第36話 クロカゲ
男の前には生まれた時から夢も希望もなかった。
物心ついた頃から両親はおらず、大勢の子供といっしょに孤児院で育った。
ウスグラーイ領は親に捨てられた子供がたくさんいた。
晴れの日が1日もないウスグラーイ領は王国から見捨てられた辺境の地だった。
そこには貧困と絶望しかなく、いつもお腹を空かせた領民達が力なく生きていた。
他の所領と違いウスグラーイ領は中央の貴族やお役人が誰も来たがらなかったため、領主はそこで暮らしている人間から選ばれていた。
非凡な頭脳と魔法の才を持っていた男は、若干15歳で領主にさせられた。前の領主に押しつけられた。
事件や裁判はない。皆悪さをする気力すらなく、奪う物も奪われる物も何もないからだ。
新しい領主になった男が真っ先に取り組んだ問題は領内の貧困だった。
薄暗いウスグラーイ領では作物の実りが悪く、領民で食べる分で精一杯。
陳情に行っても門前払いを食らいロクに補助金を得られなかった。
国王への謁見すらさせてもらえなかった。
王の側近に邪魔されたのだ。他の領主達はできていたのに。
有体に言って、ウスグラーイ領は見捨てられていた。
しかし男はある事に気づいていた。
王国の法律では交付金があるのにウスグラーイ領にはそれがない。
前の領主は法律にロクに目を通していなかったが、意外と細かい男は隅々まで目を通し本来貰えるはずの交付金の額を弾きだしていた。
そしてそれを訴えに王都に乗り込んだのだが、大臣にはねのけられた。
怪しいと思ったが、何の証拠もないので引き返すしかなかった。この時は。
男は頑張った。
魔法の才を活かしマジックアイテムを制作し特許料を稼ごうとした。けれども何も思い浮かばなかった。男に発明の才はなかった。
男は頑張った。
資源の乏しいウスグラーイ領でも何か商売のタネになる物はないかと探した。しかし何も見つからなかった。男には商売の才もなかった。
男は頑張った。
他の領地と比べて格安のウスグラーイ領の土地と税金をアピールし王都の会社に工場などをウスグラーイ領に作らないかと誘った。しかし上手く行かなかった。狙いは悪くなかったが、男には営業力とコネもなかった。
どう頑張っても上手くいかない領主としての仕事。
そんな男の唯一の楽しみは一日の終わりに書く物語だった。
それが完成した時、もののためしに出版社へと持ち寄った。
たちまち本になり大ベストセラーになった。
男が書いた魔法少女の物語は、大人の男の魔法使いが主人公の物語ばかりだったマジカル・ランドでは物珍しく大変ウケた。
合間合間にイラストが入る小説だったのも珍しく大変ウケた。
王女様も熱烈なファンらしいという事を風の噂で耳にした。
でも興味なかった。会った事もない王族なんて、男にとってはいないも同然だった。
男の本は大いに売れた。
続刊を出せば飛ぶように売れるほどベストセラーのシリーズになった。
男の懐には金も入ってきたが、コネもできた。
出版社や印刷会社に掛け合って、ウスグラーイ領に印刷工場を作って貰える事になった。
そこから更に繋がって他の業界の工場や作業場なども誘致する事ができた。
ウスグラーイ領の土地代や税金、人件費の安さが魅力となったのだ。
こうしてウスグラーイ領は豊かとまではいかないものの、平均的な所領と同じくらいには豊かになった。
それから数年は穏やかな日々が続いた。
魔王ジャ=アークが現れたのは男が領主になって6年目の春だった。
気が付いた時には領民は全て石像に変えられていた。
彼らを救うため男はジャ=アークと魔王の幹部達と戦ったが、敗れ従う事になった。
男は魔王の幹部に取り立てられた。
男が幹部になった頃にはマジカル・ワールドは全て征服されていて、段階はリアル・ワールド侵略へと進み始めている所だった。
男は諦めていた。
リアル・ワールドを征服できれば領民を元に戻して貰えるという約束も信じてなかった。
自分が戦ってもジャ=アークは倒せないだろう。男は自分がヒーローじゃない事を知っていた。
やがて最初の幹部ジュモクンが魔法少女達に倒され、男が魔法少女達と戦うよう命じられた。
気乗りしなかったが生真面目な男は真面目に魔法少女達と戦った。
そして、いつもコテンパンにやられ逃げ帰った。
ジャ=アークからもっと本気で戦えと叱責されたが男は理解できなかった。
本気も何も、自分は本気で戦っている。お前はもっと強いはずだと言われてもピンと来なかった。魔王の幹部達+ジャ=アークと自分が戦った時の記憶もなかった。
それから男がマジカル・ウィンディと戦い、彼女に勝利し捕らえた後の話はこれまで読んでもらった通りである。
魔法少女達の味方をこっそり続けている内に男の中にある思いが生まれていた。
「こいつらと一緒なら、本当にマジカル・ランドを救うことができるんじゃないか」と。
自分の書いた魔法少女達の物語のように、自分もヒーローになれるんじゃないかと。
『ヒーローになりたい』
男は、今一度自分の夢を思い出していた。
クロカゲが書いている小説の話は、
第13話 https://ncode.syosetu.com/n3317iz/13/
第17話 https://ncode.syosetu.com/n3317iz/17/
をご覧下さい。




