第13話 ドロンドロン! 超本気のドロローン!
ウスグラーイ領ウスグラーイ城、夜。
クロカゲの部屋で本を読んでいたミソラが本を閉じ、ソファでこちらも本を読んでいたクロカゲに話しかける。
「クロカゲさんクロカゲさん、この本の続きの巻ってどれですか?」
掲げているのはマジカル・ランドでベストセラーになっている物語だ。
クロカゲがその表紙を見ながらミソラに答える。
「ないぞ。その巻が最新刊だ」
「えー!? 続きが気になりますー! 続刊はいつ出るんですか?」
「当分出ないだろ」
「えー!? どうしてですか!?」
「どうしても何も……この世界の人間は皆石になっちまったんだ。続きなんて出せるわけないだろ」
「むー……ジャ=アークめ、許せません!」
ジャ=アークに向けて怒るミソラ。その様子を見ながらクロカゲがしみじみつぶやく。
「もうそこまで読んだのか、夏休みに入ってから読み出したのにハイペースだな」
「面白いですから! つい読みふけってしまいました!」
「………そうか」
再び読書に戻るクロカゲ。その前に寄ってきたミソラがクロカゲの顔を覗き込む。
クリっとした大きな目、風呂上がりで下ろした髪、シャンプーの匂いにクロカゲが距離を取ろうとしたがソファの背もたれに阻まれてしまう。
「クロカゲさん、私の好きな所ってどこですか?」
「…うん?」
「クロカゲさんは、どうして私の事を好きになったんですか?」
「…」
ミソラの言葉に、クロカゲが読んでいた本を閉じる。
「考えてみれば教えてもらった事ないんですよね。クロカゲさんが私を好きになった理由。何なんですか?」
「………教えない」
「何でですか!?」
「そんなの恥ずかしいだろ…」
「恥ずかしがらずに教えて下さい!」
「君だって俺の好きなところなんて恥ずかしくて言えないだろ?」
「背が高い所と顔です!」
「外見かよ…」
「もちろん内面も好きです! 私は教えました! さあ! クロカゲさんも教えて下さい!」
「………教えない」
「何でですか! 私が教えたんだからクロカゲさんも教えてください!」
「君が勝手に教えたんだろ。俺は教えない」
「ケチー! クロカゲさんのケチー!」
ケチー! ケチー!と連呼するミソラを無視するクロカゲ。
そのクロカゲがひとつため息を吐いてミソラに話しかける。
「…それよりミソラ、大事な話がある」
「何ですか?」
「ドロローンの事だ」
「ドロローン? あの弱い泥の怪人ですか?」
「ミソラ、ドロローンは強いぞ」
「そうですか? とてもそうは思えないのですが…」
「確かにおつむは弱いがあんなのでも魔王の幹部の1人だ。そのドロローンが次回が最後のチャンスと言われてるから本気で来る。いつ襲ってくるか今回は分からないんだが……雨の日に気をつけろ」
「雨の日ですか?」
「そうだ。ドロローンは雨の日に本領を発揮する。…詳しくは俺もあまり覚えてないんだがな」
「覚えてないんですか!?」
「それがなあ…。どういう訳だか魔王の幹部達と戦った時の記憶があやふやなんだ。とにかくドロローンは雨の日に強かったという事だけは覚えてる。もっとも残ってる魔王の幹部達も強かったけどな」
「ミズ・シズクティーヌと・・・ゴールキンっていう方ですよね」
「そうだ。今は身体を鍛えに行ってるとかで姿を見ないんだが…マジカル・ランドに言い伝えられている伝説の戦士だ」
「そんなすごい戦士が…どうして魔王の手下なんかやってるんですか?」
「さあな。ただあれは間違いなくゴールキンだ。俺も本でしか知らなかったんだが、下手したら魔王より強いかもしれん」
「そんなに強いんですか…」
「でも今はまずドロローンの事だ。いいか、雨の日に気をつけろよ。雨の日だぞ」
「はい! 分かりました!」
元気良く返事をするミソラ。
しかし彼女が本当に分かってくれているのか、クロカゲは不安になるのであった。
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「ドロン!」
ドロローンがそう唱えると土煙が立ち込めドロローンの姿が一瞬にして消えた。
「ドロロン!」
「シャイニング、後ろ!!!」
「え? きゃあああ!!!」
そしてマジカル・シャイニングの背後に一瞬にして現れその太い足で蹴り飛ばした。
「シャイニング!」
「ドロロン!」
ドロローンが両手から泥の塊を飛ばす。
「ぐっ!?」
「きゃあ!?」
それがそれぞれスカーレットとウィンディに命中した。
「ドロン!」
「また消え…」
「ドロロン!」
「キャー!!?」
姿を消したドロローンがいきなり背後に現れ吹っ飛ばされたシャイニングが悲鳴を上げる。
「シャイニング!」
「くっ… 大丈夫よ…」
「雨の日にこんなに強くなるなんて…!」
クロカゲの忠告を聞かなかった事を、ミソラことマジカル・ウィンディは後悔する。
