21-2 ママ②
一方その頃、その想い人はというと別の女と一緒にいた。
街中を行くケルヴェイン公爵家の馬車。その中で、神太郎は不満げな顔で窓の外を眺めるルメシアを伺う。
「ご機嫌ナナメ?」
「ご機嫌ナナメ」
単刀直入に問うと、単刀直入の返事がきた。尤も、彼女の態度は予想通りでもある。
「お前は嫉妬深いからなー」
「何よ。当然の反応でしょう」
「ユリーシャは受け入れてくれてたぞ」
「あの子は……優しいから」
「お前は優しくないの?」
「私は……! うぅ……もう」
「忘れられないなー。家に帰宅すると、お前がビーザック通りのケーキを買って待っていてくれたあの夜を。あ
んなに優しい子、中々いないよなー」
「あー、もう。卑怯者」
口が上手いんだからとルメシアは頬を膨らませた。
「お前を蔑ろなんかにしないさ。だから、こうやってお前の家に挨拶に向かっているんだろう。ユリーシャの方
は先に済ませたのに、お前の方は放ったらかしだったからな。エイゼンの件がなければもっと早く行けたんだが
」
「それは仕方がないよ。分かってる。帰国早々、挨拶に来てくれてるんだから感謝してるって。……寧ろ、こっ
ちの方がねー」
「なんぞな?」
「その……親に会わせるのがあまり気が進まないっていうか……」
「そんなに気難しい親なの?」
「正直、会わせたくないのよね」
「?」
「でも、そういうわけにはいかないから。まぁ、会ってみれば分かる」
そう意味深げに答えるルメシア。
彼女の機嫌が悪かったのも、これからの心配の方が大きかったからだ。
貴族街の一角にあるケルヴェイン公爵家。広大な敷地に、大きな家屋。ユリーシャのルクレイム公爵家に勝る
とも劣らない立派な邸宅である。
当然、屋敷内も上品な趣きで、応接間に通された神太郎は早速座り心地の良いソファを堪能してい
た。
遅れてルメシアが入室してくる。
「ごめん。ウチの親、ちょっと手が離せないみたいで。少し待ってもらえる?」
「構わん、構わん。急な訪問だったからな」
それからメイドが紅茶と茶菓子を用意してくれると、二人はそれを味わいながらこれからの作戦を練る。とい
うより、ルメシアの気掛かりの一つだ。
「話す準備とか整っている?」
「準備?」
「親への結婚挨拶なんだから、それなりに用意しておくものでしょう? ユリーシャから聞いたわよ。あっちで
の挨拶の時は凄い立派で凛々しかったって。あの気難しいルクレイム公爵が認めたほどだし。ユリーシャも惚れ
直したって褒めていたわよ。ウチもそれぐらいの心構えで臨んでくれるんだよね?」
「いや、まぁ……いつも通りって感じで」
「いつも通りじゃ困るのよ。そんなふざけた態度で認めてもらえると思っているの?」
「ふ、ふざけてないのに……」
「本当、お願いだから慎ましい態度でいてよね。私のことを想っているのなら」
「わ、分かったって」
「……」
どうも信用出来なかったが、今はただ信じるしかなかった。
それはともかく、このままボーっと待っているのは神太郎の性に合わない。彼は立ち上がると大窓に寄って庭
を見た。
「庭か……」
「どうかした?」
「今度引っ越すんだが、庭はあった方がいいなーと思ってな」
「へー、引っ越すんだ」
「そりゃそうだ。あんなボロアパートのままというわけにはいかないだろう?」
「うん?」
ルメシア、怪訝。
「一緒に暮らすんだからもっと広くないと」
「あ」
ルメシア、理解。
彼女の顔がパーッと明るくなると、想い人の背中を後ろから愛おしく抱いた。
「そうね、そうよね。夫婦になるんだもの。同じ家に住まないとね」
「新居の参考にちょっと庭に出てみるか」
「うん♡」




