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追放令息と進む傭兵の道。  作者: 猫科類
国境の街
27/30

国境の街③


「…遅くなってしまって、すみません。」

視界をなるべく遮断し、無心で朝食を食べ、きちんとミアにお礼を言ってからカリアンに合流する。

色々と思うところがあり、少々気まずい…


「別にいい。」

村人と話していたカリアンは、いつもと変わらない雰囲気だ。

疲れや眠そうな感じは見受けられない。


チラチラと顔色を伺っていると、カリアンの周囲にいた村人達がさーと距離をとっていく。


「?」

その腫れ物に触るような雰囲気に戸惑う私の頭上に大きな溜め息が落ちた。


「狼狽えるな。」

「…すみません…」

「出発の準備はできている。荷馬車には店主のダレンとベントレーのじぃさん、ノアが乗る。俺とお前は、野盗共の監視も兼ねて後方から続く。」

カリアンの視線の先を追い、荷馬車を確認する。

荷馬車の準備はすでに万端。

いつでも出発ができそうだ。


「了解です。」

カリアンの指示に短く返事をする。

こんな時、ストルエーセンでの内乱戦や国境防衛戦を思い出す。

どの戦場でも、私にとって頼りになるのはカリアンだった…

最善の判断、最善の指示。そして、攻めも逃げも素早く判断してくれた。

貴族の名ばかり将軍よりも、カリアンの方が頼もしかった。

だから……煙たがられたのだろうか…




おっと…そんなことよりも、私がカリアンに真っ先にしなければならないことがある。

それは、


「あ、あの…寝すぎたようで…申し訳ありません…」

そう、謝罪だ。

とりあえず、寝坊に関しては確実な事実なので謝罪が必要である。

だが、


「別にいい。起こさなかったしな。」

「っ!」

頭を下げよとした私の肩にカリアンの大きな手が乗る。

顔を上げれば、カリアンの琥珀色の瞳と目が合った。

カリアンの目の下に隈は見当たらない。


「あ、あの…」

「何だ?」

「よる、寝れました…?」

「……」。

黙らないでください!!

これは…そうなのか…


「…うるさかったですか…」

「…あー…」

「!」

否定しない!?!

つまり…!


「…うるさかったんですね…」

最悪だ…

つまり…自分は気持ちよく爆睡してるくせに、カリアンに対しては睡眠妨害をしていたと確定ではないか…!


「…ごめんなさい…」

情けなさ過ぎる…

情けなさに、顔を両手で覆い謝る。


「違う…!俺も寝た…煩くもなかった…」

「でも…」

煩くなかったか問いかけた時の沈黙が全てを語っているとしか思えない…


「う、るさかったのには、俺にも原因がある…」

「原因…?」

手の隙間からカリアンを伺い見る。

カリアンの瞳が揺れ、肩に置かれたカリアンの手かスルリと腕を撫でる。


「同じベッドで寝た…。」

「同じ…」

そういえば、そうだったような……

そうだった!

狭いベッドが更に狭くなったのを覚えている!!

確かに、


「狭かった!だからくっついてた!」

「あぁ…」

「…」

「…」

「そりゃー…」

唸るわ……

納得した。

狭いベットでムキムキマッチョと2人で寝れば、そりゃ、寝苦しいに決まってる。

寝苦しければ、唸るだろうし、歯ぎしるだろうし……

寝返りも一苦労だったことだろう……


煩くなった原因はわかった。

だが、原因が何であれ、煩かったのも事実。

騒音の原因が自身だけではないと思ったら、少し心に余裕が出た。

カリアンの手はいつの間にか私の手を握り、親指が手の甲をゆっくり撫でている。


「睡眠妨害、しませんでしたか…?」

素直に問う。


「されてねぇよ…むしろ、お前…」

「私?メッチャ寝ました!」

寝坊する程寝た!


「だろうな…。覚えてねぇもんな…」

「う…煩くてゴメンナサイ…」

爆睡中のことなんて覚えてないが、やっぱり謝っておいた。


ほんの少し、罪悪感が薄れたところで別の問題に切り替える。

こちらは、私としては納得できない。


「そういえば…護衛料はタダだそうで…。」

口を尖らせると、先程まで触れていた手が離れた。


「ああ。色々汚したし、壊したからな。」

カリアンがチラリと宿屋に視線を向ける。


確かに…宿の食堂の床は野盗の血でシミができてしまっているし、扉などにも傷がつき、窓も割れている。

なので、汚した、壊したと言われれば…そうなのか…?


考えてみよう……

窓を割って侵入してきたのは野盗だ。私達のせいではない。

床の血染みは、私が倒した野盗の………

回り回って私が原因……?なのか…?


「これから、この村には金がいるだろうしな…」

優しい…

カリアンが優しい…


だが、コレとソレは別だ。

こちらだって命を張ったわけだしーー


「ポーション代は貰うんだろ?お前お手製の。」

「…そうですケド…」

えー…言い方…

確かにポーションや傷薬はストルエーセン王国に居た頃に作り貯めていたお手製の物。

私がチマチマ薬草を採取し、チマチマ作り上げた無費用の手作り治癒薬。

それを今回の怪我人に使った。

そして、その代金を請求した。

…おかしな所はない…やましいことも無い…

のに……… 


「宿代もタダ出しな。」

「……」

宿代タダ、治癒薬代と護衛料を貰い、少しでも手持ちの資金を節約し、できれば増やしたい…

そう思う私は卑しいのだろうか……?


