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第2話 魔法少女、ゆびきりげんまんをする

「やっと、夢が叶いました…」

「…」


聞こえてきた信じられないような少女の言葉。

クロカゲは、自分の耳を疑いながらもその意味を考える。


「…?」


けれどもさっぱり意味が分からない。

夢? 一体何が?

クロカゲは、空耳か何かの聞き間違いだろうと結論付けた。




「…」

「…」




見つめ合う2人。

沈黙が部屋の中を支配する。

クロカゲが少女の身体を起こしその縄を解く。

そして正座して向かい合い………頭を下げた。


「誠に申し訳ございません!」

「…」


ベッドの上で土下座するクロカゲの頭を見ながら、少女が口を開く。


「謝って済む問題とでも?」

「…」


少女の言葉に返す言葉もなく、冷や汗を垂らしながらクロカゲは土下座を続ける。


「…ハア、顔を上げて下さい」

「…」


少女の様子を伺いながら、クロカゲはおそるおそる顔を上げる。

おそるおそる伺った少女の顔は、心なしか赤い。


「…いくつかお聞きしたい事があります。正直に答えて下さい」

「は、はい」

「私以外の2人を捕まえていたら、あのような事をしていましたか?」

「…い、いいえ」

「あの2人ではなく私だからあんな事をしたという事ですか?」

「………は、はい」

「それはつまり………わ、私の事がす、すすす好きという事ですか?」

「…はい」


クロカゲの言葉に、少女がパッと目を逸らす。

その横顔は真っ赤になっていた。

横を向いたまま、少女がクロカゲに問い続ける。


「も、もうひとつお聞きしたいのですが… あなたに奥さんやお付き合いしている方はいますか?」

「い、いません…」

「好意を寄せている方は?」

「き、君だけです」


クロカゲの返事に、少女の顔がますます赤くなる。


「い、いいでしょう。ならば判決を下します!」

「は、判決?」

「わ、私の初めてを奪ったのですからあなたにはその責任を取って頂きます!」

「…はい」


少女の言葉に頷きながら、クロカゲは覚悟を決め目を閉じ辞世の句を心の中で読む。


「責任を取って………私をお嫁さんにして下さい!」

「………はい?」

「き、聞こえなかったのですか!? 私をお嫁さんにして下さいって言ったのです!」

「…正気か?」

「本気です!」


クロカゲが戸惑った様子で少女に声をかける。


「え? お嫁さん? なんで?」

「そんなの決まってるではないですか!? 私の初めての……ゴニョゴニョを奪ったのですから責任を取って頂きます! 私をお嫁さんにしてください!」

「だからなんで?」

「なんでもヘチマもありません! 私をお嫁さんにしなさい! いいですね!?」

「は、ハイイ!?」


理解も納得もできないけれど、少女の勢いに押され、クロカゲは頷く。


「契約成立です! ゆびきりげんまん、ウソ吐いたら針千本のーます!」

「の、のーます?」


何が何だか分からないまま、クロカゲは少女に小指を絡まされゆびきりをする。


「指きった! ハイ! これで私はあなたのお嫁さんです!」

「え? ナニコレ? 呪い? リアル・ワールドの何かの呪い?」

「そのようなものです。破ったら針千本飲む事になります」

「何それ怖い」


聞いた事もない呪いをかけられ、クロカゲが戦慄する。


「では次に、あなたの事を聞かせてください」

「俺の事?」

「お嫁さんになるのですからお婿さんとなる方の情報を知っておくのは当然です。さあ、初恋の相手からこれまでお付き合いしてきた相手の事まで洗いざらい話して下さい!」


尋問のような様子におびえながらも、クロカゲはポツポツと自分について話す。

自分は元々マジカル・ランドの人間である事、

元はマジカル・ランドのウスグラーイ領の領主である事、

魔王ジャ=アークに領民を石にされ、それを元に戻す約束で魔王の幹部になった事、

これまで誰の事も好きになった事もなければ、付き合った相手もいない事などを話した。

…特に最後の事については、やたらとしつこく入念に聞かれた。


「それではあなたは、仕方なく魔王の幹部になってるんですね?」

「そうだな、仕方なく協力している」

