第16話 魔法少女、夏祭りに行く
「夏祭りに行きましょう!」
ミソラの呼びかけに、ウスグラーイ城に集まったクロカゲ・早苗・すみれが顔を上げる。
クロカゲは何やら書類仕事、早苗とすみれは夏休みの宿題をしていた。
「夏祭り? なんで?」
「夏だからです!」
「夏だからか」
「何よその理由」
「アハハ…」
ミソラの返答にクロカゲは無表情で復唱し、すみれは呆れ、早苗は苦笑する。
「悪いけど私はパスするわ。大学が夏休みになった兄が帰省してくるから家族で食事に行くの」
「私もごめんなさい…。学校の友達と行く約束しちゃってて…」
「むう、仕方ありませんね! クロカゲさん、夏祭りデートしましょう!」
「何でだ?」
「私が行きたいからです!」
「身も蓋もない答えね」
「アハハ…」
「…まあ、構わないけど」
かくしてミソラとクロカゲ、2人で夏祭りに行く事になったのであった。
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夕方に入り日が落ちたとはいえリアル・ワールドは暑い。
むっとした空気に、頬から汗がしたたり落ちる。
気温の暑さだけじゃない。人の多さによる暑さもあるだろう。
普段は寂れている商店街に、人が集まっている様子にクロカゲは目を細める。
「クロカゲさん! お待たせしました!」
「ああ、待った」
「そこは『俺も今来たところだ』っていう所ですよ!」
「オレモイマキタトコロダ」
「何で片言なんですか!?」
「いやだって…、なんだこの茶番」
一緒に行けばいいのになぜか待ち合わせをして待たされたクロカゲが不満そうな顔をしてタオルで汗を拭く。
夏でも涼しいウスグラーイ領にいる彼は、暑いのが苦手なのだった。
でも待たされた甲斐があって…
「ふむ…」
「な、なんですか?」
「いや、その服と髪型似合ってるな。新鮮で可愛い」
「えへへ! ありがとうございます!」
水色の涼しげな浴衣に髪もアップにしたミソラがその場でくるんと回る。
「ミソラ、ちょっとこっちに来てくれ」
「? なんですか?」
「じっとして」
クロカゲがミソラの髪に触れ何かを付ける。
「? 何を付けたんですか?」
「髪飾りだ。うん、よく似合ってる」
満足気に頷くクロカゲ。それとは対照的にミソラが困惑した表情になる。
「…あの、クロカゲさん。髪飾りをもらえたのは嬉しいのですがひとつ問題が」
「うん?」
「どんな髪飾りなのか私が見れません」
ミソラに言われクロカゲがハッとした顔になる。
確かに鏡も何もない場所で付けられても、どんな髪飾りなのか分からず困るだけだろう。
「す、スマン」
「いえ…。あ! あっちのお店の前のガラスなら見れそうですよ! 行きましょう!」
「あ、ああ…」
その後鏡で髪飾りを確認したミソラに喜んでもらえたからよかったものの、出鼻から失敗した感を感じてクロカゲは肩を落とすのだった。
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「見て下さいクロカゲさん! お店がいっぱいですよ!」
「…ああ、人もいっぱいだな」
「もー、クロカゲさん! そんな盛り下がる事言わないで下さい! 盛り上がっていきましょう!」
「ス、スマン」
ミソラと手をつないで夏祭り会場を歩くクロカゲが、歩幅の違いと歩く速さの違いでギクシャクしながら歩く。
それだけではない。元気にしゃべるミソラの声は喧噪の中でもよく通るが、ボソボソしゃべるクロカゲの声は周りの音にかき消されてしまう。ミソラに何度も聞き返されるくらいに。
話している内容もどうにも噛み合わず、1ターンか2ターンで終わってしまう。
「あ、お面だって。ミソラ。お面つけないか?」
「あの…、クロカゲさん。私子どもじゃないんですよ?」
「ス、スマン…」
「もらった髪飾りも付けてる事ですし、お面はいいです」
「ス、スマン…」
「もー、謝らないでください」
こんな感じで今日のクロカゲは謝ってばかりだ。
気分を変えようとクロカゲがラムネを2本買い、ミソラと2人椅子やテーブルが並んだテントの下に行く。
ラムネを一口飲んで一息吐いたクロカゲが、せっかく座った椅子から立ち上がる。
「俺なんか食べ物買ってくるよ。何がいい?」
「え? 私も一緒に行きますよ?」
「いいからいいから。何がいい?」
「じゃあ…お好み焼きがいいです」
「りょーかい」
何か言いたげなミソラをその場に残し、クロカゲがお好み焼きを買いにテントを出る。
「ハーッ…」
そしてミソラから離れた所で、深いため息を吐く。
女の子と付き合うなんて初めてだからどうしていいか分からない上に、その相手が住む世界も性格も真反対なミソラなだけに余計に難しい。
頑張って合わせてみようとしたり、こっちの世界の本を読んでみたりしたけど空回りしてばかりだ。
壁ドンした際は腹パンでKOされたくらいだ。反射的に手が出てしまったらしい。
「どうすりゃ、いいのかな…」
「何をですか?」
「そりゃミソラと……ってミソラ?」
「ハイ」
「ど、どうして?」
「待ってるだけなんてイヤです。せっかくの……夏祭りデートなんですから」
「ス、スマン…」
自分の気持ちを優先して、ミソラの気持ちを考えられなかった事を反省し、クロカゲが謝る。
今日はとことんダメだなと思いうつむいたクロカゲを見て、ミソラがフンと鼻を鳴らす。
「クロカゲさん」
「な、なんだ?」
「んんーっ!」
ミソラに思いっきり背中を叩かれクロカゲがビクン!と伸びる。
「…な、何すんだ…」
「何すんだ、じゃありません。一体どうしたんですか?」
「どうしたって…」
「今日のクロカゲさんは変です。謝ってばかりで、楽しそうじゃありません。せっかくのデートなのに」
「ス、スマン…」
「んんーっ!」
「っ!?」
ミソラに再び背中を叩かれ、クロカゲがビクン!と伸びる。
「謝るの禁止、です」
「ス……分かった」
「んっ」
「んっ?」
突然差し出された手に、クロカゲが小首を傾げる。
「ここからは私がエスコートします。クロカゲさんは黙ってついてきてください」
「え? でも…」
「無理に自分が引っ張ろうとか、無理に話を続けようとかしないでいいですから。私に任せて下さい」
「しかし…」
「『でも』も『だが』も『しかし』も『だって』も禁止です。私についてきてください」
「…」
色々禁止され、クロカゲが反論する言葉を失う。
「私はクロカゲさんといるだけでも、楽しいんですから」
「…」
ミソラの言葉に、クロカゲが少し汗ばんだ頭をくしゃくしゃと掻く。
少し考えすぎたのかも知れない。
ミソラはこう言っている事だし、肩肘張らずについていこう。
「…分かった。じゃあ頼む」
「ハイ!」
その後、ミソラのエスコートにより2人は夏祭りデートを楽しんだ。
「…あら? あれって…?」
しかし。
「なんでアイツがあの子と一緒にいるのかしら?」
その姿を偶然夏祭りに来てたミズ・シズクティーヌに見られていた事に、2人とも気づいていないのであった。
夏祭り 好きな屋台の食べ物は?
ミソラ お好み焼き
すみれ たこ焼き
早苗 焼き鳥
クロカゲ 特にない




