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20-5 呪われた決闘⑤

  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 そして今、その怒りを息子へとぶつけている。


「勇者、そして三好神太郎。貴様らは悪だ!」


 グラントは魔杖の先を神太郎に向けながら叫んだ。


 ……だが、叫ぶだけ。


 先ほどの大攻勢は既に止んでいた。彼の力はほとんど尽き、身体中にヒビが走っている。今ではもう魔術を使うどころか魔杖を相手に向けるだけで精一杯だった。


 父と同じく悠々と歩いて、グラントの前に立つ神太郎。その心の内もまた父と同じく平常である。


 そんな平然面をしている神太郎に、グラントは激しい憤怒をぶつける。


「貴様らは我々人間とは違う。我々にとって魔族以上に脅威だ!」


「……」


「今は世界中の人間が勇者を称えているが、そのうち真実に気づくだろう。貴様らこそ、排除しなければならない敵なのだと。この世のことわりを破壊する者たちだと!」


「……」


「貴様らは、この世にあってはならない存在なのだ!」


 そして、再び《レイフィッシュ》と放とうとするが、身体が耐え切れず、遂に魔杖を持っていた腕が粉々に崩れ落ちてしまった。次いで膝もつく。


 そこにシャノンが空を飛んでやってきた。


「グラント! もう限界です! こんなに魔力を受け入れるなんて……。あまりにも過剰です。死んでしまいます」


 すると、神太郎が問う。


「コイツが泥人形みたいにボロボロになっているのも、それが理由か?」


「はい。我々が使っている魔杖は魔術士を補助するための道具で、その機能の一つに魔力を貯め込むというものがあります。国宝ラブレセルとなれば、その量は膨大になるでしょう。恐らく、彼の部下たちから魔力を注ぎ込んで貰ったのかと」


 部下たちが追っ手として現れなかったのは、魔力を渡してすっからかんになってしまっていたからか。


「しかし、魔力が大量にあればいいというわけではなく、それを使うにも器量が求められるのです。グラント、貴方がいくら秀才だからと言っても、これほどの魔力を扱うのは無茶です」


「覚悟の上です……」


 苦しそうに返事するグラントだったが、悔いはなかった。


 だが、シャノンは受け入れられない。


 彼の身体が更にボロボロに崩れていくのを見て堪らず駆け寄ろうとしたが、神太郎が肩を掴んで止める。


「救ってどうする?」


「え?」


「もしかしたら、コイツは勇者を心から尊敬していたのかもしれない。人間たちを救う救世主と崇めていたのかもしれない。だが、実際はその真逆の所業を見せられ、コイツの本心は絶望と忌避感に侵されてしまった。その結果、親父たちを憎み、嫌悪し、何があっても倒そうという執念に取り付かれてしまったんだ。呪われたんだよ」


「……」


「生かしたところで、また勇者に挑む。いや、頭で勝てないと分かっていても本心に強いらされるんだ。コイツ自身も分かっているさ。そんな不幸な人生を送って苦しむぐらいなら、ここで死なせてやるのも一つの情けだ」


「そんな……」


「真面目なお前が信頼しているほどなんだから、相当真面目で潔癖なんだろうな。だからこそ、現実と折り合いがつけられなくなっている。コイツがもう少し俗っぽかったら、現状を受け入れていたかもしれない」


 神太郎は彼をそう評した。


 シャノンもまた昨夜のパズルのことを思い出していた。助けが必ずしもその人のためになるとは限らない。以前、出会った農夫のこともある。死んで救われることもあるかもしれないと考えるようになっていた。


 だが、本人としては勝手なことを言われると気分は良くない。


「黙れ……。分かった風な口を利くな。俺は国のために、人間界のために勇者やお前を倒そうとしているのだ。俺の行動はただ正義から来ている」


 瀕死のグラントだが、敵意を露にする気概だけは変わらず猛々しかった。


 尤も、どちらにしろもう手遅れだ。残っていたもう片方の腕も崩れ落ちる。


「三好神太郎、覚えておけ。貴様ら一族の思い通りにはいかない。必ずや、誰かが貴様らを打ち砕いてくれる」


 そして……、


「この世界に貴様らの居場所はないのだ!」


 その叫びと共にグラントの身体は崩壊し、砂となったのであった。衣服と魔杖を残して。


「グラント……」


 またも心痛に襲われるシャノン。旅に出て以来、辛いことばかりだ。けれど、それが王室という温室にはないこの世の真実なのだろう。


 彼以外にも同じような思想の者は大勢いるかもしれない。そして、そんな人たちと分かり合えるときは来るのだろうか。


 今、彼女が出来ることと言えば手を合わせ彼にために祈るだけであった。


 一方、神太郎はというと……、


「お、これは助かる」


 彼はグラントが残していった衣服を手に取っていた。それを着るというのである。


「ちょ、亡くなったばかりの者の衣服を剥ぎ取るなんて、いくらなんでも不謹慎ではありませんか?」


 倫理を説くシャノン。


 だが……、


「このまま素っ裸で帰れって言うのかよ? お前、一緒にいて恥ずかしくないのか?」


 それ以上の常識を説かれると、彼女は神太郎の格好をまじまじと見てから「い、いや、そうですね。拝借しましょう」と赤面した顔を背けるのであった。


 そして、もう一つ拝借……いや、返してもらう。


「ほら、お前が持っているべきだろう」


 神太郎が渡してきたのは国宝の魔杖ラブレセル。国宝ということは、王族が所有者ということだ。


 それを粛々と受け取る若き魔術士。


 魔術国家エイゼンが代々護り続けてきた魔杖。王女とはいえ彼女自身も初めて手にする、偉大であり強力であり危険な代物だ。緊張しないはずがない。


 それに、今の未熟な自分に相応しいものとは到底思えなかった。


「いいのでしょうか? 私なんかが受け取って」


「いいのでしょうか? って言われても……。他の選択肢と言えば、ここに放っておくことぐらいしか……」


「い、いえ! 勿論、大切に預かります!」


 尤も、神太郎にまた当たり前のことを言われて、また改め直すのだが。


 その後、シャノンはグラントのために簡単な墓を立てることにした。念動魔術で穴を掘り、身体も砂と化していたので埋葬には然程苦労せず。


「安らかに眠って下さい。グラント」


 最後にその冥福を祈って、この決闘を締めくくるのであった。




 旅、再開。二人が乗った馬は遂にキダイ領内へと入っていく。


 流石に追っ手ももう来ないだろう。覚えのある景色も見えてきたので、神太郎の頬も緩んだ。


「この辺りからキダイだな。都まではもうちょっとかかるが」


「それじゃ、もう安心ですね」


 新しい住処、キダイ王国。シャノンにとって初めての外国であったが、不安よりときめきの方が勝っている。


 勿論、それは神太郎がいるから。これから迎える彼との新生活を想うと、乙女心が躍らずにいられないのだ。


「神太郎さん」


「うん?」


「これからも宜しくお願いします」


「こちらこそ」


 彼女のその期待に応えるかのように、神太郎も笑顔で答える。


 こうして、乙女はこれからの甘い生活に夢をふくらませながら、新しい門出を迎えるのであった。



 その想いを見事に裏切られるとも知らずに……。



―呪われた決闘・完―

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