08.弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番②
神太郎も、ルメシアも、又四郎すらも驚く。そのまま注視していると、そこから現れたのは本当に美少女だった。……ただ、神太郎はその美少女に見覚えがある。
小柄で細身、そして寡黙な性格を表したかのような整った綺麗な顔。その雰囲気からミステリアスさを感じさせている。それが彼にこう叫ばせた。
「冬那!」
すると、
「あ、神兄いたんだ」
彼女も神太郎を認めた。
「こんなところで会うとはな、冬那。ほら、座れ座れ」
更に、彼の手招きに応じてその片膝の上に座る。
「相変わらず可愛いなー。元気か?」
「神兄も変わらないね」
人形のように表情を変えすに答える冬那。それがまた神秘的で美しい。尤も、隣のルメシアは目をひん剥いて見ているが……。それを解くにも、彼は早々とこの可愛い少女を紹介することにする。
「コイツは俺の妹だ」
「妹? まだ兄弟いたの?」
「これで最後。五人兄弟だ」
冬那も彼女にペコリと頭を下げ挨拶をする。
「三好冬那、十三歳。宮廷薬師です。どうもよろしく」
長子(長男)、仙熊、二一歳。宰相。
次子(長女)、千満、十九歳。公爵夫人。
三子(次男)、神太郎、十七歳。門番。
四子(三男)、又四郎、十五歳。S級暗殺者。
五子(次女)、冬那、十三歳。宮廷薬師。
以上が、彼ら三好五兄弟である。
「十三歳の宮廷薬師!? 凄くない!?」
ルメシアが彼女を褒めると神太郎も嬉しくなった。尤も、宮廷薬師がどれほど凄いのかまでは知らないのだが。
「そんなに凄い仕事なのか?」
「宮廷に勤められるほどの薬師は、この国一番の薬師と言っても過言じゃない。私も詳しくはないけど、薬師の世界は経験と知識がものを言うから、腕のいい薬師は年寄りが多いのよ。それを僅か十三歳で任命されるなんてね」
現地人であるルメシアからそう聞かされれば、神太郎も褒めざるを得ない。
「流石、冬那。兄弟で一番賢いだけのことはある。兄は嬉しいぞ」
「お忍びで街に出ていた王妃様が急に具合を悪くさせて、私が働いていた診療所に運び込まれたのが切っ掛け。その王妃専属という形で特別に招かれちゃった」
冬那からその経緯を聞いていると、又四郎がそれだとばかりに口を挟む。
「それだよ、それ。冬那みたいに向こうから機会が来るのを待ってるわけ!」
が、
「バカたれ。冬那は普通に働いていたから機会が訪れたんだろうが」
神太郎の正論で一蹴されてしまった。……そもそも、その冬那は何故ここにいるのか?
「で、冬那、何でここに来たんだ?」
「街で薬草を仕入れるついでに、又兄に今月分の生活費を渡しに」
生活費!? とんでもない単語の登場に、兄はすかさず弟を問い詰める。
「又四郎、お前、十三歳の妹に生活費を出させているのか!?」
「い、いや……冬那から言い出したんだよ? 給料もいいらしくてさ……」
「アホたれ!」
兄は呆れた。本当に呆れた。みっともなさ過ぎる。それでも、又四郎には未だ自尊心があるようで、反抗してくる。
「うるせー! 神兄ちゃんこそシスコンのくせに!」
「妹を可愛がって何が悪い。そんなことを言う奴はな、家族から愛された経験のない寂しい人間だけだ」
「よく言う。ほら、ルメシアを見てみろ」
弟に促され兄が隣を見てみれば、彼女の自分を見る視線は何故か冷たかった。
「神兄ちゃん、呆れられてんじゃねーかよ。シスコンが彼女なんか作れるのか?」
いや、彼もその心中はすぐに察せた。
「なーに、コイツは嫉妬してるんだよ。ルメシア、お前も可愛い奴だな~」
「はぁ!?」
神太郎の自惚れな突っ込みに抗議の声を上げるルメシア。が、自惚れの耳には届かず。
「知ってるぞ。ツンデレってヤツだろう?」
「違います!」
遂には、彼女は怒りのあまり席を立ってしまった。このまま帰りそうな勢いである。流石にそれはマズイと思ったのか、神太郎は急いで宥める方法を考える。そして、最高の言葉を思いついた。
「分かった、分かったって。それじゃ、もう片方の空いている膝に座れよ。ほら」
彼は振り上げた拳ならぬ、持ち上げた尻を下ろす場所を用意したのだ。二人の女を立てつつ自分の生き方を曲げない完璧な提案である。ルメシアもその唯我独尊案に瞠目してしまっている。
それから、彼女はその見開いた目で神太郎を見つめ、
見つめ、
見つめ、
見つめ、
見つめ、
見つめ、
見つめ、
見つめた挙句……、
その膝に腰を下ろした。
「座るんかい……」
突っ込む又四郎。
が、
「おも(ボソ)」
「あ、今、重いって言った!?」
「いや、言ってない」
「言ったでしょー!」
神太郎の失言にルメシアは再び憤激。結局長々と揉めるのであった。