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追放令息と進む傭兵の道。  作者: 猫科類
新たな地へ
24/30

新たな地へ㉓


私は午前の明るい爽やかな太陽下、村から離れた荒野のど真ん中に穴を開けていた。

スコップ等は使わない。


手を地面につけ集中しイメージを膨らませ、土系魔法[土流(アスフーロー)]を発動させる。

土流(アスフーロー)も便利な土属性(アス・エレメント)生活魔法(リャイフ・マジック)で土を流れる水のように操れるのだ。

つまり、掘ったり、盛ったり、固めたり、移動させたりがこの魔法で可能になるのだ。

使用魔力量は、魔法効果範囲や移動させる距離によるのは勿論だが、深さ、硬さ、穴や盛る形等イメージの細かさで変わる。

この魔法は色んな場所、用途で使用される万能な魔法だ。


生活に馴染んだ場面としては、残飯等のゴミを埋める為に使用される。

一般的に生ゴミは自宅の庭の片隅や決められた場所に穴を開けてそこに捨てるのだ。

大工や土木工事等の職業に就く者は、この魔法で穴を掘ったり、掘った穴の側面を崩れないように固めたりする。

農業に携わる者であるなら、畑のウネを作る時、種を撒く穴を開ける時だろうか。

狩人ならば、罠を仕掛ける時。

旅人は、道中用を足したい時に人目につかない場所でこの魔法で空けた穴に排泄し、土をかけて蓋をするのだ。

つまり、この魔法はスコップであり、シャベルであり、ショベルカーであり、(くわ)である。


魔法発動時に土が液体の様に動き、蛇のようにうねりながら動く様子は見ていて面白い。



私が土魔法で空けた穴にカリアンが荷車から野盗の遺体を引き摺り下ろし、放り込んでいく。

ただし、その遺体に首はない。

頭部は討伐証明として騎士ギルドに引き渡さなければならない為既に切り落としてある。


……カリアンの斧で綺麗に一発で胴体とサヨナラしていた……


頭部は、道具屋の店主が用意してくれた木箱に纏めて入れ、保存魔法をかけて中身(頭部)が腐らないようにしてある。


保存魔法や空間魔法等の時間や空間に関する魔法はなかなかに魔力消費量が多く、一般人には馴染みのない魔法だが、私は[錬金術師]や[魔術師]の職種も持っているため比較的使用する頻度が多い。



カリアンが野盗の首無し遺体を全て穴の中に放り込むと、土流(アスフーロー)で穴の縁に盛り上がる土を移動させて穴を埋めていく。

更に、表面もなだらかにした。

作業が終われば、どこに遺体を埋めた穴があったかわらないほどにになっていた。






首無し遺体の処理を終え、斑の馬が引く空の荷車と共に村に戻ると、村は一層静まり返っていた。


遺体処理のため村から出た時には居た見張りは、不用心にも誰も居なかった。


夜中とは違う静けさの中を馬の蹄の音と荷車がガタゴトと揺れる音だけが響く。

村の入口から宿屋まで誰とも会うことはなかった。

おそらく皆、教会裏の墓地に行ったのだろう。


誰も歩いていない村の1本道を進み、広場に出る。

改めて明るい日差しの下で見るこの村は、広場の草は刈られ、しかし、家々のちょっとした所には花壇があったりする。

野盗に襲われることがなければ、長閑(のどか)で落ち着いた、ゆったりした村だったのだろう。

宿屋も改めて見ると西部劇の酒場みたいな外観だった。


宿屋の中には、店主も奥方も居らず、長柄鎌を扱っていたご老人がちょこん、とカウンターの椅子に腰掛けていた。


「行、かれなくて、良かったのですか?」

皆、葬儀に行き、誰か居ても野盗の見張りだけだと思っていたので、少し声が上ずってしまった。


「あぁ、いい、いい。この歳だとすぐ会いに行くことになるでぇ。それに、誰かかんか、おったほうが良い思て。」

「そ、そうですか…」

ご老人の年齢が年齢だけに、何とも言い難い……


「…野盗の見張りは?」

カリアンが問いかける。

厳しい表情のカリアンに臆することなく、ご老人は、


「本当は、もっと人数置いて見張っとりゃならんのだろうが…、あんたらがしっかり縄で縛ってったで、ノアが見張っとるよ。」

と、言った。

1人で見張り?

