新たな地へ18.5
1話抜けてました(汗)!!
せっかく読んでいただいてるのに……(泣)
申し訳ありません!!
カリアンと店主一行の背を見送ってから、栗毛の女性の手から毛布を受け取る。
店主の代わりに村人の対応をしている奥方から預かったそうだ。
その毛布を1枚、マシューの身体に掛けてやる。
局部だけがタオルで隠れていた時とは違い、両手は出してあるが、体全体は毛布に覆われている。
安心感が断然違う。
「な、何をすれば…」
栗毛の女性が不安気に見てくるので、
「まずは、周囲にある汚れた布を箱に入れて下さい。」
とお願いすると、栗毛の女性は、
「はい!」
と、短いがしっかりとした返事をし、マシュー青年の周囲に散らかる血塗れのタオルや私が手を拭いた手拭い等に手を伸ばし集め始めた。
「うう…!」
ブライソンがすり潰した薬草を左手の傷に乗せると、マシューの口からうめき声が漏れる。
「頑張るのです…。」
ブライソンがマシューを励ます。
薬草の汁は回復薬やポーションとは違い、灰汁が多い為、傷口にはかなり沁みるはずだ……
痛みに耐えかねたのか、マシューが左手を振り動かす。
「マシュー!駄目よ!」
栗毛の女性が布を集め終え、マシューの左手を押さえた。
「そのまま抑えていて下さい。」
ブライソンが栗毛の女性にそう指示を出し立つ。
マシューの頭頂部側に座ると顔に手を伸ばす。
右口角から頬にかけての傷口を上に向け、頭を膝で挟んで固定した。
そして、手拭いで顎から頭を輪のように括り、口が開かない様にし、傷口に薬草を乗せていく。
「うぅーーー!!」
かなり沁みるのか、頬が半分程まで避けているのにも関わらず口を開けようとしたり、首を左右に振って暴れる。
体の傷が多少癒えたこともあってか抵抗が激しい。
私はバタつく足を抑える為、マシューの両腿の上に乗り右手首を掴んだ。
「マシュー!耐えるのです!」
ブライソンが大きな声をかけるも、首を振り薬草を振り落とそうとするマシュー。
「マシュー!頑張って!」
栗毛の女性も声をかける。
とは言え、青年の力に老齢の神官と若い女性がかなうわけもなく、
「きゃ!」
栗毛の女性が抑えきれなかったマシューの手が当たり、後ろに倒れる。
自由になった左手は薬草を散らかしながら、傷口が開くのも構わずにブライソンを掴みにかかる。
その手をブライソンは自身の手で防ぎ、手と手の引き合いとなる。
起き上がった栗毛の女性が慌ててマシューの手を引き剥がそうとしている。
こうなっては仕方ない……
私はガバリとマシューの上に四つん這いで覆いかぶさり、片手でマシューの両目を覆う。
そして、
「スーリーフー」
睡眠魔法の呪文を唱えると、パタリ、とマシューの手が床に落ちる。
バタつかせていた足も振っていた頭もぴたりと止まる。
私は魔法がかかったのを確認し、マシューの上から退く。
[スーリーフー]は相手を強制的に眠らせる魔法で、触れている相手だとより成功率が上がるのだ。
「手荒なマネをしてしまって、申し訳ありません。」
驚くブライソンと栗毛の女性に一欠片も悪いとは思っていないが、驚かせたこともあり謝罪の言葉を口にする。
「いえ、このまま暴れていたら、私か、レレリアが怪我をしていたかもしれません…。しかたのないことです。」
と、ブライソンがマシューに掴まれた腕を擦りながら苦笑する。
くっきりと痣がついてしまっているのが見えた。
そして、レレリアとはこの栗毛の女性の事だろう。
「レレリアさん、手伝ってくださり、ありがとうございます。」
名前を知ったので、改めて手伝ってくれたお礼を言い視線を向けると、レレリアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「神官様、提案ですが…」
照れ屋さんなレレリアは置いておいて、私はブライソンに声をかける。
「中級ポーションを買いませんか?」
「中級…!」
ブライソンが驚き、レレリアも顔を上げた。
その顔には喜色の色が濃いが、勘違いしないでほしい。
私の提案はあげるではなく、買わないか、だ。
「中級ポーションと回復薬を数個持っています。スティーでの治癒アイテムの相場が解りませんが、口と左手で中級ポーション2本。幾らなら出せますか?」
「…幾らって…!そんな!」
レレリアが非難めいた声を上げるが、ブライソンがそれを止めた。
