新たな地へ⑳
私は、ノアを残し前に出る。
ただひたすらにピンク丸2つに向かって歩みを進める。
茂み越しにジリジリと近付いてきていた者達は、真っ直ぐ向かう私に隠れる意味は無いと知った様で、二人の男が出てきた。
途端にピンク丸は赤丸と変化する。
出てきた男の1人は、大きく腹の突き出た男で斧を手にしている。
もう一人は細身で杖を持っている。魔術師だろう。
「おいおい!キレーなのが物騒なもん持って1人で来るとわなぁ!」
大きい方がニヤニヤと歩きながら声を上げる。
「いいねぇ~!キレーなのをメチャクチャにするのはたまんねぇからなぁ!!」
「ボス好みの見た目ですねぇ。どうせならボス好みに仕込んだらどうですか?使い終わった後も売れそうですよ。」
「売る前に、お前らも使いたいだろう?」
「おや、お優しい。」
ボスと呼ばれた大きい方はギャハハハと笑い、隣の魔術師風もヒッヒッヒと引き攣ったような笑い声を上げた。
この大きくて太い男が野盗達のボスの様だ。
魔術師風が『ボス』って言ったし……
身長はそれほど大きくはない。
私と変わらない位だ。
しかし、横幅が違う。
私の3倍はありそうだ……横と前後を合わせて……
カリアンはとっても筋肉質なのだが、このボスは柔らかい部分、脂肪が多そうだ。
とはいえ、脂肪が多い=デブ、ノロイというわけではない。
筋肉が外から見えていなくても、実は筋肉の塊、みたいな?
なので、油断してはならない。
適度な距離で足を止める。
チラリとレーダーサーチを確認すれば、この二人の赤丸と背後の青丸、ノアの印以外は周囲に見当たらない。
ギリギリ宿屋が範囲に入っており、村の中に青と緑丸以外は赤丸は1つしか確認できない。
宿から向こう側はレーダーサーチ範囲外なので確認できないが、カリアンも居るし、大丈夫だろう。
少し息を吐いたのを怯えと取られたのか、
「今なら、俺の奴隷で生かしているやるぜぇ!毎日休みなく可愛がってやるがなぁ!」
ボスと呼ばれた男が股間を握る。
「……」
何処かで見た、とてつもなく不快な光景だ……と眉を顰め、本来なら決してしてはならないのだが、思わず顔を少し下げ視線をそらす。
ボス高笑いが響いた。。
「何だぁ!?ビビってんのかぁ!?勝手に股ぁ開くように躾けてやるぜぇ!」
「おやおや、初心ですねぇ。怯えて声も出ないなんて。フフ。」
と、魔術師風が舌舐めずりをした。
しっかりと七三に分けられ撫で付けられた髪と小綺麗にしているのが逆にムカつく。
ボスと魔術師風は、私が怯えていると思っている様だが、生憎、声が出ないわけでも怯えてもいない。
喋りたくないし、できれば視界にも入れたくないだけだ。
溜息を1つ。
……サッサと終わらせるのが良い。
地面の小石に落とした視線。
その視線を、視線だけをーー
魔術師風にーー
右足を踏み出し、身体を低くし一気に距離を詰め、ハルバートを持つ右手を突き出す。
地面を滑り、砂埃を巻き上げながらハルバートの先端、槍の穂先で魔導師風の喉を突く。
基本的に魔法は呪文詠唱がなければ発動しない。
呪文詠唱は基本発声による『言葉詠唱』だ。
なので、魔術師を倒すのには喉を潰すのが最短最適。
稀に声を失ったり先天的に発語が困難な者も魔術師の中にはいるのだが、かなりな稀だ……。
そんな者たちは別の方法を使用する。
慎重派な魔術師は喉を潰されたり、声を出せない場所だった時の為にこの方法を学ぶ者もいるのだが、この魔術師風野盗が喉を潰された時の為に別の方法を習得しているとは思えない。
距離を詰めた時の勢いもあり、斜め下から喉を貫かれた魔術師風の細い身体は宙に浮いく。
「ごペ…!?」
魔術師風は、血と空気を吐き出し目を見開いていた。
魔術師風の全体重がハルバートの先端にかかるが、その重みが腕に伝わる前に右手を引き戻し、真横にハルバートを薙ぐ。
魔術師風の男は杖を落とし喉を抑えながら地面に落ちるが、私の視線はすでに魔術師風にはない。
ガギン!!
