クロカゲが逃げられないように、ミソラがその手をガッチリ掴む。
そしてその大きな瞳で、クロカゲをまっすぐに見つめながら話しかけた。
「クロカゲさん、無責任すぎませんか? あれだけの事があったのに私1人に説明を任せるおつもりですか?」
「うっ…」
「それに言いましたよね? あの時『責任取る』って」
「…」
「言・い・ま・し・た・よ・ね?」
「…はい」
クロカゲは崩れ落ちるようにミソラの前で正座し頭を垂れる。
「…どんな罰でも甘んじて受け入れよう。俺は…」
「何を言っているのですかあなたは。どうしてクロカゲさんが罰を受けねばならないのですか? あなたは王国を救った英雄なのですよ」
「え? でも俺は、魔王の幹部で、魔王に協力していて…」
「それは領民を石に変えられ仕方なく協力していただけでしょう? 魔王を倒せたのはクロカゲさんのおかげです! 魔王を倒すために仲間のフリをしていた事にしておきましょう! 実際そうだった訳ですし! 何か言われようと私が守ってあげます!」
「じゃ、じゃあ俺に何の責任を取れと…?」
「そんなの決まってます! 私の初めてを奪った責任です!」
クロカゲから目を逸らしながら、頬を赤らめてミソラが照れくさそうに言う。
「私のファーストキスを奪ったんですから、責任取って下さい…」
「…」
それは、あの日クロカゲがミソラにした唯一の行為。
クロカゲが奪ったのは、ミソラのファーストキスだった。
「クロカゲさんはご存じですよね? 『王国を救った人間には王女を娶る権利が与えられる』って不文律」
「そ、そんなの王女の気持ちを無視した…」
「私はいいと言っているんです! もちろん私が女王になったらそのようなもの改めますが私はあなたに娶られたいんです! お嫁さんになりたいんです! それとも…」
ミソラが、不安そうな目でクロカゲをチラと見る。
「…クロカゲさんは、私の事が嫌いになっちゃったんですか?」
「…そんな訳、ないだろ」
ミソラを抱きしめながら深い息を吐き、クロカゲが嘘偽りない気持ちを述べる。
「君の事が好きだ。ミソラ。この気持ちはずっと変わらないさ」
「………では! 私と結婚するって事ですね!」
「え? いや、それは……。ちょっと待って欲しいっていうか…」
クロカゲの返事を聞かず、いや聞こえていないフリをしてミソラがクロカゲの腕をグイグイ引っ張り外に出す。
「さあ行きましょう! お父様とお母様をお待たせしているのです! 『お嬢さんを僕に下さい』と言ってもらわなくては!」
「それはまだ心の準備ができてないから勘弁してもらえないか!?」
次週、最終回。次週は6話更新です。




