戦後
次に私が目覚めた場所は、城の病室だった。
...フォレストが運んできてくれたみたいだね。
「ソレイユ!?大丈夫!?」
「...うん」
私の返事を聞き届けたフォレストは、急ぎ足で医師を呼びに駆け出して行った。
...さて、自分の体を復活させますか。
復活と言っても、光回復魔法で回復させるだけなのだけれど。
...これで良しと。
大きなあくびをしながら立ち上がり、病室から出ようとすると、
ガタンッッ!
「ひゃぁっ!?!?!」
扉が壊れんばかりの勢いで開かれた。
「絶対に回復魔法でどうにかしようとしてると思った!安静にしてなさい!」
まさかフォレストに怒られるとは思わなかった。
解せぬ。
隣で医師がうなずいていたため、しぶしぶ椅子に座った。
...まだ医師に言われたほうが、マシだったね。
その後、医師の診断を受け、私は三日間の安静となった。
嵐のような騒がしいフォレストを追い出した後、しばらくしてからコンコン、と優雅なノックが聞こえた。
「どうぞ」
ガチャリと先ほどとは対照的に優しく開かれた扉の向こうには、銀髪橙目の美青年、クリスがいた。
「また戦いで無理をしたと聞いたよ。君はスローライフを送りたいと言う割には、自ら無理をするのは何故なんだい?」
私は頬に手を当てて考える。確かに私はスローライフを送りたい。けれども、国の運営や民の幸せを放棄してまで求めたいわけでもない。だから結局戦争に出たり、執務に追われなければならないのだ。
小さくため息をついて口を開く。
「民の安全や国の平穏を放棄するわけにはいかないでしょう。それに、またと言われるほど無理をした覚えはないのだけれど。それとも婚約者候補様は国の平穏にご興味があられないのかしら?」
クリスが少し引き攣った笑みを浮かべる。幼い頃に仲良くしていた頃があるのでなんとなく分かるが、おそらく何か言いたい衝動を抑えているに違いない。
「…はは、手厳しいね。君は何かとすぐ自分のことを後回しにする癖がある。心配したつもりだったのだけれど、悪いように聞こえたのならすまないね」
お互い社交的な笑みをにこにこと浮かべる時間が少し過ぎた後、お互いにため息をついて空気を改める。
「…で、別に喧嘩しに来たわけじゃないでしょうし、要件は何?」
「そうだね。無駄に国王陛下の療養時間を削るわけにはいかないからね。…率直に聞かせてもらおう。君はこの先婚約するつもりはないのかい?」
まあ、この展開は想像できたかと言われればできた。元々本血に嫁ぐ婿または嫁は代々順番が決まっている。
基本その年の順番の次血から選ばれたものが嫁ぐのだが、その年に本血の子と近い年齢の娘や息子がいない場合もある。
その場合は全ての次血から選ばれるのだが、そうするとやはり偏りが出る。
なので稀に本血の子が直々に伴侶を決めると言うことが起きる。母様の代はそうだったと専属側仕えの子が言っていた。
…まあ、私の場合は普通に順番のムーンライト家から伴侶を選ぶだけなんだけど。
「まあ正直、私は婚約のこと、してもしなくてもどっちでもいいって思ってるのよ」
その言葉を聞いて、クリスは少し驚いたような顔をする。
「それは何故だい?婚約した方が他の次血から婚約希望書を送られることもないし、貴族から急かされることもなくなるのに」
「それはそうなのだけれど…正直に言えば、さよならも言わずに消えるような人じゃなければ、誰でもいいって思ってるの」
その言葉を聞いて、クリスは少し表情を曇らせる。
「それは…緘口令のことがあったからかい?」
「そう…かもしれないわ」
それだけかと聞かれると微妙なところだが、父様のことは今でも少し怖い。
「もし…その条件に僕が当てはまるのなら、君の隣を望んでもいいのかい?」
「ふふっ、そう言ってくると思ったわ」
むしろその言葉を待ち望んでいたまである。私がクリスを指名すればそれは嫁げと言う命令になってしまう。
だから私は自ら望んで来て欲しかった。
「あなたが望むのなら、私の隣へいらっしゃって」
その言葉に目を輝かせるクリスは、まるで幼い頃のあの時に戻ったようだった。




