気になる報告書
「…で?この有り様は何?」
朝から呼び出しをされたかと思えば、植物園から大樹が生えていると魔術研究員が涙目で訴えるものだから、植物園の様子を見に行くと、そこには青ざめた顔で小刻みに震えるフォレストがいるではないか。
「…」
「あなたは私が休暇を取れない原因No. 1だと言うことを自覚した方がいいわ」
「…ご、ごめんなさい」
「で?何をどうしたらこうなるの?」
自ずと正座をして私の前に項垂れ始めたフォレストから話を聞くと、植物の寿命を縮める事なく成長させる魔法の開発をしようと植物園の小さな木に試したところ、現在のようにガラスドームを突き破って大樹へと変貌したと言う。
「…魔法陣が暴走したのが悪い」
「…なんて?」
その呟きに圧をかけるように笑顔で問うと、フォレストはしらーっと目を逸らした。
「罰として、貴女のいつもの仕事に加算して、私の仕事の4分の1をやってもらいます」
「…遠方派遣の方がまだ良かった」
「あなたは遠方派遣したところでその遠方で問題を起こしてくるから結局私の仕事が増えてるだけなのよ」
このトラブルメーカーを誰か管理してくれないものかと思いながら、私はフォレストと執務室に向かった。
◆
ひいひい言いながら仕事をこなしているフォレストを横目に、私は一つ気になる報告書を見つけた。
...随分とご立派な羊皮紙だね。どっかの金持ちのやつかな。
「えーっと?」
内容は私が懇意にしている大商人からだった。
「陛下へ 大商人モニーより
この度はお忙しい中この報告書に目を止めてくださったこと、心より感謝申し上げます。
さて本題に入りますが、前、旅をしている最中に闇の欠片のようなものを見つけました。
その辺りを見回しても特に何も見当たりませんでしたので、念の為にというわけで報告させていただきました。場所は王都から南東に10マイルほどの場所です。どうかお気を付けて。」
...目に止めるも何も、こんな高級な羊皮紙を使ってたら止めざるを得ないけどね。
私はこの報告書を読んで、未だ解明の進まない属性である「闇」の文字のついたものに警戒心を寄せた。
「ねえ、フォレスト?『闇のかけら』ってどんなものか知ってる?」
「知らん」
...あなたに聞いた私がバカでした。しかも食い気味だし。
はぁ、とため息をつきながら私は、後ろの棚から大きな地図を取り出し、モニーが言っていた闇のかけらとやらの位置を特定する。
「ここらへんかな..?」
そこは王都から大体、13~15キロぐらいの位置にある、『へイネスの森』と呼ばれる場所である。
凶悪な魔物や魔獣が住んでいて、旅の難所とも呼ばれる。
迂回路もあるが、そこでさえ安全は保障されない。
「しかし、モニーさんはよくこんなところ行ったものだなぁ」
フォレストが私のつぶやきに気付いて、こちらをのぞき込んでくる。
「なになに~誰か怪我人でも出たの〜?」
「そんな物騒なことじゃないから、軍部大臣の出る幕はありませんよ」
「ちぇー」
...あなたみたいなトラブルメーカーには渡しませんよ。
「そうだ。フォレストが一緒に来てくれるなら見せてあげる」
「行く!みせて!」
私の提案に目を輝かせ、報告書を強奪して読み始める。
...フォレストが一生懸命に読んでるなんて珍しいな。明日槍の雨なのかな。
「ふーん、じゃあ今から行こう」
そういうとフォレストは窓を開けて飛び降りようとする。
「待て待て待て」
...準備もしないまま行くわけないだろ!!
と、心の中で叫びながらフォレストを止める。
「フォレスト、ちゃんと準備してから行こうね?」
私は笑顔でそういった。