かつての盟友
時の女神よ、教えてください。
もしあなたにこうなることが分かっていたのならば、この分岐点はどこだったのですか?
避けることなどできなかったのですか?
彼女と一緒に笑い合うのは許されないことであったのですか?
もしあなたにわかるのだったら教えてください。
どうか―――
私が目覚めると、そこは一面黒いステンドグラスで張り巡らされたような空間だった。
....恐らくクリスが来てたら私と交戦状態だろうな。
私が動こうとすると、手元と足元のほうで、ガチャリと重い金属がぶつかり合う音がした。
...手錠と足枷されてる!?
まるで私が犯罪者じゃないか、なんて思いながら、私は光でそれを溶かし、立ち上がる。
「あら、もう脱走したの?相変わらず脱走は得意なのね」
「リティ....」
「その呼び方はやめてくれるかしら?今のあたしには『ミッタ』っていう名前があるの」
「...貴女は....リティはこんなことして何がしたいの?もうあなたにとっての復讐は終わったはずでしょう?」
「そうよねぇ、そう聞きたくなるわよねぇ」
そういうとリティは悪辣な笑みを浮かべながら、私に一歩ずつ歩み寄ってくる。
「私は生命を司る家の生まれだった。だけど今は違う。光の民が得られないはずの闇を得て、光の王の肉体を奪えるほどに強くなった!生命にとって強さは正義。弱きものは淘汰されるべきなのよ」
「ずいぶんと昔の考え方から変わっちゃったんだね、リティ」
「あら、失望した?今の私に昔の面影を探しても無駄よ、ソレイユ」
「本当にそう思っているのなら、」
「っ...煩い!わたしはこれでいいのよ!」
バチンッッッ!
リティは思いっきり私の頬をはたいたが、私はそんなものには動じない。
「貴女はほんとは苦しいんでしょう?私にあなたの過去は何もわからない。でもその苦しさ、それだけはわかる」
「わ、私だって!したくて復讐したわけじゃない!闇に強要されてやらされたのよ!ほんとはお姉ちゃんのこと大好きだった!毒殺されても、それは私が悪いってちゃんとわかってたから許せた!小さいころずっと一緒にいてくれたのはお姉ちゃんだけだった!ここ以外の居場所なんて、私にはないの!」
リティが言葉を発する度、髪が闇で染まった黒髪から、彼女の元の髪色である燃えるような赤色に戻る。そして、その赤色の髪に負けない輝きを放つ黄金の瞳に、私は彼女の過去を見た。
―――私の小さいころの記憶は、あまりいいものではなかったように思う。
力を発現させるのが遅かった私は、ずっと両親に無視され忌避され続けてきた。そんな中私に言葉を教え、日の暖かさ、花の香り、星の瞬きを教えてくれたのはお姉ちゃんだけだった。
姉の口から紡がれる外の世界の美しさに、私はまるで恋焦がれるように酷く憧れた。
窓もない部屋に一日中押し込まれ、出されるのは精進料理のような簡素なものだけ。
時々廊下の前で話す使用人たちの噂話が、私の唯一の楽しみだった。
私は、一週間に一度の湯浴みの時、初めて実の姉の顔を見た。
自分とよく似た赤色の髪に、新緑のような緑色の瞳。
そんな姉に見とれる暇も無く、メイドに強く手を引かれて私は盛大にこけてしまった。
「っ...!」
何かしらを喋れば「余計な口を挟むな」と言われていた私は、声を殺して、涙が零れるのを我慢した。
苦痛を耐え忍ぼうと唇を噛んで俯いた時、自分のものではない艶やかな赤い髪がわずかに視界に映ったのを覚えている。
「大丈夫?怪我はないかしら?」
優しい声で、姉はわざわざしゃがんで私にけががないか確認してくれた。
「キリアーナ様、このようなものにお気遣いなど必要ありません」
メイドが姉を止めるけれど、姉はきっと睨んで言い返した。
「このようなもの?この子は私の妹で、れっきとしたヴィータ家の令嬢よ。むしろ転ばせたあなたがこの子に謝るべきだと思うのだけれど」
「もっ、申し訳ございません」
メイドは頭を下げて引きさがるが、その顔は不服そうだった。
「余計なものを見させてしまってごめんなさい。名前を聞いてもいいかしら?」
「...りてぃす」
対して言葉も発さず、言葉を聞くことしかしてこなかった私にとって、この時自分の名前が言えたことは奇跡のようなことだった。
「そう、リティスっていうのね。いい名前じゃない」
何においても褒められることがなかった私にとって、いい名前と言われたことは救いのようなものだった。
姉はそれから私の部屋にたびたび来るようになり、屋敷の外の世界や、次代の守護神がすごい才能の持ち主だということを教えてくれた。
もちろん、「私と関わる」という行為はすぐに父に気づかれ、姉は父に呼び出されることとなってしまった。
だが姉は父の説教に全く怖気づくこともなく、逆に父に進言して私に学ぶ機会を与え、部屋での監禁も解除させた。
そのことを聞いた私はこれ以上にないほどうれしかった。姉の話す外の世界が見れるのだと、姉とともに歩くことができるのだと。
その時から私にとって姉とは、ヒーローのような存在になった。
それから間もなくして私は無事力を発現し、姉を凌駕する力を得た。
これからは私が姉を守るのだと、意気込んでいた。
だが姉の態度は日に日に冷たくなり、私はただ次期当主だと持ち上げられるのをただ甘んじて受けることしかできなかった。
ヴィータ家主催のお茶会の日、私は姉に毒殺された。
信じられなかった。でも、今まで優しかった姉の姿を否定することもできず、私はその苦しみを闇に利用され、付け込まれた。
一夜にしてヴィータ家は滅び、私にはドワーフ語で「災厄」の意味を持つ「ミッタ」という名が与えられた。
「戻れるものなら戻りたかったよ」
小さくかすれて今にも消えそうな声で、彼女は言う。
「でも、わたしは許されないことをしてしまったのよ!もう戻れはしない!こうなったらいやでも悪役を演じるしかないじゃない!!」
彼女の黄金の瞳からは、大粒の涙がこぼれ始める。
「大丈夫よリティ........あなたと一緒に昇る朝日を見ながら、貴女の罪が許されるまで一緒にいましょう?」
「無理よ!!私が今までどれだけの人を手にかけたと思ってるの!?そんなのが許されるわけないじゃない!!」
「簡単には許されないかもしれないわ、だけど、私も一緒にいるから、一緒に家に帰りましょう?」
「ひぐっ...うわぁぁぁん」
彼女は泣きじゃくりながら私に抱き着いてくる。
私はそんな彼女を抱きしめ返し、強く抱擁しあった。
そうしたままで、ただ時はたった。




