16-4 調停者・神太郎④
城の裏手にある馬車庫。神太郎はそこに連れて来られると、待っていたのはカイラルだった。彼はまず謝罪をする。
「急なお呼び立て、申し訳ない。刺客の件についても謝ります」
「刺客?」
「会談の返答を致します。私は勇者殿の要望を全て飲むつもりです。アスタライヤの書は禁書ですが、今、目の前に迫っている三十万もの人命の危機を考えれば致し方がない。シャノンも人命が最優先ということで人質になることに納得してくれました。ただ、国王は認めないでしょう。あの刺客も和解を阻止するために国王が放ったものです。大方、侍従辺りから情報が漏れたのか」
「それで?」
「そこで私の一存で強引に和解を成したいのです。国王は息子のサナワを愛していましたが、娘のシャノンはそれ以上に溺愛しております。そのシャノンが勇者側の手の内になれば、娘の命惜しさに抵抗を放棄しアスタライヤの書を閲覧させることも認めることでしょう。なので、とにかくまずシャノンを勇者側に渡したいのです」
「成る程。分かりました。それでいいでしょう」
「ただ、国王もこちらの動きに気づいたことでしょう。すぐにでも追っ手が来るでしょうから城門の外まで逃げてもらいたい。馬車を用意してある」
「いや、そういうことなら馬車は邪魔です。徒歩でいい。シャノン王女、身支度を」
「え? は、はい」
神太郎に促され、今度はシャノンの方が慌てて身支度をする。馬車に乗せていたバッグを提げ、外套を纏い一メートルほどある魔法の杖、『魔杖』を持った。
準備が整えばあとは出発するのみ。
ただ、その前にカイラルは神太郎に一言。
「神太郎殿」
「うん?」
「妹を……宜しく頼みます」
「任せられよ」
同じく妹がいる身として、神太郎はその約束を固く誓った。
城を出た神太郎とシャノンは街中を行く。夜更けなだけあって人通りはほとんどなく静かだ。だが、その分目立ってしまう。二人はそそくさとコソ泥のように進んでいた。
「城門までどのくらいだ?」
「一番近いところで凡そ十キロです」
「仕方ないが遠いな。案内してもらえるか?」
「勿論」
ただ、そう都合良くはいかず。しばらくすると、どこからともなく騎兵が三騎やってきた。そして、神太郎らを指して「いたぞ、あそこだ!」と叫んだ。国王の追っ手である。
「もう見つかったか。こっちだ」
神太郎はシャノンの手を握り、馬では通れない狭い裏路地へと入っていく。かなり入り組んだ道で逃げるには最適だったが、その分、目的地までは時間が掛かってしまう。神太郎はいきなり予定を変更せざるを得なかった。
「こりゃ、近いところどころか全ての城門に手が回っているな」
「でも、王都を出るには八つの門のうち、どこかを通らなければ……」
「それはちょっと真面目に考え過ぎだ」
「え?」
「向こうの策を逆手に取ろう」
彼の言葉にシャノンは首を傾げるばかりだった。
「そういえばアンタも魔術が使えるみたいだな? こういう時に最適な魔術とかはないのか?」
「やっぱり転移魔術でしょうか。一瞬で他の場所へ移る魔術です」
「何だ、そんな都合がいい魔術があるのか」
「人によってその範囲には限りがありますが……。けれど、勇者の連れの大魔導師、つまり貴方のお母様がこの王都を囲うように結界を張っているので、王都外に出ることは出来ません」
「まぁ、そうじゃないと包囲の意味がないからな。なら、王都内なら大丈夫か?」
「視界の範囲内なら」
「よし、試してみるか」
こうして、神太郎たちは虚を衝く逃亡策を試みる。