思わず二階を見上げる。


「ノアと若い者の4人で見張っとる。扉の前に3人。廊下に1人だ。」

「そ、うですか…」

ちょっとホッとした。


「若い衆が意気込んどった。村ぁ、護るんだってな。」

「それは…、無理をしない程度に頑張っていただきたいですね。」

「ほんとになぁ。」

ご老人が苦笑する。

村を護りたいと思ってくれることは嬉しが、危ないことはしてほしくない。誰もが思うことだ。


「引き止めて悪かったなぁ、村長達が戻って来たら声かけるでぇ、休んでくれ。」

「あ、いえ、私が声をかけてしまったので…。では、部屋に居ますので。何かあれば、早めに声をかけてください。」


スマンスマン、イエイエ、とご老人と言い合いながら、私はカリアンと共に階段を上がる。


「…たまに年寄りクセェよな。お前。」

「!?!」

階段を上がりながらのカリアンの余計な一言は疲れた私を苛つかせるには十分だった。

抗議の気持ちをたらふく含め、カリアンが階段を上りきった所で肩をドンとぶつける。

が、カリアンの身体が揺らぐことはなく……


「いってーなぁ…」

「あぁ!」

意地悪そうに口元を笑ませたカリアンの太い腕が瞬時に首に巻き付き、その手で下から顎を掴まれ、グッと引き上げられる。



「い、イタイイタイっ…!」

金属の胸当てが米神(こめかみ)に当たって痛いし、大きくゴツゴツした手のひらで掴まれた両頬も無駄にグニグニと押し揉んできて……その上、身長差により私は爪先立ち…どころか、浮きそうになってしまい……

イタイ!フツーにイタイし体勢がツライ!!首モゲル!!

そもそも!!カリアンの筋肉にぶち当たった私の肩の方が痛かった!!


