20-3 呪われた決闘③
開戦!
「《ソニーエイヴ》!」
先手はグラント。神太郎に魔杖を向けると、その先に付いていた水晶が紫色に輝き出し、衝撃波を放った。
凄まじい威力。全方位に向けられた殺意が辺りの木々を薙ぎ倒し、或いは吹き飛ばしていく。その場に留まることを許さなかった。
だが、捻くれ者の神太郎はそれを拒否。激しい衝撃を踏ん張りだけで耐え凌ぐ。
尤も、グラントもそれは予想の内。彼の目的は邪魔な障害物の排除だ。
森が消え周囲が開けると、神太郎の身が露になる。
そこに本命を打ち込むのだ!
「《レイフィッシュ》!」
グラントが使ったのはメジャーな光弾魔術。
ただ、これまでの使い手と違うのは、それを放つのは掌からではなかったこと。
数十、数百……。グラントの周りに現れたのは無数の光球。それが意志を持つように神太郎へ飛翔していった。
それはまるで機関砲。毎秒十発という間隔で神太郎に命中していく。
爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。爆発!
その連射により忽ち爆煙が上がり、神太郎一帯を覆ってしまうが、グラントは容赦なく撃ち込み続けた。
その様子は離れた小山にいるシャノンにも見えた。引き締められる胸に手を当ててしまう彼女だったが、決して目は逸らさなかった。見届けるのが己の義務だと思っていたから。
やがて砲撃は止む。グラントが突風の魔術で煙を追い散らすと、その爆心地から現れたのはデコボコになった大地と……健在の神太郎。
服がいくらか破けていたが、相も変わらず二本の足でしっかりと立っていてダメージはなさそうだ。あの煙の中で躱し続けたよう。それでもグラントに焦りはない。
「やはりこの程度ではくたばらないか」
「次はどんな手品を見せてくれるんだ?」
「これだ!」
放たれるは真空波!
高速。不可視。見えない空気の刃が敵手に襲い掛かる。
それでも神太郎は僅かな空気の歪みを見出し、寸でのところで身体を背け避けてみせた。人間業ではない。
「こうも《バキューブ》を見極めるとはな。お前のような奴は初めてだ。だが……」
しかし、それが連発されるとなると、神太郎も眉間にしわを寄せざるを得ない。
咄嗟に下がる神太郎と、それを追う鎌鼬の群れ。遮蔽物がなくなったこの場では離れるしか方法はない。されど、刃は敏速だった。
「ちっ!」
袖が切り裂かれた神太郎は、これ以上は勘弁とばかりに足元を思いっきり蹴る。すると、大地が割れ、巨岩が盛り上がって彼の前に現れた。代わりに刃を受けてくれる。
そして、その巨岩は楯だけではなく目隠し代わりにもなった。
グラントがその岩を《レイフィッシュ》で粉々にした時、神太郎は既にそこにはいなかった。慌てて探知魔術を使うと、感じ取れた位置は………………真後ろ!
彼が振り返った時には、既に神太郎が拳を降り掛かっていた。
だが、スカっ。
当たる寸前でグラントは《テレポス》で姿を消した。
また魔術。本当に厄介なものだと、神太郎は苦虫を噛み締めたような顔をしてしまう。
ただ、グラントもまた逃れた先の空中にて浮遊魔術で浮かびながら同じ顔をしていた。
神太郎の異常な身体能力は、パワーアップした今の彼でも制することは難しい。同じ土俵では勝ち目はないだろう。
ただ、神太郎の武器がその身体能力しかないと分かれば戦いようはある。つまり、圧倒的に搦め手に弱いということだ。
「ぬわっ!?」
神太郎、突然上空に現れてしまう。グラントの《テレポス》が彼を無理やり空へ転移させたのだ。
グラントと違って空中での自由行動が不可能な身では、出来ることと言えば落ちることだけ。凡そ三百メートルの高さから大地へ落下していく。
尤も、グラントが求めているのは落下死などではない。
自由に行動が出来ないということは、確実に攻撃は命中するということだ!