鋭い金属音が響く。
ハルバートの斧刃は、残念なことにボスの斧に阻まれ、その無駄に太く短い首に届くことは無かった。
すぐさまハルバートを引き戻し、数歩下がり距離をとる。
「てめぇ……!!」
ボスが唾を撒き散らしなが叫ぶ。
魔術師風を気にする様子もない。
「よくもやってくれたなぁ!!テメェはただじゃすまさねぇ!!グチャグチャにしてやる!!」
と、ボスが喚いているが、生憎とその様な事になるつもりはない。
遠くで金属のぶつかる音が微かにした。
どうやら村の入口の方も始まった様だ。
それにしても、このボスは予想以上に俊敏に反応しハルバートを防いだ。
やはり油断ならない。
ハルバートを構え、ボスを見据える。
視線の端で魔術師風が這いつくばり、血まみれの震える手で必死にポーションを使おうとしているが、ガラス瓶の中身の色からして低級ポーション。
傷の深さ、出血の多さから上級の治療アイテムでないと発声が可能になるまでに回復はしないだろう。
油断はしてはいけないが、魔術師風の方はこのまま放置で良い。
何やら色々と喚いていたボスが動いた。
その体格に似合わないスピードで距離を詰めてくる。
ボスの斧の射程距離に入る前にハルバートを突き出すも、ボスは軽やかなステップでハルバートの槍先を躱す。
私は後方に下がりつつ、上から下に豪快に振り下ろされたボスの斧をかわし、向きを変えたハルバートの鎌部分で引っ掛けてボスの斧を弾く。
ハルバートは長い柄の先に槍の穂先の様な両刃、その少下に斧刃、その反対側には鎌のような半月状の刃がついている。
柄や槍先で斧刃自体を弾くのはリスクが高い。
武器の素材や強度、使い手の熟練度よっては、ハルバートの柄や槍先を斧刃で断ち折られてしまう可能性がある。
なので、狙うのは握る手と斧刃の間辺り。
斧刃の底を鎌刃で引っ掛け、ハルバートを引き戻し、斧を引き抜くように弾く。
弾かれた斧は舞い上がりはしなかったが、ボスの手の中を滑る。
取り落とすことはしながったが、持ち手がズレたことにより、ボスの手の中の斧は不自然にブレる。
さらに、鎌刃を握る手と斧刃の間に刺し入れたことで、斧を握る手の指から出血もみられる。
私のハルバートの鎌刃は両刃、つまり、鎌の背の部分も刃になっている。
よく見ると斧を握る手の人指がぶら下がっている。
皮一枚、といったところか?
ボスは指を断たれた痛みと血の滑りで、引き抜かれた斧を持ち直すのもままならない。
その隙を見逃すはずもなく、引き寄せたハルバートを大きく振りかぶる。
狙うは1度失敗した部位。
振り抜いたハルバートの斧刃は痛みに顔を顰めるボスの太く短い首を綺麗に両断した。
血を吹き上げながらボスの首が飛んでいく。
頭を失った身体は斜め後方に倒れた。
その背後では、初級ポーションで喉の傷を塞いだ魔術師風が背を向け走り出そうとしていた。
ハルバートを持ち替え、投槍のように持ちーー
ビュンーー
矢が1本、顔の横を抜けていく。
その矢は走る魔術師風野盗の右足を見事射抜いた。
右足、ふくらはぎを射抜かれた魔術師風は、声無き悲鳴を上げのたうち回る。
右足を抱え、汗と涎を撒き散らしながら、声は出ずとも口の形は叫び声の形だ。唯一、喉から空気の出る音が口から漏れ出ている。
ハルバートを下ろし、矢を射った相手を見る。
ノアの呼吸は緊張のためか荒い。汗も酷い。
が、顔色は悪いものの、その目はしっかりと野盗を見据えていた。
手には新たな矢を持って。
いつでも第二射を射ることができるとばかりに。
私は足を抑え、ゴロゴロと転がる魔術師風に近づく。
魔術師風は近づく私に気づき、少しでも距離を取ろうと地面を這う。
生憎だがどんな状態であろうと逃がすつもりはない。
ハルバートの斧刃を這いずる先に振り下ろすと、魔術師風の野盗は動きを止めた。
ガタガタと震えこちらを見上げる。
その顔の前に私は手をかざし、
「スーリーフ」
睡眠魔法を唱える。
魔術師風の野盗はガクリと地面に顔を伏せ、私に強制的に入眠させられた。




