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魔法少女、嫁になる。  作者: アブラゼミ


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28/50

第28話 魔王の幹部、お昼ご飯を食べる

公園の落ち葉が舞って、ゆっくりと芝生に落ちてくる。

天気も曇っていて肌寒い。少し前まで暑かったのがウソみたいだ。

一年中薄暗く気温が変わらないウスグラーイ領とは大違いだ。すみれの話ではもうしばらくしたらユキというものが降るらしい。

カップの蓋を開けると、コーヒーの香りと共に湯気が上がる。

ベンチに腰掛けたクロカゲは、テイクアウトしたサンドイッチを1口かじりコーヒーを飲んだ。

前にコーヒーを飲んだ後にミソラに近づいたら「匂いがちょっとイヤです。近寄らないでください」と言われたので控えているのだが、コーヒーは好きだ。


「…そんなに臭いだろうか」


口臭には気を使っているし歯医者にも通ったしこの世界で販売されてるデンタルリンスなるものを買って毎回歯磨き後にクチュクチュしてるのだがと思いながらクロカゲが自分の口の匂いを嗅ぐ。けれども分からない。

ミソラに会えなくなって3週間が経った。

ゴールキンとの戦いが始まってから、ミソラはウスグラーイ城に来てないし連絡も取れない。こちらから連絡しても応答無しだ。


「ハア…」


戦いを見ていても普通じゃないミソラの様子を思い出し、クロカゲが嘆息する。

一体何をあんなにムキになっているのだろうか。まったく分からない。


「クロカゲ」


人払いの魔法を使っているはずの公園で、自らの名前を呼ばれクロカゲが振り返る。

パリッとしたスーツを着こなした、金髪の白人男性だ。クロカゲがその名前を呼ぶ。


「ゴールキン、いや、今はゴールウィンか」

「いかにも。先ほど授業を終えてきたばかりだ」


ALTの教師ゴールウィンの姿で、ゴールキンがしゃべる。


「わざわざウーリーンに姿を変えさせて学校に潜入するとはな…。何が目的なんだ?」

「決まっているだろう。最高の勝負をするためだ」

「最高の勝負?」

「ワタシが求めるのは強者との最高の戦い。そのためにあの者達を鍛え、導き、ここまで時間と手間をかけてきたのだ」

「最高の戦いねえ…。できそうなのか?」

「フッ、2人は無理そうたが1人は可能性がありそうだ」

「1人? 誰なんだ?」

「マジカル・シャイニングだ」

「シャイニング?」


ゴールキンの答えに、クロカゲが眉をひそめる。

弱いとは言わないが、同じ接近戦タイプで身体能力にすぐれるウィンディ、頭脳と技に長けているスカーレットと比べると劣るシャイニングの名前を出されるのは意外だった。


「あの者の強くなりたいという思いは他の2人より強い。それこそが人を強くするのだ」

「根性論だな。そんなんで強くなれるのかよ」

「なれる。ワタシがそうだったからだ」

「…」

「伝説の戦士などと言われているが、幼少のみぎりのワタシは弱い存在だった。そんな自分を変えたくて、ワタシはワタシを鍛え続けたのだ。クロカゲよ、貴様もそうであろう」

「…」

「本当の強さとは己の弱さを見つめ、それをどう克服するか考えられる事だ。人と比べられるものではない。それを乗り越えた時、人は本当の強さを手に入れられるのだ」

「…」

「だからワタシはマジカル・プリンセスを認めない。力を手に入れただけで、最強の存在となったマジカル・プリンセスが…」

「マジカル・プリンセス?」

「…やはり貴様は、いや、この時代のマジカル・ランドの人間は知らぬのか。伝説の戦士マジカル・プリンセスの存在を」

「…マジカル・プリンセスってのは何なんだ?」

「フッ、それはこの時代のマジカル・プリンセスが現れた時に明らかになるであろう」

「…」


「ひとつだけ教えてやろう。はるか昔に邪神に操られた魔法使いと邪神を倒したのはワタシではない」

「何?」

「無論ワタシも戦ったがな。マジカル・プリンセスが魔法使いと邪神を倒したのだ」

「…」

「そしてワタシはそれが許せなかった。当然であろう? 何の鍛錬もしておらぬ、ただ力を得ただけの者が最強の存在となるとは…。そしてワタシはマジカル・プリンセスに戦いを挑んだが、拒否されたのだ」

「…」

「ワタシはそれが心残りだった。だからマントにワタシの思いを託したのだ。いつか機会が来た時マジカル・プリンセスと戦えるようにな。魔王に利用されるとは思わなかったがな」

「…マジカル・プリンセスと戦えたら、どうするんだ?」

「無論、ワタシの強さを証明するまで。その後の事など知ったことではない」

「…」


強さこそは本物で、言っている事も立派だがその実強さに囚われ強さに溺れているゴールキンの発言にクロカゲが目を細める。

コイツも、結局の所自分の事しか頭にないのか。


「まあ、マジカル・プリンセスの他にも戦いたい相手がいるのだがな」

「誰なんだ?」

「貴様だ、クロカゲ」

「…俺?」


眉をひそめるクロカゲ、その顔をまっすぐ見つめるゴールウィン、もといゴールキンが「フム…」と頷く。


「やはり貴様は覚えておらぬのか、あの時の戦いを」

「ちょっと待て、一体何の話をしてるんだ」

「…まあよい、貴様との戦いはマジカル・プリンセスの後だ。その時が来るのを楽しみにしているぞ」

「お、おい、ちょっと待てよ」


クロカゲが止めるのも聞かず、ゴールキンがその場を後にする。

それを見送ったクロカゲが、呆然とつぶやく。


「…一体何の話なんだ」


以前鍛錬から戻ってきた時も戦いを申し込まれたが、何の話だかさっぱり分からなかったクロカゲが小首をかしげる。

あるとすればジャ=アークや他の魔王の幹部と戦った時だが…


「…その時の事、全然覚えてないんだよな」


どういう訳だかその時の記憶がないクロカゲが、改めて疑問に思う。

一体どうして記憶が抜け落ちているのか。

そもそもジャ=アークや他の魔王の幹部達と1人で戦ってなぜ生き残っているのか。

自分の力は他の幹部よりも弱いのに、なぜ。


「…」


考えても分かりそうにないので、クロカゲはお昼を再開した。

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