婚約式前夜
結婚式前夜は、平民たちが盛大にお祭りを開き、フォレストはそこに行っていたそうです。
婚約式を明日に控えた私は、衣装の最終確認をしていた。
衣装は私とクリスで決めたものからほとんど変わっておらず、元の案から国の紋章やら魔石の飾りやらが増えているだけだった。
「明日の婚約式が楽しみですね」
針子さんにそう言われたはいいものの、特に何か反応は返せず、ただニコニコと微笑んでいることしかできなかった。
構図が決まったら、次は仮縫いである。
「失礼いたします」
両手を横に広げて立っている私に丁寧に布が被せられ、2、3人の針子さんが一斉に仮縫いを始める。
…これ、動くと針が刺さりそうで怖いのと、針子さんが迷惑しそうだから絶対に動けないんだよね。
しばらくして、横に広げている腕が限界を迎えそうになった頃、ようやく「もう腕を下げて大丈夫ですよ」と声をかけられた。
「引き攣ったり、きつ過ぎるところなどはございませんか?遠慮なくおっしゃってくださいね」
…すごい。さすが王宮の針子さん。早いし綺麗だね。
王宮の針子には幼い頃に刺繍の講義ぐらいでしか会ったことがないので、こう改めて見るとやはり素晴らしい技術だ。
「ありがとう。文句なしよ。流石ね」
「恐悦至極に存じます」
ふと、いくらこの腕前が何人もいるとはいえ、流石に後丸一日でお色直し用含め4着も作るのはかなり苦しいのではないかと思い、私ができることと言ったらなんだろうと考えてみる。
…魔法でどうにかできるやつがいいと思うんだけど、やっぱり本人たちに聞いた方が早い?
「流石に後丸一日でこのドレスとかを仕上げるのは大変だと思うのだけれど、何か手伝えることはあるかしら?できることはやらせて欲しいわ」
その言葉に針子さんたちは困った表情で顔を見合わせ、少しこそこそと話をした後、おずおずと口を開いた。
「では、あの布の裁断をお願いしてもよろしいでしょうか」
そう言って指差した先の布を見ると、たくさんある布の中でも一際美しく艶めく布だった。
「王族の方々の正装には必ず使用する素材なのですが、魔力を含むもので裁断しないと断面の色が悪くなると言う不思議な特徴の布でして…」
布の山から一際輝く布を見ると、それには僅かな魔力を全体に含む光絹だった。
光絹は、光の魔力に満ちた空間で育てた蚕だけが吐き出す特殊な糸で織られた布だ。魔力のないもので糸を切ると裁断した箇所が黒ずんでしまう、なんて話を聞いたことがある。
「わかったわ。写してある型紙に沿って裁断すればいいのね」
布の中から同じように型紙の線が移された光絹を何枚か取り出すと、浮遊魔法で浮かせて広げる。
次に創成魔法で作り出した魔力のハサミで、線からズレなく自動裁断する。
ハギレの方を綺麗に畳んで隅に置き、裁断の終わった布は綺麗に広げておく。
「これで大丈夫かしら?」
振り向くと、そこには唖然とした表情の針子さんたちがいた。
「魔法ってすごい…」「あの1番面倒な光絹が一瞬で…」「流石王族様…」
魔力無限って、小さなことでもすぐ魔法に頼れるからやっぱり便利なんだなと、改めて感じた。
「他には?何かある?」
「いえいえ大変助かりました!もう今夜は遅いですから、陛下はおやすみなさいませ!」
「あらそう?それじゃあ、あなたたちも頑張って」
「夢の神が微笑まんことを…!」
半ば追い出されるようにして部屋を後にし、寝室へ向かう。
...明日憂鬱なのは、婚約式の後なんだよねぇ。
そう思いながら、私は寝室へと向かうのだった。




