第34話 マジカル・ウィンディ
少女は、厳しい家庭で育った。
幼い頃から礼儀作法・水泳・音楽・勉強などを叩きこまれ、外で遊ぶ事も禁じられ家庭教師達との様々なお稽古事や勉強の日々を過ごしていた。
疑う事を知らない少女は両親の期待に応えまっすぐに育っていった。
その一方で少女は、折を見て触れていたある娯楽に夢中になっていた。
小さなお友達から大きなお友達まで大人気の悪い魔王と戦う魔法少女達の物語。
魔法のステッキで変身し、仲間と協力して必殺技で悪を懲らしめる。
少女は魔法少女の物語に夢中になった。
「お願いチャピ! 僕と契約して魔法少女になって欲しいチャピ! そしてマジカル・ランドを救って欲しいチャピ!」
そんな少女にとって、精霊チャッピーからの魔法少女になって魔法の国マジカル・ランドを救ってほしいという頼みは願ったり叶ったりな頼みだった。
「なります! 魔法少女になって、悪を懲らしめます!」
最初の魔法少女になった少女は、ノリノリでマジカル・ステッキを手にして魔法少女に変身した。
最初に戦って倒した魔王の幹部の1人、植物を操るジュモクンは絵に描いたような小悪党だった。
マジカル・シャイニングの大事なピアノの発表会の日に襲ってきて発表会を台無しにしたり、変身前のマジカル・ウィンディが1人の時に襲ってきたり、マジカル・スカーレットの学校の子達が頑張って作っていた文化祭の展示作品を壊したり、不意打ち卑怯な手は当たり前、降参するフリをして襲い掛かり魔法少女達を絡めとった蔓でやたらと卑猥な締め方をしてきた。スカーレットが必殺技で消し去った時は、スッキリしたものだった。
けれども次に現れた魔王の幹部の2人目は様子が違っていた。
戦いはいつも前日に場所と時間を指定し正々堂々。
その戦いぶりも3人を相手に真正面から挑む姿は悪役には見えなかった。
何より見た目が少女の好みだった。
ボサボサの髪で顔が隠れているが、整えれば中々の顔立ちになりそうだ。
「(この人になら… いいかもしれません)」
魔法少女の物語を見ていた頃、少女はあるシーンに興奮していた。
「(こ、こんなハレンチな…! はわわ! いけません!)」
魔法少女が敵である魔王の幹部に捕らえられてしまうシーンだった。
ロープでぐるぐる巻きにされ涙目の魔法少女のイラストに、少女はハレンチだと思いながらもドキドキしていた。
「(私も魔法少女になれたら、こんな風な目に………い、いけません! 何を考えているのですか私は!?)」
そして魔法少女になれた今、少女はクロカゲと戦いながらこんな風に思っていた。
この人にだったら。
負けて捕らえられてしまってもいいかもしれない。
「(そ、そしてそのまま… ひゃああああ!?)」
とてもアレな願望なため他の魔法少女達にも、チャッピーにも、いわずもがなだが当の相手であるクロカゲにも言えなかった。誰にも言えないとんでもない願いだった。
「ここは私に任せてください!」
チャッピーが攫われた際、少女は千載一遇のチャンスが訪れたと思った。
3対1では、正直絶対負ける気がしなかった。男はそんなに強くなかった。
でも1対1なら客観的に見ていい勝負になると思った。
わざと負ける気はない。捕らえられるなら全力を尽くした上で負かされて囚われの身になりたい。
仮に勝利してしまったなら……男はその程度の相手だったという事だ。
少女は持てる力の全てをぶつけて挑んだ。
「サイクロンラーッシュ! ハアアアアアア!!!!!」
男を倒すために編み出した必殺技、サイクロンラッシュ。
風をまとった拳と蹴りを次々に叩き込んで、相手を打ちのめす超大技。
「ダークネス・フィンガー! オオオオオオ!!!!!」
こちらも巨大な影をまとった男の左手が、鋭い爪を伸ばしながら襲い掛かって来る。
「きゃああああああ!!?」
そして少女は、打ち負かされた。正々堂々ガチンコの勝負で、負けたのだった。
「くっ、辱めは受けません! 殺しなさい!」
「そうはいかないな、貴様は魔王ジャ=アーク様の元に連れて行く」
仰向けに倒れている自分の背中を起こし、縄を取り出した男に少女はついにこの時が来たとドキドキした。
両手を背中に回され、縄をかけられる。初めての体験に少女の胸は高鳴った。
「(これから私、どうなるのでしょう? ひゃあああ…!)」
そんな少女の様子を見て何を思うのか、表情の読めない男が少女を縛り上げた。
「『テレポート』!」
次の瞬間、リアル・ワールドとは別の世界、マジカル・ワールドのやたらと薄暗い所に連れてこられていた。
「(ここは…どこなんでしょう? 来た事のない所です)」
周囲を見回しながら、少女は男に引っ立てられ城の中に入る。
魔王の城にしては小さな、中も質素な城。
使用人も兵士もいない、やけにみすぼらしい恰好をした石像ばかり。
「…ここは、どこなのですか? 魔王とやらに会わせてくれるのでしょう?」
「ここは俺の城だ」
「え? 魔王の下に連れて行くのではなかったのですか?」
「…ジャ=アーク様の手を煩わせるほどでもない。貴様の身は俺が預かる事にする」
男が自分を自分の城に連れてきた事に、少女の期待は高まる。
「(も、もしかして…『俺の物になれ』的な事でしょうか…? ひゃあああ…!)」
アレな妄想を膨らませる少女の顔を、男が覗き込む。
「?」
「っ!?」
少女が男の顔を見つめ返すと、男はサッと目を逸らした。
そして足早に少女を引っ立て最上階にある部屋へと入って行った。
壁にジャケットがかけられており、机の上に本が積まれている生活感のある小さな部屋だ。
少女の目は、ベッドに釘付けになった。
ボサボサの髪をしている割に意外と几帳面なのだろうか、整理整頓された部屋の中のベッドのシーツはしわ1つ無く、清潔感があった。
「きゃっ」
やおら男に背中を押され、ベッドに投げ出される。
「(つ、ついにこの時が…!)」
「な、なにするつもりですか? 近寄らないで下さい!?」
口ではそう言いながらも、少女は期待していた。この時までは。
「…」
けれども男が迫ってきた時、少女はさすがに怖くなった。
「な!? や、やめ…! やめなさい…! …んう!? んんう~~~!!?」
抵抗はしなかった。したくてもできなかった。
いや、もうするつもりはなかった。なぜならこうなる事をずっと望んでいたから。
………すべてが終わった後、男は少女の顔を見た後この世の終わりのような表情になった。
そんな男に向けて、少女はこう言った。
「やっと、夢が叶いました」と。