魔術士は魔杖『ラブレセル』を構えると、それに込められていた膨大な魔力を強引に引き出す。
紫色の眩い輝きが彼に不相応な力を与え、仇敵に憤怒をぶつけさせる。
「《レイディング・レイ》!」
杖先から放たれるは死の閃光。巨大なビームのような光が神太郎に迫る。
「やばっ!」
そう思っても回避など叶わず。神太郎は為す術なく飲み込まれてしまった。
それでもグラントに油断はない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
更に力を込め、必殺の念をぶつける。
その過度な魔力は彼の器量をゆうに超え、杖を持つ腕にヒビを走らせるほど。
それらは望遠魔術で見届けているシャノンの目にも映っている。
相手を殺すために自分の命を捧げる。それは一見して正義感からの自己犠牲のように見えたが、一方でどす黒い負のようなものを彼女は感じ取っていた。
言葉には出来ない負の感情。
狂気というべきか。
そして、照射………………終了。
直撃を受けた神太郎はカトンボのように地上に落下。それに続くように、グラントもまた力尽きたように弱々しく大地に降り立った。
「はぁ……はぁ……」
激しい息切れと共に膝をつくグラント。戦いを長引かせずに、即座に出来うる最大火力を打ち込む。それが最適解と彼は確信していた。
ひび割れた腕を押さえながら立ち上がり、仇敵の死骸を探す。
真っ黒になっているだろうから、土と混じって見つけ辛いかもしれない。この憔悴した身では一苦労だなと、彼は溜め息を吐いた。
……ただ、意外にも早々に見つけることが出来た。
そして、意外にもそれは死骸ではなかった。
「やってくれたな~」
神太郎である。
彼はまたも相も変わらず二本の足でしっかりと立っていた。
その身体には傷一つ、火傷一つなく、綺麗なまま。
綺麗な………………産まれたときのままの姿だった。
その格好で、彼は憤怒を見せる。
「貴様ぁ~、自分が何をしたのか分かっているのか?」
「何?」
「俺の服は言わば拘束具。それがなくなった今、もう加減することはない……」
つまり……、
「よくも服を焼いてくれたな……。着替えなんて持ってないぞ!」
神太郎はもう服が破れないよう気遣って戦う必要はなくなったということだ。
神太郎、突撃!
グラント、驚愕!
真正面からの直線的な接近だったが、グラントは虚を衝かれてしまった。転移には移動先を意識しておく必要があるが、その時間も与えられず。慌てて防御魔術《ミラーラ》で光の楯を生み出すも、それは神太郎の拳によって四散し、グラント自身も胸を殴られて吹っ飛ばされてしまった。
砲弾のように高速で水平飛行し、地面に着弾して大きな砂埃を巻き上げる。それが止むと現れたのはぐったりと倒れたグラント。
血反吐を吐き、殴られた胸では腕についていたようなヒビが全面に広がっている。瀕死と言っていい。それでも意識はあった。
「ば、化け物め……」
魔杖にしがみ付きながら何とか立ち上がるも、足元はふらつきは収まらず。
先ほど撃った閃光魔術《レイディング・レイ》は、並の魔族なら確実に屠れるものだった。今の《ミラーラ》だって大抵の攻撃は防げるし、大量の魔力を使った身体強化魔術《アッパーム》なら、傷一つつかないはずだった。
だが、神太郎の前ではそれらは全て意味を成さない。
不条理なまでの圧倒的な力。それはグラントに辛酸を思い出させる忌々しい暴力。
「くそ……」
彼はそれを振り払うように、ゆっくり歩いてくる神太郎に魔杖を向けた。
「《サンブライザ》!」
杖先から放たれるは稲妻!
「《パイロクス》!」
続いて炎!
「《ブリーザー》!」
吹雪!
「《バキューブ》!」
真空波!
考えうるあらゆる攻撃魔術を打ち込むが、神太郎の歩みが止まることはない。さっきは慌てていた避難していた《バキューブ》も、切られる服がなくなれば歯牙にもかけないものだった。
大火力による集中砲火。それをものともせずに歩いてくる人間。
グラントはその光景を以前にも見たことがあった。
今でも頭に焼きついている。
恐ろしい悪夢として。




