第一話 【首狩り公】
エンジンの轟音が響き、一定の間隔で地響きが鳴る。軍服を着た軍人達が行き交い、空には軍艦が浮かび、周囲は壁に囲われている。ここはアルトーナ帝国帝都、航宙軍第2基地。屈強な軍人達の中に、一人の青年がいた。彼の名は「レイジ・スカウト」。アルトーナ帝国航宙軍最年少のパイロットだ。だが、彼が乗るのは戦闘機ではない。腹に響く轟音を立てながら開いた格納庫の中から現れたのは、巨大な人形の機械。【人型戦闘兵器アールディルテ】だ。大地、空、そして宙。全てを駆ける事が出来る万能兵器だ。そして、最新の兵器でもあるため、本来経験の少ない若者が乗れる兵器ではない。だが、彼は乗れている。それは彼の経歴にあった。彼が新兵だった頃、敵国であるバーディア連邦軍によって強襲され、壊滅しかけた。だが、彼は修理が完了したばかりで、地下工廠に格納されていたため一機だけ破壊されずに済んだアールディルテに乗り込み、武装を持たないまま、飛来した敵機、20機全てをたった一人で全滅させた。そのため、彼は特例で第三アールディルテ連隊『ストームブリンガー』に配属された。彼は、先輩パイロットから多くのテクニックを伝授され、さらに実力をつけた。軍隊であるため、戦闘はあった。それでも脱落者は出ず、レイジはおおむね平穏に過ごせていた。だが、その平穏は突然失われた。バーディア連邦が新開発した重武装次元潜航戦艦【ディストーション】により、『ストームブリンガー』は壊滅、彼が尊敬していた連隊長も、彼の目の前で重レーザー砲の光に飲まれた。そして、彼らを犠牲にしたにもかかわらず、【ディストーション】を撃沈するには至らず、撤退させる決め手となった艦橋への損害も、レイジが与えたものだった。それ以来、レイジは基本的に軍の他のパイロットを信用せず、近接特化のブレードを持ち、単機で敵軍に多大な被害を与えてきた。敵を一刀の下に切り捨てるその姿に、敵からは恐怖を、味方からは敬意を持って付けられた二つ名は、【首狩り公】である。とはいえ実際に首を切る訳ではない。敵を一撃で仕留めるために付けられただけだ。と、その時、
「スカウト!レイジ・スカウトはいるか!」
彼を呼ぶ声が響いた。
「ああ、俺だ」
「おっ!お前が【首狩り公】か!着いてきてくれ、博士が首を長くして待ってる」
「了解した、あの人を退屈させるわけには行かないからな」
「そういうこった、話が分かるな。面識があるのか?」
すると、彼は薄く笑い、
「さてな」
とだけ答えた。
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「おっ、来たかねレイジ君!」
基地内にある工廠、その格納庫の前にいた中年の男性が、レイジの名を呼んだ。
「来たぞおっちゃん、何の用だったんだ?」
すると周囲にいた数名が、
「「「おっちゃん!?」」」
と叫んだ。しかしこの反応も当然である。なぜなら彼は軍の中でもかなりの権力者であるからだ。なんせ……
「ルナーク技術少将に対しておっちゃん呼びだと……!?」
「博士とすら呼ばない、こいつはいったい何者なんだ……?」
「少将以上の階級なんてほぼ無いし、若い中将以上の人は聞いたことが無いから上官ということはないはずだぞ……」
そう、彼ことルナーク・ハルトムルトは少将なのである。それに対して、レイジの階級は中佐だ。本来そんな呼び方をすれば|MP《Military Police》にしょっぴかれてもおかしくない。だが、
「良いんだよ、彼はね。私が許可した、というよりもお願いしているんだ。親しみを込めた呼び方をしてほしいとね」
少将からのお願いなど、ほとんどの階級の者から見て命令と一緒である。そのため、周りの軍人は納得した。
「疑念が晴れたようで何よりだ。で?なんか良いものをやるから来るように、なんて言って、何をくれるんだ?」
そんな中、レイジは恐れを知らない。周りがざわついた後も平然と『おっちゃん』呼びである。
「そう焦らないでくれ、今から見せるから……」
「…………わかった」
そうすると、ルナークは格納庫の横のスイッチを押した。すると、轟音を鳴らしながら格納庫の入り口が開き……………………一機の漆黒のアールディルテが現れた。
作者は科学が苦手です。本職の方や得意な方からすれば意味がわからない事を書くかも知れませんが、許してください。