第12話 魔王の幹部、公園に行く
「ありがとうございましたー」
お昼ご飯と飲み物を買ったクロカゲが、コンビニを出てくる。
今日は平日の火曜日。
魔王からの呼び出しもなく、ミソラも学校のため1人になれる貴重な時間だ。
ミソラの事は好きだけど、たまには1人になりたい。
クロカゲはたまに1人時間をリアル・ワールドで楽しんでいるのだった。
『人払いの魔法』をかけて、クロカゲは公園のベンチに腰掛ける。
平日の昼間にブラブラしてると、紺色の服を着た『おまわりさん』なる者達に『ショクシツ』とかいうのをされるのだ。
初めてショクシツをされた時におまわりさん達を魔法で眠らせてその場を逃れたクロカゲは、面倒になったのでリアル・ワールドの公園で過ごす時には『人払いの魔法』をかけるようにしていた。
お昼ご飯をモッシャモッシャ食べながら、クロカゲが辺りを見回す。
きれいに刈られた芝生、草の種をついばむ鳥たち、まぶしい太陽、青い空。どれもマジカル・ワールドには今ないものだ。
クロカゲの住むウスグラーイ領は天候に恵まれず一年中曇り空だが、マジカル・ワールドの世界もリアル・ワールドと同じで元は太陽が昇り自然も豊かだった。
けれども魔王ジャ=アークが来てからは、世界は闇に包まれ木は朽ち草も枯れ果て、大地もひび割れている。
「…」
あの世界を取り戻したいとは思うものの自分1人じゃどうもできない。
けれどミソラ達魔法少女を巻き込んでいるというのも申し訳ない。
マジカル・ワールドの問題はマジカル・ワールドの人間である自分が解決したい。
クロカゲは真剣に悩んでいた。
しかし魔王とその幹部達相手に自分が勝てるビジョンは浮かばない。
「無力だな、俺は…」
魔王ジャ=アークがマジカル・ワールドを征服した時に戦いを挑んだが、その戦いをどうにも覚えていない。記憶があいまいだ。
「あっれー? クロカゲじゃん。こんな所で何してるの?」
突然声をかけられ、クロカゲが身構える。
身構えるが…、声をかけてきた相手を確認して構えを解く。
「ドロローンか。お前こそ何してる」
「リアル・ワールド見物だよ。こっちはあっちより面白いもの多いし自然も豊かだし。クロカゲもそうでしょ?」
「…ああ、そうだな」
「ボクさ、こっちの自然好きなんだー。気持ちいいよねー」
「…そうか」
魔王の幹部の中でも、やたらと気さくに話しかけてくる泥の怪人ドロローンにクロカゲは毒気を抜かれる気分になる。
別に仲間意識とかはないが、敵対感情も抱きにくい、複雑な相手だ。
「お前、こんな所でのんびりしてていいのか? ジャ=アーク様に『次が最後のチャンスだぞ』と言われてるだろ?」
「言わないでよクロカゲー。ちゃんと分かってるさー。それに準備だってちゃんとしてるからねー」
「…」
自分がいつ魔法少女を襲うか連絡してる相手が目の前にいるとはつゆ知らず、ドロローンがペラペラとその下準備について話す。
それを聞いてクロカゲが内心焦りを覚える。
ミソラ達はドロローンを弱いと思っているが、実際はそうじゃない。
ドロローンはある条件が整えばかなり厄介な相手なのだ。それは覚えている。
どうやって彼女たちに危機感を抱かせるかと悩むクロカゲを尻目に、ドロローンが隣のベンチに腰掛ける。
そして、空を見上げながらこう言った。
「ねえクロカゲ、ボクが倒されたらさ。こっちの世界にボクを持って来てよ」
「…何言ってんだ」
「ボクって土から作られたから、倒されたら土に戻ると思うんだよね。ジュモクンが枯れ木に戻ったみたいに。その土をこっちに持って来て欲しいんだよ」
「何でだ?」
「だってこっちの方が自然豊かだし、ボクも土になったらこっちで過ごしたいんだよ。お花とか咲かせてみたいんだ」
「フン、こっちの世界であの連中にやられたらこっちの世界の土になれるんじゃないか」
「あ、そっか。クロカゲって頭いいねー」
「お前と話してると頭痛くなってくるよ…」
次回が最後のチャンスだというのに、呑気なドロローンにクロカゲが呆れる。
仲間意識なんてない。
コイツも消えるべき相手なのだが……悪い奴じゃないだけに複雑な気分だ。
「じゃ、ボクはマジカル・ワールドに帰るねー。クロカゲはゆっくりしていきなよー」
「…ああ、そうする」
「じゃあねー……ドロン!」
地面に消えていったドロローンを見送り、クロカゲは空を見上げる。
「…厄介なもんだな」
魔王の幹部と魔法少女の味方、今や2つの立場を持つクロカゲは、
そんな事を独りごちるのだった。