「領民を石から戻すと約束したとの事ですが、その人達は元に戻ったんですか?」

「戻ってない。君も見ただろ?」

「え?」

「この館の廊下に並べられている石像、あれがウスグラーイ領の領民だ」

「っ」


クロカゲに言われ、少女は引っ立てられながら歩いた廊下を思い出し息を呑む。

確かに妙にリアルな石像が並べられていたが、あれが全部石に変えられた人間だったなんて…


「虹のカケラを見つけたら戻してもらえるという約束だが、君達も知らないようだし、そもそも約束を守ってもらえるかどうか…」

「ではなぜ魔王に従っているのですか? 約束も叶えてもらえるかどうかわからないのに…」

「従うしかないだろ? それしか皆を石から戻せる方法がないんだから」


クロカゲがボサボサの黒髪をうっとうしそうに掻く。

クロカゲの顔をじっと見て「髪を切れば中々…」などと思っていた少女は、ある事が気になりクロカゲに尋ねる。


「なぜあなたは石に変えられなかったのですか? チャッピーの話では、マジカル・ランドの住人はすべて石に変えられたという事でしたが…」

「それが俺にもよく分からないんだ。皆が石に変えられた時も普通にここで仕事してたし。同じ部屋にいた奴は石に変わったんだが……なぜか俺だけ石にならなかった」

「魔王があなただけ石に変えなかったという事ですか?」

「それがそうじゃないらしいんだ。魔王と初めて会った時に『何故石になってない者がおるのだ!』とか言ってたし…」

「何か特別なマジックアイテムを身に着けてるとか?」

「いやまったく」

「それともあなたは特別な存在とか?」

「いや全然」

「じゃあ何であなただけ石になってないんですか!」

「俺にも分からないよ…。そんな大きな声出さないでくれ」

「し、失礼しました…」


何やら複雑そうな表情をしている少女の顔を、クロカゲが覗き込む。

覗き込まれている事に気づいた少女はパッと顔を逸らし、鏡で髪を整えた後「よし」と頷いて改めてクロカゲに向き直る。


「クロカゲさん、王女様について何かご存知ないですか?」

「王女様?」

「チャッピーが言っていたのです。この国には元々王様と王妃様とその娘の王女様がいたと」

「ああ…、そうだな」

「王様と王妃様は魔王に姿を石像に変えられたけど、王女様はそこから逃れ脱出したとか…。その王女様が私達魔法少女の切り札になると言われてるのです」

「へえ…」

「クロカゲさん、王女様がどこにいらっしゃるかご存知ないですか?」

「王女様がどこにいるか? 知らないな。そもそも王女様がどんな人なのか知らないんだ」

「そうなんですか?」

「公式行事に出てたのは王様と王妃様だけだったし、名前も公表されてなかったからなあ。噂じゃ庶民に混じって学校に通ってたとか…。公に出たのは生まれてすぐの赤ん坊の頃の写真だけだし、王国の人間はほとんどそれしか知らないと思う。俺もそれしか見た事ない」

「そうですか…」

「ジャ=アークから探せと言われてるんだが…。顔も知らないし探しようがないし、知ってても探す気はないな」

「フム… つまり王女様は安全って事ですね」

「そうか?」

「だってこの世界の人間はもうあなただけですし、そのあなたが王女様を知らないんじゃ見つけようもないでしょう?」

「ああ、まあそうだな。でも…」

「でも?」

「王女様の前に、俺と君がこれからピンチだけどな…」

「どういう事ですか?」

「魔王は大きな鏡みたいなもので俺達の戦いを見てるんだ。だから俺が君を打ち負かした事、君を捕らえた事を知ってるだろうしこれからどうすればいいのか…」

「…」


ベッドの上で黙り込みうつむく2人。

しかしクロカゲが何かを思いついた様子で顔を上げる。


「えーっと……マジカル・ウィンディ」

「ミソラです」

「ミソラ?」

「はい、それが私の名前です。これからはそう呼んでください」

「変わった名だな……でも、きれいな名前だ。ミソラ」

「ありがとうございます」

「ミソラ、頼みがある」

「何ですか?」

「もう一度縛らせてくれ」

魔王の幹部 クロカゲ

年齢:21歳

身長:184cm

体重:68kg

特技:特にない

趣味:特にない

好きな食べ物:特にない

苦手な食べ物:特にない

最近の悩み:これからどうしよう

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