「ヘイヘイヘイ、どうしたんだーい? そんなんじゃボクに勝てないぞー?」
梅雨の雨が降りしきる中、いつもより身体が一回り大きくなったドロローンが魔法少女達を挑発する。
身体だけではない。強さも、速さも、技も普段とは桁違いに能力が上がっていた。
おまけに地面に潜り泥を操る能力が冴えに冴え渡り、魔法少女達は手も足もでない状態に陥っていた。
「ううっ… 泥がべちゃべちゃで気持ち悪いよう…」
足や服や身体についた泥を落としながら、スカーレットが見るからにテンションが下がった状態になる。
ただでさえ雨で濡れて気分が上がらない中、泥までつけられ気持ちも悪いし足場も悪いしで魔法少女達の士気は上がらないままだった。
「いけません、このままでは…!」
必殺技は躱され、攻撃は食らい続け、テンションも下がってきていてダメな状態に陥っている仲間達を見ながら、マジカル・ウィンディが顔をしかめ何か打開策はないかと策を巡らせ辺りを見回す。
そして空を見上げ………あることに気が付いた。
「雨が、弱くなってる…?」
先ほどまでと比べ、雨が小雨になってきている。
黒い雲も薄黒い雲へと変わっていた。
そしてドロローンの身体も……先ほどより心なしか小さくなっている気がした。
「スカーレット! シャイニング!」
ウィンディが2人に呼びかける。
「逃げましょう!」
「「え!?」」
「いいから早く!」
走り出したウィンディに、戸惑いながらもスカーレットとシャイニングがついてくる。
「えっ? 待てー! 逃げるなんて卑怯だぞー!」
突然自分に背中を向けて走り出した魔法少女達を、ドロローンがプンプン怒りながら後を追う。
「ウィンディ! なんで逃げるのよ!」
「今のままではアイツに勝てません! だから時間を稼ぐのです!」
「時間? 何の時間よ!」
「雨です! 雨がやむまでの時間です!」
ドロローンが発射する泥爆弾を躱しながら、ウィンディとシャイニングが会話を交わす。
「雨? ウィンディ、雨が何か関係あるの?」
「ドロローンが強くなってるのは雨が降っているからです! だから雨がやめばあの強さはなくなるはずです!」
「それって……あの人の情報?」
「はい」
「…今は信じるしかなさそうね。足止めしながら逃げ続けるわよ!」
シャイニングの判断に、スカーレットが頷く。
「スカーレット・アロー! 乱れ打ち!!!」
「ドロン!?」
スカーレットの放った炎の矢の乱れ打ちが、後を追うドロローンの動きを止める。
「ライトニング・ストラーイク!」
「ウィンド・カッター!」
続いてシャイニングが光の弾を投げつけ、ウィンディが風の攻撃を飛ばした。
「こんなの効かないよーん!」
しかしドロローンに片手で軽くあしらわれる。
「シャイニング! 攻撃がしょぼすぎます!」
「ウィンディだって大した事ないじゃない!」
「うん2人共、ケンカしてる場合じゃないから私に任せようね!?」
近距離攻撃はすさまじい威力があるものの、中遠距離攻撃はへっぽこなシャイニングとウィンディを仲裁しながら、スカーレットが炎の矢を放ちドロローンを牽制しつつ逃げ惑う。そうして逃げている内に…
「2人共! 雨がやみました!」
ウィンディに言われシャイニングとスカーレットが空を見上げる。
黒い雲は薄曇りに変わり、雲の切れ間からは空も見える。
そして雨は……完全にやんでいた。
「鬼ごっこの時間は終わり? 倒される覚悟ができたのかーい?」
「倒されるのはそっちです! あなたのスーパー強化タイムは終了です!」
「ド、ドロン?」
ウィンディに言われ、ドロローンは雨がやんでいる事、自分の身体が元の大きさに戻っている事にようやく気づく。
「サイクロンラーッシュ! ハアアアアア!!!!!」
ウィンディの拳が、蹴りが、裏拳が次々ドロローンにヒットしていく。
「ドロン!?」
動きが鈍ったドロローンの身体が少しずつ削れ、崩れていく。
「シューティング・スター!」
「ドロロン!?」
シャイニングの体当たりが、ドロローンを直撃する。
先ほどまでであれば避けられた攻撃だ。ドロローンの能力は完全に低下していた。
「スカーレット・アロー!」
「ドロローン!!?」
とどめはスカーレットの炎の矢だった。
炎の矢が胸に直撃し、ドロローンが崩れ落ちる。
そして、ただの土へと還っていったのであった。
………
……
…
『ええい途中まではよかったのに何をしておるのだドロローンめが!』
「あらあら、やられちゃったわね」
「仕方がありませんねー。ドロローンさん。もう少し賢ければ勝てたでしょうに」
「…」
一方その頃、マジカル・ワールドでは魔王の間で魔王ジャ=アークとその幹部達が戦いを鏡で見ていた。
魔法少女達に敗れ土になったドロローン。
それを見ながらクロカゲは小さな声で誰にも聞こえないようにこう言った。
「願いが叶ってよかったな、ドロロ―ン」




