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魔法少女、嫁になる。  作者: アブラゼミ


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第20話 マジカル・スカーレット

魔法なんてない。




少女は幼心にそう思っていた。

物心つく頃から生活は苦しく、服は近所の子のお下がり、電気代がかかるからとテレビも見させてもらえずおもちゃも買ってもらった事もない。

そんな彼女にとってテレビやアニメの話をするクラスメート達は違う世界に生きている存在に思えた。


変身願望もない。

少女は自分をかわいそうだなんて思わなかった。

魔法のステッキも、可愛い服も、ピカピカのアクセサリーも欲しいとは思わなかった。

少女は、早く大人になりたかった。

大人になってお金を稼ぎたかった。


そんな彼女が魔法少女のアニメを知ったのは10歳の頃だった。

学校から支給されたタブレットでたまたま見た魔法少女の物語。

動画配信サイトの公式チャンネルで1週間限定で好きな時に見られる見逃し配信。

少女は近所の商業施設のフリーWi‐Fiにつないでそれを見るようになった。

その間は、少女にとって幸せな時間だった。

他の子より一回り遅れて、少女は魔法少女もののアニメに夢中になった。

なけなしのお小遣いをはたいて、中古のお店でアニメのグッズを買った。本を買った。


でも魔法のステッキは高くて買えなかった。

やっぱり自分は魔法少女になんかなれない。

魔法少女になるのは自分のような女の子ではなく、きれいな家に住み、きれいなお洋服を着て、かわいい顔をしたごく一部の女の子だと思った。




「お願いします! 私と一緒に魔法少女になって戦って下さい!」

ある日唐突にそう言われた時は本当に驚いた。

まさか自分が魔法少女に選ばれるなんて。

変身し必殺技を使っても、信じられなかった。

けれどもマジカル・スカーレットに選ばれたのは自分だった。

憧れの魔法少女に、赤城早苗はなれたのだった。




西園寺すみれに会った時、この子こそ魔法少女になるのにふさわしいと思った。

と同時に言いようのない嫌悪感を感じた。

スタイルのいい身体、整った顔立ち、きれいな髪。そして恵まれた家庭環境。

自分が欲しい物を、自分にない物を全て持っているすみれの事が早苗は妬ましくてしかたなかった。

でも本当は分かっていた。

すみれだって苦労してきたという事を。

大きなピアノの横に詰み上がったボロボロのバイエルに、少女はすみれの努力を垣間見た。

擦り切れたバレエシューズ、使い込まれた英語の辞書、ほとんど泣き顔しか写っていない子どもの頃のアルバムにお金持ちの子供に生まれるのも楽じゃないと少女は悟った。

本当は知っていた。

すみれがスタイルを維持するために頑張っている事を。

すみれが何か想像もできない苦労や苦悩を抱えている事を。

自分が今の現状に甘え、それを打開する事を考えてない事を。




そしてずっと思っていた。

短気で高飛車でツンケンした所はあるものの、誰よりも仲間思いで、誰よりもまっすぐで、誰よりも自分に厳しいすみれの事が、かっこいいと。

マジカル・シャイニングは誰よりも身体を張って仲間を守る。

何度倒されても立ち上がって、諦めない。




早苗は本当は、すみれに憧れていたのだ。

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