ジタバタする私をニヤニヤと意地悪そうに見下ろすカリアン。


「ぁ…」

と、小さな声が聞こえた。

私でもカリアンでもない声。

私を見下ろしていたカリアンの視線が上がる。

私は首を固定されてしまっているため眼球を必死に動かして声の主を探す。


「…お、お疲れ様です…」

ガタリと木材の擦れる音と知った声。

この声は、ノアだ。

多少距離があり、か細いがノアの声だとわかった。

……目視できていないが……


たしか、一階に居た爺様がノアと数名で捕まえた盗賊を見張っていると言っていた。

ノアは見張りとして廊下にいたのかもしれない。


「ノハァ…タイショフデシュカァァァ……」

カリアンの両頬を押し込む手が邪魔で上手く喋れない。

しかし、爽やか好青年のノアは上手く察してくれたようで、


「は、はい…。そ、その、野盗の…埋葬の方、ありがとうございました…」

と、労ってくれた。


「ヒヒえ~……」

上手く喋れないが、手をヒラヒラさせて少しでも気にしないようにジェスチャーをする。


「…、」

「俺達は部屋で少し休む。店主が戻ったら誰か起こしに来い。」

「わ、わかりました」

カリアンの指示にノアが返事をし、返事を聞いた途端、


「ふぐぅ!」

突然の方向転換に、思わず口の中の空気が漏れる。


カリアンがノアの声を遮った様に聞こえた気がするが……

そんな事を気にする暇もなく、


「ヴ、あ、ちょ!はな…!うぅ…!」

カリアンの大股な歩幅に私のつま先はついて行けず、ほぼ引き摺られる様に宿の短い廊下をノア達の居る野盗の監禁部屋とは反対側、私達が借りている部屋へと進んだ。






引き摺られながら部屋の扉を潜るとすぐに、私の首は開放された。

とはいえ、グニグニされた両頬も上を向き過ぎた首も痛い。


バタリと音を立てて閉まる扉。


「そんなに気に入ったのか?」

そう問われて私は頬を擦りながら、ガチャリと鍵を締めたカリアンの背中に視線を向ける。


「随分と、気にかけているようじゃねぇか。…お優しいこった。」

カリアンがベッドの方へ移動する。

視線は外さない。


誰をのこと、とは問わない。

先程話していた相手(ノア)のことだろう。

どんな理由でそんな事を聞いてきたのかは解らないが、私は素直に答える。


「ノアを気に入っているか、は、まぁ、この村の住人の中では、くらいですね。あと、優しくはないですよ。むしろ、優しいのはカリアンでは?」

カリアンと目が合う。

振り向き、私を見下ろすカリアンの眉間には嫌そうに深い皺が刻まれている。


「ふ…」

思わず吹き出してしまった。

私は苦笑しながらテーブルの上の木桶の中の水を確認する。


既に昨晩汲み、沸かした湯は水になり、更に一度使用した事で濁ってしまっている。

……つまり、使えない。


水を汲みに行くのは、些か面倒………さて、どうしたものか……

と、悩んでいると、


「俺は…」

と、小さな声がした。

眉間に深い皺を寄せ、俯くカリアンからの、その体格と強面に似つかわしくない程の小さな弱々しいつぶやき。

何が言いたいか察しがついている私は、小さく息を吐く。


「…優しくない、ですか?」

「…ああ。」

ほら、やっぱり。

などとは言わないが……

私は、この水を使っての諸々の洗浄を諦めた。

そして、カリアンの方へ振り返り軽くテーブルに腰をもたれかける。


カリアンは、身体や顔面の厳つさ、顔の傷。そして、色々あってグレた時の言動だったり、戦闘中の猛者ぶりから怖がられる事が多……少なからずあった。

そのイメージにより、多……少なからずカリアンは自身を卑下し自虐的な発言をすることがある。


『俺は、乱暴で恐ろしく醜い。礼儀も知らない恥晒しの役立たず』等とーー


だが、そうではない事を私は知っている。


「優しいじゃないですか。村の人達を野盗から守った。」

「お前もだ。」

「私は、カリアンに従っただけです。」

「…、こんなこと誰だって、」

「できませんよ。」

かぶせるように言えば、カリアンが睨むかの様に見つめてくる。

その瞳は、いい加減なことを……と、語っていた。

たが、私は思ったことを言っているだけなので、別に気にならない。

カリアン自身がどう思おうと、私は優しいと思っているのだ。

なぜなら、


「私は…、途中で見捨てようかと思いました。」

「……」


カリアンの瞳が今度は驚愕し見開かれる。

彼はどれだけ私を善人だと思っているのか……


この村を見捨てようとしたーーー事実だ。

むしろ、最初から頭の片隅にはあった。

かなり早い段階で………


宿の部屋で異変に気づいた時。

そして、侵入した野盗を討ち取って情報を得た後。

その2度のタイミングで、私はこの村からの脱出を少なからず……どころか、かなり考えた。


理由としては、私にとって村人よりもカリアンと己自身の安全が第一だったのと、1晩寄っただけの村とその村人を命がけで守らなければならない理由が無かったから。


おそらく見捨てても私の良心は、傷まなくはなはいが、残念だ、と思う程度。そして、仕方なかった。と、片付けたに違いない。


前世ならこんな風には…………そもそも、前世日本でこんな状況に出くわすことがないか………似たよう場面は……コンビニ強盗……では釣り合わないな……紛争地帯……だったら……とか…?


