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16-3 調停者・神太郎③

 その夜、神太郎は用意された広めの客室にてくつろいでいた。


 いや、寛いではいなかった。


「ん? ……ん?」


 彼は昼間からテーブルに着いて、ある作業をしていたのだ。


 それはパズル。複数の木片を組み合わせて様々な形を作る、頭の体操に使える玩具だ。旅館に置いてありそうなそれがここにも置かれていたので、ちょっとばかりとやってみたのだが、最後の一つが再現出来ずにいる。だから、苛立ち始めていた。


「ん~? 何だぁ? 何だ、何だぁ~? こういうのは冬那が得意なんだけどな~」


 ピースが六つもあるタイプで難易度も高い。


「あー、イラつくぜぇ~」


 玩具で苛立つなど馬鹿馬鹿しいが、途中で諦めるのもまた精神的に良くない。神太郎はもうゴールに突き進むしかなかった。


 やがて夜は更け、外も完全に静まる。


 それでも彼は休むことなくテーブルに向かって黙々と作業していた。だから、後ろから迫る影に気づいていなかった。


 突如、神太郎の背後に現れた二人の黒尽くめの人物。ドアから入ったわけでもなく、窓から侵入したわけでもない。突然その場に現れたのだ。まるで瞬間移動したかのように。音も立てず、気配も消し、顔までマスクで隠したそれは、まるで暗殺者のようだった。


 そして、その印象通りのことを始める。


 黒尽くめの内の一人が神太郎に向けて片手をかざした。すると、触れてもいないのにその首がゆっくりと締め付けられていく。


 触らずに物を動かす念動魔術《テレクス》による首締めだ。地味だが静かに事を成せる有用な技である。暗殺にはもってこいだ。


 ……だが、一向にそれが成せない。


 神太郎の首を締めているのだが、当人は全く無反応なのだ。苦しむ仕草をしてもいいだろうに、全然気づかず平然としている。


 暗殺者は念のためもう片手も翳し、両手がかりで力強く締め付ける。思いっきり。魔力を全開にして。……されど、またも無反応。


 その理由は至極単純だった。非力だからである。暗殺者の出力では神太郎の首の筋肉はビクともしなかったのだ。


 更に、二人がかりで締め付けるもやはり通じず。当の神太郎は首を締められていることすら気づかず、パズルに集中していた。


 ならばと、今度は換気魔術《ストロウ》をかける。これはを気流を生み出すという地味な魔術だが、屋内で使用すれば対象の周囲から空気を奪い窒息させることも出来た。これもまた暗殺に相応しい魔術だろう。


 ……しかし、神太郎に変わりはない。黙々とパズルをやっている。


 実はこの男、集中するあまり息を止めていたのだ。既に一時間も。彼は身体能力は勿論、肺活量も尋常ではなかった。


 思わず見合わせてしまう暗殺者たち。二人とも歴戦の刺客だが、こんな異様な標的は初めてだった。


 こうなっては仕方がない。直接殺るべし。暗殺者たちは手を構えると、それを輝かせた。魔力を込め本物の刃より鋭くなった手刀によってその命を奪う。


 二人は互いに視線を交わすと、タイミングを合わて一斉に襲い掛かる!


 その時だった。



 バン――!



 突然の打音。それは扉が勢いよく開かれた音。暗殺者たち、そして神太郎がそちらを見ると、そこに立っていたのはシャノンだった。その彼女が素早く麻痺魔術《レイブラッシュ》の光弾を二発放つと、命中した暗殺者たちは痺れて無力化させられる。


 ここに至って、神太郎も暗殺者に気づいた。一方、唖然としている彼にシャノンは急かす。


「神太郎さん、急いで出立を!」


「え?」


「早く。急いで!」


 急き立てられながら荷物を纏める神太郎。


「あ、このパズルも持っていっていい?」


「いいから、早く!」


 最後にパズルもバッグに入れると、シャノンに手を引っ張られながら部屋を後にするのだった。

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