「レレリア!…、申し訳ありません…。彼女は、マシューのイトコにあたるのです…。それで思わず…。初級ポーションは1本1000リルだったので…5000リル…でどうでしょうか…」
ブライソンの提示した値段は明らかに安い……
街から離れた村では、アイテムや必需品の値段は街や都よりも値段が上がってしまう。それは、運搬費によるものだけでなく、手に入りにくいという貴重性からだ。
なので、辺境なのど村々では命に関わる物、ここでは治癒アイテム等をさすのだが、こういった物は村の共同資金で購入される。
その貴重な治癒アイテムだが、籠に入っているのは低級ポーションや回復薬ばかり。
中級の治癒アイテムが無いということは、買うだけの余力が無かったか、低級治癒アイテムに絞ったか……
……両者だろうと推測する……
妥当かどうかも多少考えているが、本音は、これ以上マシュー一人の手当にモタモタしたくない。
だが、何でもかんでもしてあげてはこちらには損しか残らない。
野盗を退治したのも、もしも傭兵ギルドへの依頼なら依頼金が、騎士なら給金が入るはずのところを、自身の身を守るついでとはいえ、完全にボランティアなのだから……。
「7000では?」
「そんな!!」
またも、レレリアが声を上げるが無視する。
私が話をしているのはレレリアではなく、ブライソン神官だ。
「……、いいでしょう……。」
ブライソンが悩みながらも承諾する。
本来ならここから簡単にでも書類を作るのが安全なのだが、今はブライソン神官を信用することにする。
私は中級ポーションを1本ポーチから取り出す。
そして、
「口元はポーションよりも回復薬の方が良さそうですね。」
ポーション2本の話だったが、口元は回復薬の方が良いと判断した。
ブライソンも、
「その方が良いでしょう…。回復薬の方が確実に切断面に塗り込めます。」
と、納得してくれる。
「ですね。傷痕はのこるでしょうが機能には問題ないはずです。絶対とは言いませんが…」
「承知の上です…。むしろ、初級だと、きちんと塞がるか不安でした……」
ブライソンが苦笑し、手渡した中級ポーションを左掌に掛ける。
左掌の貫通した刺し傷はポーションの液体が掛かった部位から肉が盛り上がり傷が塞がっていく。
薄い痕が残ってはいるが目立つほどではない。
私はポーチから小さな陶器の壺と木ベラを出す。
陶器壺の中には中級回復薬が入っている。
壺の中の回復薬を木べらで掬い取る。
パックリ裂けている右口角から頬にかけての傷の断面を観察する。
ギザギザになっているのは、スパッといったのではなく……徐々には刃を進めていったから……
想像しただけで痛い……
その断面からいまだ溢れ出す血液を拭い取りながら丁寧に中級回復薬の軟膏を乗せていく。
そして、しっかり上下の傷口を合わせる。
ここでズレたら、おそらくは一生ズレたままだ……
内側に頬が傷口ごと落ち込まないように内頬と歯の間に千切って丸めた布を押し込む。
後は確実に傷が塞がるまで包帯で固定すればいい。
それはレレリアがやってくれた。
レレリアがマシューの頭を膝に乗せ、包帯を巻いているのを横目に見つつ、手袋をはずし、ブライソンに耳打ちする。
「……避妊薬や墮胎薬はありますか?」
うら若い女性であるレレリアに聞こえないよう声を潜め背を向け問う。
何事にも最悪の事態を想定しておいて損は無い。
ブライソンも理解しているらしく、頷く。
「…教会に揃えてはあります。…かなり…、古いものですが……」
「…、私が持っている物を1つ……墮胎薬の方を、お渡ししておきます。男性は女性よりも妊娠しにくいとはいえポーションを飲むと体内にある生命体にも多少影響すると聞きますし……もしもの為に…」
今世世界では、女性だけでなく男性も妊娠が可能で有る。
なので、男女間のみならず男性同士の結婚、出産も一般的。もちろん、男性同士があれば女性同士もある。
前世のように、男女間の結婚が生産的だとか、同性カップルへの特別な条例だとか、そんなものは無い。
場合によっては種族飛び越えての婚姻さえあるのだ。
まぁ、それは、今は、置いておいて……
とにかく、今世は女性も男性も妊娠が可能。
であるなら、女性にとっての性的な危険は男性にとっても危険なのである。
要は、性被害と望まぬ妊娠なのだが……
今世の女性は、月一回の出血が無いだけで前世となんら創りも妊娠への儀式も変わらない。
では、男性は?