とにかく、今世は戦争や魔獣との遭遇等で誰しも死は極端に身近。

自身の身を護るのに精一杯でもある世界。

なので、私の考え方が異常であったり極端な訳ではない。むしろ、一般的かもしれない。

我が身を削って弱きをーーと思う者の方が少い。

いないわけではないが、限度がある、ということだ。


残念ながら、前世でも今世でも、私は聖人君子ではないし、ヒーローでもヒロインでも、正義の味方でもないのだ。

そうなりたい、とは思うが……

その為に、本当に守り、助けたい人を守れない、助けられないとか、自分が死にました……では、ね……

なので、この村に留まり最終的に野盗のボスまで倒すことになったのは、カリアンが、そうする、と決めたから。


「カリアンは優しい。」

笑んで伝えると、カリアンはフンと鼻を鳴らし黙ってしまった。

顔を背けられてしまったが、耳や首が赤くなっているのを私は見逃さなかった。




カリアンが何で気分が下降したかはわからないが、とにかく少しでも早く身体を休めたい。


体を水拭きすることは諦めたので、不本意ながら浄化魔法を使う。


「クーリーン」

フワリとした生温い風の様なものが素肌をなで上げ、汗のベタつきや、土埃によるザラつきが無くなる。

髪をくくっていた紐を外せば、髪もサラサラだ。

頭皮の脂っぽさや臭いも気にならない。

服も洗濯後のパリッと感や明るさは無いものの、埃っぽさや湿っぽさはなくなっている。


カリアンも浄化魔法を自身にかけたようだ。

私とは違い力仕事をしたので、かなり汗をかき、シャツの背中部分は濡れて色が変わっていたが、今はカラリとしている。


私は、無駄にウロウロと室内を行き来しながら休む為に装備を解いていく。

疲れすぎてジッとしていられない感じだ。


剣帯を外しベッドの枕元、ヘッドボードの丸みを帯びた突起に引っ掛ける。

ベルトを外し、ウエストポーチごとナイトテーブルに置き、脇腹から腰を締め付けるコルセットも取り外す。

コルセットと髪紐を無造作にテーブルに放り置き、シャツの裾をズボンから引っ張り出しながらベッドの横に立つ。

残念ながらの就寝着の様な楽な格好になって休むことはできないので、少しでも体への締付けを取り払うことに専念する。

今世にチャックはないので、ズボンの前閉じはボタンか紐だ。

今回はボタンタイプ。

シャツの下でズボンのボタンを全て外しながら、ブーツから足を引っこ抜きベッドに乗り上げる。

靴下を引き抜き、纏めて履き口でクルリとして、ブーツの片方に突っ込む。

そして、


「あ゛ぁ゛~……」

しっかりと濁点を付けて枕に突っ伏す。

綿では無く、そば殻枕の様な枕だったので少々鼻先が痛かった……

…中身は何殻だろ?

なんて、ぼんやり考えていると、


「?」

ギシリ、とベッドの軋む音と共に真横の敷布が沈み混む。

何だ?と、首をそちらに向ければ、


「ちょ…え…?」

カリアンの巨体がグイグイと私をベットの端、壁の方に押しやる。

お貴族様用のキングやクイーンサイズではないのだ。

シングルサイズだ。

シングルよりも細いのだ。

長さは足りても細めなのだ。

シングル弱サイズなのだ。



「せま…ちょ…私の、え?な、なに…?!」

押しやられながらも半身を起こし、カリアンとカリアンが使う予定のベッドを交互に見やる。


カリアンのベッドには、私達の武器やら装備やら、荷物が置かれている。

……。

ベッドに?武器?装備?荷物?

そちらをテーブルなりに移動させれば、ベッドでちゃんと寝れるはずだ。

え?面倒とか?お前がアッチ行け的な?

そもそも、武器やら装備をベッドにナゼ置いた?


ベッドの上で正座になり、カリアンが使うはずだったベッドを見つめる。


動くのメンドクセーーー……

考えるのもーー


「ぅ゛…」

ヌッ、と伸びた大きな掌に横っ面を掴まれ、そのまま頭を枕に押し付けられる。

ほぼ土下座状態……


今世に土下座という行為?所作?は有るのだろうか…

なんて、どうでもいい考えが一瞬過るが、眼の前にあるカリアンの逞しいご尊顔に固まる。


ちゃっかり枕を持って来たカリアンとの距離は、狭いベッドの上では驚くほど近かった。


カリアンの琥珀色の瞳には私が映っていた。


ストック切れました……(泣)

一旦確認、手直しして、ストックできたら上げていきます。


お読みくださり、本当にありがとうございます!!

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