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18-3 シャノンの悔恨③

 二人は村人たちに見送られながら山賊討伐に出立した。連中のねぐらは東の山腹にあるらしく、裏手から回り込むために獣道を伝って山中へと入っていく。


「行けるか?」


「大丈夫です」


 神太郎の確認に、シャノンはしっかりと答えた。勿論、王女が初めて歩く険しい道筋だったが、責務を思えば何てことはない。


「本当は村に襲ってくるところを迎え撃った方が確実なんだろうが、いつ来るか分からないのを待ち続けるのは勘弁だからな。とっとと片付けて旅に戻りたい」


「それに村人を戦いに巻き込みたくはないですし」


「シャノン、山賊は二十人ほどらしいから一網打尽にする。一人も逃さないためにも前後からアジトを挟み込むように攻めたいが、一人で大丈夫か?」


「当然です。後顧こうこうれいがないようにしましょう」


 戦意もたぎっているようで、シャノンは力強く答えた。これなら大丈夫か。


「ただ、離れ離れになるんだ。念のために合流や応援の合図があるといいな」


「それなら《ブライト》を撃って合図とするのはどうでしょうか? 閃光弾の魔術です」


「閃光弾……。ああ、前に見たことがある。それにしよう」


 以前、神太郎が東門で働いていた時、ユリーシャが撃っていたのを見たことがあった。どういう魔術か分かっていれば立派な合図になろう。


 やがてアジトが見えてくる。建物が数件だけの柵もない小さな集落のようで、その集落の出入り口は一ヶ所のみ。多くの馬が繋がれているので全員いるようだ。全滅させるには都合良し。


 神太郎が真正面から、シャノンが裏手から攻めることにし、二人はそれぞれ配置に就くのだった。




 一方、その山賊らはというと、が来ていることなど露知らず昼間から酒盛りをしていた。最も大きな家屋にて、山賊のかしらが手下たちと共に酒杯片手に談笑している。


「ぷはぁ~。いい住処を見つけられたもんだ。王国の方も何やら王都で揉め事が起きているようで、田舎まで手が回らないようだし。しばらくここに腰を据えるとするか」


「そっすねー。近くに村もありますし、しばらくは食い物には困らんでしょう」


 頭の言葉に、手下の一人が頷く。エイゼンが勇者に攻められた影響がこんなところにまで及んでいたようだ。


 更にもう一人の手下もお頭に酌をしながらこんなことを言った。


「しかし、この間の女は惜しかったっすね。早々に殺しちまって」


「田舎では珍しく上物だったからな。逃げようとしなけりゃ、まだまだ生かしてやったのに」


 農夫の娘のことである。彼女の殺害を惜しくは思いつつも反省はしていなかった。


「まぁ、またどこからか拾ってくるか」


 強者である自分は狩る側で、弱者である村人は狩られる側と思っていたから。


 だが、それが間違っていたことにすぐに思い知らされることになる。


 何やら外から騒がしい声が聞こえてきたのだ。


 頭が家屋から出てみれば、集落の入り口で揉め事が起きているよう。四人の部下が見たことのない一人の男を取り囲んでいた。


「アホが一匹迷い込んできたのか?」


 ただ、街道から離れたここは道を間違えて来るような場所ではない。怪しい奴は殺してしまうのが一番である。


 頭がそう考えて入り口に足を運ぼうとした時だった。



 ドン――!



