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21-1 ママ①

 キダイ王国・東門前。遂に住処に帰ってきた神太郎は、懐かしい城門を前に大きな安堵を覚えていた。


「着いたぞー。我がキダイ王国だ」


「着きましたね」


 同行者のシャノンも初めての外国にウキウキである。


「本当はもっと色々なところを巡りたかったんだが、追っ手がいたからな。良いこともあまりなかったし。また機会があったら、今度こそ楽しい旅行をするか」


「いいですね。私も色々見てみたいです」


 勿論、それ以上にウキウキしていたのは、これから送るであろう神太郎との甘い甘~い新生活なのだが。どうやってイチャつき、どうやって愛し合うか、今の彼女の頭の中はそのことで一杯だった。


 乙女がそう心を躍らせていると、そこに彼女らが現れた。


「「神太郎!」」


「ルメシア、ユリーシャ」


 彼の名を叫びながら門の中から出てきたのは二人の美少女。神太郎も彼女らを認めると、駆け寄った二人に抱きつかれた。


「え?」


 乙女にあるまじき破廉恥ぶりに、シャノンは驚愕。恋人でもない相手にそこまでするとは、キダイ人は随分大胆だと驚かされてしまった。


 だが、すぐにもっと驚かされる。


「なっ!?」


 ルメシアと呼ばれた少女が彼にキスをしたのだ。


 続いて……、


「なぁぁぁっ!?」


 今度は神太郎の方から、もう一人の少女ユリーシャにキスをした。


 悲鳴のような声を上げて唖然とするシャノン。三人のイチャつきぶりに頭が追いつかない。


 そんなことをして許されるのは恋人だけのはず。つまり、愛し合っている自分だけのはず。なのに、その想い人が別の女性と口づけをしている。あり得ない。恋人や夫婦でなくてもキスをするのがキダイ王国の風習? と、引いてしまってもいた。


 そんな目を丸くしている彼女に、神太郎は紹介する。


「紹介するよ。こっちはルメシア。俺の恋人だ。で、こっちはユリーシャ。俺の恋人だ」


「え? ……え?」


 神太郎が全く後ろめたさもなくニコニコ顔で説明するので、シャノンは驚いている自分の方がおかしいのかと目を丸くしたまま困惑した。


 次いで、神太郎はルメシアとユリーシャにも彼女を紹介する。


「紹介するよ。こっちはシャノン。俺の新しい恋人だ」


「「なぁぁぁっ!?」」


 今度は二人も絶叫。


「アンタね! 何考えてるのよ!」


「まぁ、まぁ、そういう男だって納得済みだろう? これが三好神太郎なのさ」


 ルメシアの責めも飄々と躱すハーレム男。反省や申し訳ないという素振りすら見せない。ルメシアもそういう男だと分かって好きになったのだから、責め続けることは出来なかった。彼女より度量が広いユリーシャの方は、嘆息を漏らしながらももう受け入れている。


「あ~、もう。出立を見送った時、何か嫌な予感はしていたのよねー。まさか、一番最悪なオチになるなんて」


 片や、一般的な乙女のルメシアは憤るばかり。やがて、それは新参者にも向けられる。


「貴女も何でこんなダメダメ男に付いてきちゃったのよ。コイツはね、女と見れば見境なく手を出す変態なのよ。男の悪いところが詰まった悪よ、悪! そんなのに引っかかるなんて無用心過ぎるわよ!」


 ルメシアがそう叱責すると、ユリーシャが「人のこと言えないって」とたしなめる始末。


 ただ、怒りをぶつけられたシャノンはそれを無視。


 否、聞いていなかった。


 さっきから目を丸くしたままだ。呆然としている。


 それを見せられると、二人も彼女もまた嵌められたと気づかされた。いや、きっと他に女がいると聞いていなかったのだろうから、自分たち以上の被害者だ。


「あ、あの~。大丈夫ですか?」


 ユリーシャが声をかけるも反応なし。軽く揺さぶっても駄目。


 シャノンはこの現実を拒むかのように、思い描いていた夢の中へと落ちていくのであった。




 シャノンが気を取り戻すと、そこは屋敷の中だった。見慣れぬリビングルームにて、見慣れぬソファに座っている。


 そして、見慣れぬ女性が彼女の顔を伺っていた。


「大丈夫?」


「え? あ、はい」


 その女性に声をかけられ、夢の中に逃げていた意識もやっとハッキリしてくる。


「私は千満ちあり・アルサンシェ。神太郎の姉よ」


「あ、ああ、お姉さま……」


 自分より少し大人びた感じのこの女性は想い人の姉。ここはその嫁ぎ先、アルサンシェ公爵家である。


「あの……神太郎さんは?」


「あー、やっぱり聞いていなかったか。あの子ならもう帰ったわ。貴女もウチで預かることになったし」


「えっ!?」


「あの子の家、今ボロアパートでさ。一緒に暮らすのに相応しくないっていうから、代わりの場所を用意するまで一時的にね。アイツが言うには一週間ぐらいらしいよ」


「ああ……。成る程。分かりました」


 そういうことならと、シャノンも承諾。ただ、その返事には力がなかった。


 千満もそれを察する。


「神太郎に他に恋人がいて驚いた? アイツはそういう奴よ。最初は甘い言葉で誘惑して、取り返しのつかないところまで来ると、やっとネタ晴らしをする。貴女、められたのよ」


「そんなこと! ……神太郎さんはとても良い人です。優しい心の持ち主だし、駄目なところは窘めてくれるし、いざというときは頼れるし……。私が出会った中で一番の男性です」


「……私の知っている弟じゃないわね」


 そのベタ褒めぶりに、千満は開いた口が塞がらなかった。


 それに旅の道中の辛い出来事も影響していただろう。ストレスに慣れてしまって、ハーレムのネタ晴らしも許容する余裕が出来ていたのかもしれない。……しくは麻痺していたか。


「あんなヤツでもまだ好きなの?」


「……はい」


 とんでもないネタバレをされても、その気持ちに揺るぎはない。ならば、千満もそれを尊重するだけだ。


「分かった。慣れない外国暮らしで大変でしょうから、困ったことがあれば何でも言って。アイツのことが好きってことは、私の妹ってことでもあるし」


「ありがとうございます、お姉さま」


 すると、そこにクレハが「お義姉さま、準備出来ましたよ」と言いながらやってきた。公爵家の令嬢には相応しくないエプロン姿である。千満がそれを説明する。


「彼女は私の旦那の妹クレハ。今日は二人でパイを焼こうと思っていたのよ。どう? 一緒に」


「パイ!? 是非。でも、料理なんて全くしたことがなくて……」


「高貴な人ってそうみたいね。大丈夫。教えてあげるから。料理を覚えると楽しいわよ」


「ありがとうございます」


 千満の気遣いで、シャノンにもやっと笑みが蘇った。落ち込んでいた心も元気を取り戻してくる。


 千満の優しさは本物。そして、弟の神太郎の優しさも確かに本物だった。他に女性がいようとも、その想いが真であることに変わりはない。ならば、躊躇する必要などあるだろうか。


 シャノンは再び想い人のことを思うのであった。

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