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満月の夜

明日から執務に戻るという日、私は一人、城の一番広いテラスにいた。


空ではふたつの月が満ちている。


二つ目の月は、月の衛星なので、衛星の衛星である。


「母様....」


最後に母様と他愛ない話をした日も満月の夜だった。

昔城にあった温室の中で温かい紅茶を飲みながら、母様と一緒に星座を探していた。


もうあの温室は実験用に色々改造され、あまりお茶会には向かない。もうあの夜と同じ姿を見ることはできないと思うと、頬に一筋の冷たさを感じた。


「ソレイユが泣くなんて珍しいな」


突然、聞きなれない声が響き、慌てて涙を拭って平然としたふりをする。


「久しぶりだな」


「フランテリー....」


フランテリーというのは、クリスと同じムーンライト家の子であり、クリスの兄である。例に漏れずマットサイエンティストで、その研究欲はクリスよりも酷い。

ムーンライト家は月の妖精の血を引くのだが、フランテリーはその力が隔世遺伝しており、日光を浴びるとと慢性的な倦怠感や頭痛を起こすため、日光が当たりにくい場所の月面に住んでいる。


夏を超え少し冷たくなってきた風が頬を撫でる。少し寒気を感じた時、紺色の外套(がいとう)が私に雑にかぶせられた。


「...いらないんだけど」


「そうか?俺には至極寒そうに見えたんだがな」


「おや、兄さんじゃないか」


まるで示し合わせたかのようにクリスもやってきた。


「ソレイユが珍しく過去のことで泣いていたからね、心配してきたんだ」


「はるばるとよく来たね。実家(ムーンライト家)に情報収集かい?」


「あぁ。面倒ごとを月で処理するのは手間がかかり過ぎる。実家に寄って戻ろうとしたら、そこでソレイユを見つけたってわけだ」


「そうだったのかい。まあ、その面倒ごとを増やさないためにも、ソレイユには(俺の)づかない方(妻だ近)がいいんじゃ(づくなこ)ないかな(の野郎)


「おや、別にこの時間ならテラスをわざわざ覗く物などいないよ。少し心配性(煩いな)すぎなんじゃない(別に少しぐら)かい?クリス(いいいだろ)


「いや、どこかの執念深い月の妖精(フランテリー)が、太陽(ソレイユ)欲しさに攫ってしまう(略奪する)のではないかと思ってね」


「ははっ、そんな行儀の悪い妖精(そんなこ)見たこと(とはし)がない(ないよ)


なんとなくだが、2人の視線の間にバチバチと雷が跳ねているような気がする。なんとなくで聞き流していたが、絶対に泣いてた人の前で話す内容ではない。


「あぁそうだ。ソレイユはもうすぐ寝たほうがいいんじゃないのか?」


突然フランテリーこちらを向いて言う。


「確かにそうだな。明日からは執務再開だし」


「....(主に2人のせいで)眠くない」


「じゃあ仕方ない、こうしよう」


こそこそとクリスに何かを伝えた。クリスが見たことないぐらい嫌そうな顔をしていたのは見なかったことにしよう。


二人は私の額に手のひらをかざし、呪文を唱える。


「「眠り(プリンセルシ・)(エルネミア)」」


二人は同時に眠りの呪文を私に対して唱え、「もう寝な?」と私に言う。


「それ...ずる...い」


私は魔法にあらがえず、そのまま眠ってしまった。






クリスの膝枕で。




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