プロローグ 暗い宙(そら)
書きたいものを書こう、というコンセプトで始めました。お付き合い頂けると幸いです。
そこは無音の世界。どこよりも高く、暗く、美しい、死の世界。瞬く星々以外に明かりの無い暗黒の世界に、閃光が走る。それを契機に、無数の光がその世界を飛び交い始めた。彼方より訪れる金属の塊。光を放ちながら進む、流線型の金属。それは軍艦だった。赤い布に金色で剣と盾が描かれた旗を掲げた艦隊と、青い布に黒色で翼を広げる鳥の描かれた旗を掲げた艦隊が、その砲火を交える。そして、一隻、また一隻と、互いに砲撃を受け、その装甲を撒き散らして沈んでいった。だが、その後ろからさらに軍艦が、光の環を通り現れる。減るどころか増え続ける軍艦。その戦いは永遠に続くように思われた。だが、それは唐突に終わりを告げた。赤い旗を掲げた艦隊の環から、巨大な軍艦が現れた。人々はそれを空母と呼んだ。空母は、その身に付いた沢山の蓋を開き、その中から何かを射出した。それは、《人》だった。いや、人のような見た目の金属塊と言った方が良いだろう。それは各々、手に武器を持っていた。そして、それらは敵対する艦隊を、次々と駆逐していった。慌てふためき、背を向け、その場から逃げようとする軍艦達。それを、彼らは許さない。逃げるための環には、すでに敵が回り込んでいた。赤く輝く線の入った黒い装甲。そして、これも赤く輝く剣。敵は一人だ、突破してしまえ。哀れな艦隊は、唯一の希望に向かって邁進する。その背後で、追っていた艦隊は足を止めていた。艦隊の長は、さらに希望を見いだした。しかしそれは、絶望へ一直線に進んでいるだけだったのだ。黒い敵機は、先程までの機体とは段違いの速度で接近してきた。接近された艦は、なす術なく両断され、爆散した。長は目を見開いた。その機体が、それの何倍も大きく、堅牢な艦を両断したという事実も驚きに値するが、彼が驚いたのはそこではない。両断する。それが特徴の、敵の切り札とも言える存在を、彼は知っていた。たった一機で、例え劣勢であったとしても優勢にしてしまう、『ゲームチェンジャー』。そして、敵軍として現れる、黒と赤の機体。その二つ名は……
「……………【首狩り公】」
それが、天を舞う大鳥の紋章を掲げた艦隊、『バーディア連邦』軍、艦隊長だった彼が残せた、最期の言葉だった。