カリアンが護衛料タダとか、村が大変とか言うから、

何だか変な罪悪感が…


「…、…、…仕方ないですね……」

溜息。

カリアンの優しさと村の今後に完敗した。

治癒薬代金だけで我慢しよう……


「でも、優しすぎるのも問題です。」

釘を刺しておく。

戦場では敵に容赦のないかリアンも、素では優しく気遣いのできるいい男なのだ。


顔面のせいで逆の意味に受け止められることもあるが……


「今回は…仕事じゃない。」

「…そうゆう事にしておきます…」

いつかカリアンの優しが裏目に出てしまわないか心配で仕方ない。


この後、カリアンと簡単に情報や今後の摺り合わせを行い、私は大急ぎで出発の為の準備に取り掛かる。

大体の荷物はカリアンが先に運び出してくれたが、私個人の荷物や装備は部屋に置かれたままになっている。

急いで装備を整え、忘れ物がないか部屋の隅々を確認した。

荷物を持ち宿の外に出ると、ちょうどカリアンが馬を引いてこちらに向かってくるところだった。


今日は何から何までさせてしまっている……


「ありがとうございます…」

ダメダメだ…

凹む心を笑みで隠してカリアンから手綱を受け取る。


「……」

視線を感じる…


「…?」

何か言いたげだが、結局何も言わず馬に跨るカリアン。

私も馬に跨り、カリアンの後に続く。


「…」

呆れられたのだろうか……

今日は、寝坊もしたし、役立たずすぎるし…



「シェリス」

「はい?!」

突然、馬の歩みを止め、馬ごと振り返るカリアン。


「…」

「…」

ジッと見つめてくる。

眉尻は少し下がっているのに眉間の皺は深い。

何かしら言い難いことがある時の顔だ…


国境を越えた時も怒られたし、寝坊したりと気の緩みがあった……

弛んでいる、と怒られるのだろうか……

ドキドキと発せられる言葉を待つ。


「俺は、もう貴族じゃない。」

「…?…はい…」

予想していなかった言葉に戸惑う。

領主である御父上に勘当されたカリアン。

つまりーー


「俺は、平民だ。」

「……、ええ…はい…」

勘当され、辺境伯爵令息の肩書は無くなった。

おそらく、家系図からも消されることになるだろう……


「お前は…、俺について来て………、家族と縁を切った。」

「…はい。」

勝手な出奔は家族にも罪や罰が及ぶ可能性がある。

関わりの少ない両親はともかく、可愛がってくれた兄には迷惑はかけたくなかった。


「俺も、お前も、もう平民だ。」

「……、……はい…。…そうですね?」

「……。」

「…?」

元辺境伯爵子息のカリアン。

父の1代限りとはいえ准男爵家の私。

勘当されて、出奔して、2人揃って名字を捨てて、平民になった。


「それが…?その…」

何だというのか?

確認?


「ハァ…」

「!?」

深く重く、長い溜息をカリアンに吐かれた。

何か違うのだろうか…

認識に差があるのか?


カリアンは小さく咳をすると、


「俺も、お前も今は平民だ。貴族の頃の様に従わなくて良い。その…お前が言った、幼馴染みで親友…で…、…ぃ…、…だ。」

最後の方は尻すぼみに声が小さくなり聞き取れなかったが、【幼馴染みで親友】、この言葉には覚えがあった。



かつて、カリアンが荒れに荒れた頃、酒場で暴れるカリアンを連れ戻しに行った事がある。

あの時は私にも色々あって、不本意ながらカリアンの異母弟の側近をやっていた(やらされていた)頃だ。

自暴自棄で暴れるカリアンと殴り合いの末、側近でいられないなら、ただの友達になろう。幼馴染みで親友だ!!

と叫び、朝日が登る中、泣きながら抱きしめあった。

青春映画さながらの出来事…………


アレ(・・)、か……


「…、確かに…幼馴染みで、親友、ですが……」

うおぉ……恥ずかしい……アレを思い出すのは…ちょっと…いや…かなり恥ずかしい……


青春映画さながらのクサイセリフと拳での語り合い…

あの時の行動や発言に後悔はしていない。

あの出来事が原因かはわからないが、カリアンの自暴自棄な行動は落ち着いた。

が!!

こっ恥ずかしい……思い出すと身体がギュィ~ってなる…


さらに、この話を持ち出したカリアンまでもが恥ずかしそうに視線を反らしてしまっては……


恥ずかしさが10倍くらいには膨れる……


「………その…なんだ…」

「……ハ、ハイ……」

2人でモジモジしていると、


「ごめんなさいね…」

「!」

「!!」

「大事なお話し中に悪いんだけど、そろそろ出発したいみたいなの…」

と、村長奥方のミア。

気付けば周囲は見送りも含めて村人が集まっており、


「駆け落ち、だな…。」

「駆け落ちか…。」

と、ヒソヒソと声が聞こえる。

誤解されているが、今はそれよりも何もかも全部が恥ずかしい。


「!!すみません!!」

私は、生暖かい視線から逃げるように馬車に向かって馬を疾走らせた。


馬車の御者台には宿の店主兼村長のダレンと元村長のベントレー爺さん。

荷台には見張りと荷物番を兼ねてノアが座っていた。


気を取り直し、比較的冷静に務める。


「おまたせしてしまって、申し訳ありません。」

「いえいえ…」

ダレンが苦笑した。


「ふぉふぉ!若いのぉ〜。」

ベントレー爺さんは笑顔。


「だ、大丈夫、です…。」

ノアは、真っ赤になりながら視線を反し、三者三様の返事がかえってきた。



まだ出発してない……

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