第1話 魔法少女、捕まる
「ドロロ~ン!」
「チャピー!?」
とある町はずれの公園。
魔王の幹部の1人と魔法少女3人の戦いの最中に、突然地面から現れた怪人が魔法少女の精霊を掴む。
「ドロローン! 貴様、何してる!」
「魔王さまに頼まれたんだよ~ん! コイツを捕まえてこいって。クロカゲ~! こいつらの足止めよろしくね~ん!」
魔王の幹部の1人、泥の怪人ドロローンが精霊チャッピーをわしづかみにしたまま地面に消える。
「チャッピー!」
「卑怯よ! 正々堂々戦うこともできないの!」
魔法少女達が、戦っていた魔王の幹部のクロカゲをなじる。
「皆さん! ここは私に任せてください!」
水色の長いポニーテールをなびかせた魔法少女の1人が、一歩前に出て他の少女達に呼びかける。
「この方のお相手は私がします! 皆さんはチャッピーを!」
「でも…」
「早く!」
魔法少女のリーダー格、赤い髪のツインテールの少女がうん、と頷きこの場を少女に任せる事を決める。
「分かった。ここは任せたわウィンディ。私達はチャッピーを追いましょうシャイニング!」
「ええ! 分かったわスカーレット!」
ドロローンとチャッピーを追って、赤髪の魔法少女と金髪の魔法少女2人が駆けだす。
咄嗟に追いかけようとしたクロカゲだったが、目の前に立ちはだかる水色の髪の魔法少女に止められる。
「あなたの相手は私です!」
「…いいだろう。いざ、いくぞ!」
互いに駆けだす魔法少女マジカル・ウィンディと魔王の幹部クロカゲ。その蹴りと左手の手刀がぶつかる。
「ハアアアアア!」
「オオオオオオ!」
ウィンディとクロカゲは以前からライバルとしてお互いを意識していた。
「トリプルハリケーン!」
「ダークフレイム!」
風の魔法と影の魔法がぶつかり火花を散らす。
互いに魔法をまとわせた肉弾戦を得意とする者同士。2人はこれまで何度もぶつかり熱いバトルを繰り広げていた。
「ブラックサンダー!」
「ツイントルネード!」
互いに認める好敵手、自分が倒したい相手。それが2人の互いに対する認識だった。
「サイクロンラーッシュ! ハアアアアアア!!!!!」
「ダークネス・フィンガー! オオオオオオオ!!!!」
風をまとった拳と蹴りの鋭いラッシュと、左手を大きな影で覆った鉤爪がぶつかる。
「ハアアアアアア!!!!!」
「オオオオオオオ!!!!!」
互いに初めて見せる切り札の必殺技。それが凄まじい勢いでぶつかる。
そして…
「きゃあああああああ!!!」
勝利したのは、魔王の幹部クロカゲだった。
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闇の鉤爪に引き裂かれた少女が、後方に2、3回バウンドして倒れる。
不思議な光に包まれ、コスチュームは変身前の制服姿に戻り伸びていた水色の髪の毛も元の青髪に戻る。
自らも魔法を使うとはいえ、不思議なものだなと思いながらクロカゲが倒れている少女へと近づく。
「くっ… 辱めは受けません! 殺しなさい!」
「そうはいかないな。貴様は魔王ジャ=アーク様の元へ連れて行く」
力を使い果たし仰向けに倒れている少女の背中を支えて起こし、後ろ手に縄で縛り始めながらクロカゲは言う。
戦いですべてを出し尽くした少女は、もはや抵抗する力もなく、身動きひとつせずになすがままになっている。
「(…泣いているのか? 無理もない、少し前までただの普通の女の子だったろうに)」
ぐっと唇を噛み締めながら涙をこらえている少女の様子に、クロカゲは気の毒だと思い同情する。
魔法の世界の戦いに巻き込まれ、魔法少女にされて少女が戦い始めてまもなく3ヶ月。
少し前までごく普通に過ごしていた少女に、縛られ囚われの身となるという経験は酷なように思えた。
この少女を魔王の元に連れて行ったらどうなるだろうか?
虹のカケラのありかを聞き出せと命じられ、魔法少女達に戦いを挑み始めてひと月。
「虹のカケラはどこだ?」と問いかける度に「知らない」と言っていた様子を見るに本当に知らないのだろう。
しかし魔王はきっとそうは思わない。
虹のカケラのありかを知ってるはずだという思い込みの下、少女にキツイ拷問を食らわせるだろう。最悪殺されてしまうかもしれない。
「…『テレポート』!」
クロカゲは、少女を自分の城に連れ帰る事にした。
「…ここはどこなのですか? 魔王とやらに会わせてくれるのでしょう?」
「ここは俺の城だ」
「え? 魔王の下に連れて行くのではなかったのですか?」
「…魔王様の手を煩わせるほどでもない。貴様の身は俺が預かる事にする」
魔法の国の最東端。ウスグラーイ領に構えるウスグラーイ城の中をクロカゲは少女を引っ立てながら進む。
城とは言っても中は誰もおらず廊下に石像が並ぶばかり。クロカゲはここに1人で暮らしていた。
「(さて…、この娘事どうしよう)」
魔王の下に連れて行けばきっとひどい拷問に遭ってしまうだろうからとここに連れてきたものの、尋問してもムダだろうと分かっているからする気は起きない。
かと言って解き放ってしまったら魔王から厳しい叱責が飛ぶだろう。
それより何より、
「(何なんだこの感情は…? この、胸の高鳴りは…)」
少女を見ながらクロカゲは生まれて初めての感情に戸惑っていた。
「?」
顔をジッと見てくるクロカゲに少女が小首を傾げる。
その瞬間、クロカゲの理性は吹き飛んでいた。
「きゃっ!?」
自分の居室に入るやいなや少女をベッドの上に転がし、クロカゲ自身もベッドに上がる。
よつんばいでにじり寄って来るクロカゲに少女が怯えた表情になる。
「な、なにするつもりですか? 近寄らないで下さい!?」
「…」
女性経験など一度もない。
恋をしたことすらない。
けれどもクロカゲの身体は本能的に動いていた。
「な!? や、やめ…! やめなさい…! …んう!? んんう~~~!!?」
クロカゲは、少女に覆いかぶさりキスをした。
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「(…やってしまった)」
本能のままに行動してしまったクロカゲは行為が終わった後、荒い息を吐きながらベッドに横たわる少女を見る。
その大きな瞳は潤んでいて、頬は上気して赤く染まっている。
着衣は乱れ、肌は汗ばみ髪も汗でつやめいている。
口元は自らの唾液とクロカゲの唾液で濡れていた。
クロカゲは少女が初めてだった事を悟っていた。
「(お、俺は… 何て事を…!)」
後悔に項垂れるクロカゲ。
その様子をじっと見る少女。
少女は、クロカゲを見ながらこう言った。
「やっと、夢が叶いました」と。