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17-1 王女の初冒険①

 エイゼン王都イージョを無事脱出した神太郎は勇者夫婦に交渉結果を伝えると、二人からもその承認を得た。これにて勇者とエイゼンの手打ちが成されたのである。


 ということで、神太郎の役目もここまで。両親に別れを告げると、キダイ王国への帰路に着いた。美しい道連れシャノンと共に。


「ふぅ~。これで俺もお役御免だ。これで気兼ねなく羽根を伸ばせるぞ」


 背伸びしながら街道を行く暢気な神太郎。片や、シャノンの方は憂い顔だった。尤も、人質なのだから当然か。……いや、彼女の心配は自分のことではあらず。


「神太郎さん、大丈夫でしょうか?」


「うん?」


「今回の件は一応手打ちになりました。勇者殿もこちらの内情をんでくれて、陛下……私の父が和解を不服として戦闘を継続しても勇者殿は反撃を自重してくれると言ってくれました。けれど、本当に……」


 エイゼン国王の和解反故を理由に、勇者がエイゼンを滅ぼさないか気掛かりだったのだ。国王がシャノンを溺愛しているとはいえ、彼女の身を諦めてでも戦闘継続を選ぶという選択肢は少なからずありえた。


「そうだなー。勇者側の今の目的はアスタライヤの書だから、それを喪失させてしまうような攻撃はしないと思うぞ。尤も、勇者側からしたらその書が王都にあるのかすら分からないんだけどな。まぁ、この策の発案者であるカイラル王子が上手く仕切ってくれるさ」


「そうだといいんですけど」


「俺たちに出来ることはないさ。折角遠出したんだからゆっくり観光しながら帰ろうぜ」


「観光!? 遊びではないんですよ」


「遊びだって。仕事はもう終わったんだから」


 神太郎のその切り替えぶりに、シャノンはつい呆れの溜め息を吐いてしまった。


 ……ただ、実のところ彼女もまたこの道中に心を躍らせていたのだ。


 しばらくすればその険しかった顔に笑みが戻り、晴天を見上げさせる。そして、その心地良さに堪らず口にする。


「いい天気ですね」


「そうだなー。旅日和だ」


 神太郎も笑顔で答えた。


「私、実は冒険者になるのが夢だったんです。こうやって世界中を旅して困っている人たちを助ける。王女という立場ではなく、自分自身の力で世の中を良くしたかったんです。こうして旅をしているとそんな気分を味わえて気持ちがいいんです」


「冒険者かー」


「冒険者は弱き者を救う救世主。そうあるべきと思っています。だから、世界一の冒険者である勇者殿が人々に牙を剥くことが許せなかった。強者は弱者を護るべきです。神太郎さんはそうは思わないですか?」


「うーん……。とはいえ、降りかかる火の粉は払わなきゃならないだろう?」


「でも、やり方というものがあるでしょう? 勇者殿はやり過ぎです。あまりにも」


「お前なら上手くやれると?」


「私なら人を傷つけずに収められます」


 シャノンはそうハッキリと言い切った。


 それは神太郎へだけではなく、自分自身への訓戒でもあった。




 その後、二人は小さな町に着くと昼食をとることにした。


 入店したのは、よくある庶民向けの飯屋。職工や旅人、無法者など客層からは高貴さを微塵も感じられず、当然ながらお姫様も初めてだった。彼女は卓に着くとキョロキョロと店内を見渡しながら神太郎に明かす。


「私、こういうお店初めてです」


「そうか。そうだよな。まぁ、何事も経験だ。人生の糧になる」


「そうですね」


「そういえば歩き旅になっちまったけど大丈夫か? キダイまで結構距離があると思うぞ。お姫様にはやっぱり馬車がいいか」


「いえ、このぐらい平気です。魔術で痛みや体力を癒すことが出来ますから」


「魔術とは便利なものだ。腕はいいのか?」


「一応、『魔導師』の称号を与えられていますが……」


「魔導師。前に弟から聞いたことがあるけど、魔術士の中でも高い位なんだよな?」


「魔術士には下級、中級、上級とあり、更にその上に魔導師の称号があります。私も若くしてその称号を授けられましたが……多分、王女という身分だからだと思います」


忖度そんたくか」


「周りの者からは百年に一人の逸材なんて言われていますが、覚えることはまだまだ多いです。でも、魔導師の称号に相応しくなるよう日々努力はしています」


 シャノンは快活な笑みでそう宣言した。直向に鍛錬する者を嫌う人間はいないだろう。神太郎もその純粋な笑みに釣られ自然と笑顔になってしまった。


 そして、店内に張られているメニュー表に目を移す。


「さて、注文するか。何にする?」


「私、疎いので……」


「なら俺が決めるぞ。店員さん、冷茶とそのケバブサンドってやつ二つずつねー」


 思いがけず一緒に旅をすることになったズボラと生真面目の凸凹コンビだったが、神太郎の気質のお陰か、取りえず仲良くやっていけそうである。


 二人は、食事の中でにこやかに交歓こうかんするのであった。


 そして、店の奥ではその様子をほくそ笑んで見ている客たちがいた。

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