 不気味な打音。それ共に、囲っていた部下の一人が飛び上がった。空高く、高く、高く、高く……。やがて落下を始めると……地面に激突。その後はピクリともしなかった。


 突然のことに呆気に取られる山賊の面々。だが、男は構わずそんな彼らを殴り飛ばしていく。


 一人は地面にめり込み、一人は山の彼方へ消え、最後の一人は頭の足元へ飛んできた。一撃で絶命させられている様を見せられて、頭も「ひっ!?」と悲鳴を上げてしまう。


 人間離れした膂力りょりょく。こんなことが出来るのは魔術で身体能力を上げた魔術士ぐらいだ。つまり、敵である。


「敵だぁ! 野郎ども出て来い! 敵襲だぁ!」


 頭の呼び声に引き寄せられ、家屋から出てくる十人以上の荒くれども。自慢の得物を持って、いつものように獲物に襲い掛かっていった。きびすを返して走り出す頭以外は。


 彼は逃げ出したのである。


「くそ、くそ! 冒険者だと? 誰が雇いやがった!?」


 魔術を使えるような冒険者は魔獣すら討ち取る強者だ。ただの人間では決して敵わない。案の定、それを知らされず突っ込んでいった部下たちは、獲物と思っていた相手に次々と吹っ飛ばされていた。彼が出来ることはその隙に逃げることのみ。


 一緒に飲んでいた手下二人を連れ、裏手の森の中へ向かう。


 しかし、そこにも手が回っていた。


「ここまでです! 観念なさい!」


 彼らの行く手を塞いだのは美しき冒険者シャノン。


「ガキの女だと……!? 舐めやがって」


 予想外の若い女の登場に、頭たちはプライドを傷つけられたとばかりに憤慨。腰の剣を抜いて応じた。一方、シャノンも魔杖を構えて警告する。


「貴方たちの悪行は許されません。けれど、反省し罪を償うというのなら命までは取りません」


「馬鹿が。お前のようなガキにやられるかよ! やっちまえ!」


 斬りかかる手下たち。女相手だろうが躊躇なく攻め立てたが、シャノンは麻痺魔術《レイブラッシュ》の光弾を放って一人を痺れさせ失神させると、もう一人を尻込みさせた。


 そして美しき冒険者はもう一度警告する。


「次は手加減しません。己の過ちを受け入れ、村の人たちへの罪を償いなさい」


 ……ただ、それは失言でもあった。


「成る程……。あの村の連中に雇われたのか」


「え?」


 合点がいった頭は、すぐさま懐から玉を取り出し投げつける。シャノンは咄嗟とっさにバリアを張って防ぐも、玉が弾け粉末が広がり彼女の視界を奪った。目潰しである。ただ、バリアのお陰で直接目はやられていない。彼女は冷静にもう一人の手下に《レイブラッシュ》を食らわせ無力化させた。だが、頭も承知の上。


「しまった!?」


 シャノンが気づいた時には、彼は既に逃げ延びていた。その先には馬を留めておく馬繋ぎがあり、もしものためにと用意していた逃走用の馬にまたがっている。


「くっ!」


 シャノンはすかさず《レイブラッシュ》を放つも、木々が楯になってしまい命中せず。


「シャノン! 《レイフィッシュ》だ!」


 遅れてやってくる神太郎がそう叫んだ。光弾魔術《レイフィッシュ》はキダイ王国の門番やエイゼン王国の関所の兵たちが使っていた基本的な攻撃魔術である。その威力をもってすれば木々を貫いて頭にも当てられるだろう。


 しかし……、


「ぅ……」


 彼女は撃てなかった。勿論、使えないわけではない。それでも撃てなかったのだ。


 魔杖の先を相手に向けつつも、手を震わせ、息を荒くし、視線で追い……そのまま相手が走り去っていくのを見送った。見えなくなっても、その構えのままで……。


「追え、シャノン!」


 神太郎の叫び声も耳を素通りしてしまうほど。


「村が危ない!」


「っ!?」


 そしてその言葉でやっと気を取り戻すと、彼女は慌てて後を追うのであった。




 死地から脱出した頭は馬を全速力で走らせていた。


「くそ、くそ、くそ。俺の自慢の盗賊団がこんなことで崩壊するとは……。くそっ!」


 唯一逃げ出せたのはこの男だけだろう。この危機への敏感さが、山賊の長を務められた所以か。ただ、このままおめおめと逃げ出すのも我慢ならなかった。


「あの村の連中、冒険者など雇いやがって……。目に物見せてやる!」


 生命より逆恨みの復讐心を優先させてしまうのもまた傍若無人ぼうじゃくぶじんの無法者故か。

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