産む側の男性は、とにかく種を多く迎える事が重要になる。
つまり、儀式の回数が女性よりも倍程必要となるのだそうだ……
なんでも、多くの回数で多くの種を受け入れることにより、身体が子を妊む為の準備を整えていくのだそうだ(今世の性教育本より)。
ちなみに、太古遥か昔は、男女間のみでしか妊娠はできなかったが、大昔の聖者が愛したのが同性だったそうで、創造主様が、聖者の望みを叶える形で同性婚と男性妊娠が可能になったそうだ(今世の神学書より)。
妊娠は男女共に13歳から可能であるとされている。
理由は、過去最年少の妊娠者が13歳だったからだ。
(今世の記録書より)。
ただし、種を撒けるのは男性のみ(今世の性教育本より)。
なので女性同士の婚姻は有るにはあるのだが…跡継ぎ問題やら、養子縁組やら、父親問題やらでなかなかに難しいと聞く(過去の貴族ゴシップ紙より)。
このような今世の性事情なので、ここで横たわるマシュー青年には今後ブライソン神官に渡した墮胎薬が必要になるかもしれないのだ。
マシューの手当を終え、改めて室内を見渡す。
怪我人のマシューの世話はレレリアが行っている。
宿の店主であり村長の息子、ノアは拘束され床に転がっている野盗の見張りに立ち、奥方は集まり始めた村人の対応。
コルトンは机に顔を伏せたまま。
ブライソン神官は、目が覚めたマシューに飲ませるための初級ポーションともしもの為の墮胎薬を握りしめ、レレリアのもとへ。
村長兼宿の店主と村の男達数人、そして、カリアンはマシューの家へ。
マシューの家へ向かった一行はまだ戻ってきてはいない。
私は、ノアが軽くよりかかり、コルトンが顔を伏せているテーブルに治療ポーチを置く。
「大丈夫ですか?」
ノア、コルトンどちらにでもなく声をかけると、コルトンは首を左右に弱く振り、ノアは、
「縛られてるし、寝ちゃってるみたいだから…。」
と、言ってから、コルトンの肩に労う様にポンと手を置いた。
「そうですか。」
改めて床に転がる野盗を見る。
起きる気配はないし、手足の拘束も緩んでいない。
次に宿の開け放たれたままの扉から見える外に視線を移す。
奥方が村人を落ち着かせているようだ。
この村の村長夫婦は良く村を纏められているようで、見る限り、大きな混乱は見えない。
私は、ずーーーと宿屋の床に放置されていた可哀想なハルバートを手にする。
心の中でハルバートに、スマヌスマヌと平謝りしていると、ザワリと宿屋の外があわだしくなる。
おそらくは、カリアン達が戻ってきたのだろう。
宿の外に出ると、店主が集まった村人達に報告をしていた。
店主の後ろに佇む村人達の表情は一様に暗い。泣いている者もいる。
予想していた通り、良い結果ではなかったようだ。
村人達の輪から外れ、カリアンがこちらに向かって来た。
見る限り怪我はしていないようだ。
「お疲れ様です。どうでしたか?」
「男二人、女一人。どれも手遅れだ。」
「…そうですか…男二人?」
マシュー青年の自宅にあったのは、両親だけでない?
マシューの両親の安否を確認しに行ったのに、野盗まで数には入れないだろう…ならば……
「夜警の男だ。」
カリアンの言葉に銅貨2枚の男を思い出し、ああ、と短く頷く。
カリアンの分厚い胸板越しに店主の周りに集まる村人を伺う。
今はまだこちらを気に留めてはいない。
「……、いったん、着替えましょうか。」
と、カリアンを促す。
いい加減、血みどろのズボンを変えてほしい。
宿の中に入り、ノアに一声かけてから、カリアンと共に借りている部屋に戻った。




