15-3 関所破り③
その後、神太郎は松明片手に進んでいると、教えられた通り突き当たりの別れ道に出くわした。そして教えられた通り右を選ぶ。
黙々と進む、進む、進む……。連れがいなくなった分、ペースも早くなった。ただ一方で、話し相手がいなくなったので一人で考える暇も出てきた。だから、今になって違和感を覚えた。
何故、あの行商人は自分を誘ってくれたのだろうか。
何故、急いでいると言いながら陽が登るまで休むと言い出したのか。
そして何故、今歩いている道が街道から離れるように上り坂になっているのか。
次々と浮かんでくる疑問。
ただ、その答えはすぐに判明することになる。
「ん?」
進む神太郎の目の前に人影が現れた。しかも複数である。誰だ? と、松明で照らしてみると、それは見覚えのある甲冑を着た男たち。
関所の兵士たちだ。
「いたぞ。関所破りだ!」
彼らは神太郎をそう呼んだ。つまり犯罪者の取り締まりである。
「げっ!?」
神太郎もすぐに察し慌てて来た道を戻ろうとするも、後ろにも兵士たちが現れた。前後を囲まれ持っていた槍を向けられる。
「関所破りは重罪だ。覚悟しろ!」
「ひぇ!」
進退窮まる犯罪者・神太郎。すると、来た道の遠い先に別の松明の明かりが見えた。目を凝らせば、それは行商人たちだ。彼は取り囲まれた神太郎を見ると、ニヤリと笑いながら去っていった。
ここに至って神太郎も気づく。つまり、行商人は見回りの兵士たちを引きつける囮として彼に声を掛けたのだ。大方、あの別れ道は左が正解だったのだろう。
「騙された!? くそ~、ああ、いいよ! もうこっちから願い下げだよ。後から助けてくれと言われても、もう遅いからな! お前らなんか全滅してしまえ!」
神太郎、またあの捨て台詞を吐く。実は少し気に入っていた。
それはともかく、ここは一先ず逃げるべし。前後を挟まれた彼は躊躇することなく右側の藪に中へ飛び込んだ。
一方、まんまと兵士たちの目を掻い潜った行商人たちは無事、街道に到達。そのまま王都へと向かっていた。
「ははは、上手くいった、上手くいった。ビックリするぐらい単純な男だったな」
ご満悦の行商人。片や、弟子の方は少し心苦しいよう。
「でも悪いことをしましたね。まだ十代ぐらいでしたよ」
「これが世の中というものだ。騙し騙されよ。他人の言葉を信じる方が悪いんだ。お前も肝に銘じておくんだな」
それがこの世界の商人たちの生きる術なのだろう。
だが、彼はすぐに思い直すことになる。
他人の言葉は信じるべきだったと……。
逃亡者となった神太郎は道ですらない荒れた山肌を滑るように下りていた。兵士たちも追いたいところだが、神太郎ほどの身軽さはないため正しい道で遠回りせざるを得ず。お陰で早々と突き放せて、街道に出ることが出来た。
「さてと、このまま突っ走るか」
ともかく、これで王都を目指せる。追手が追いつく前にと、神太郎は駆け出………………そうとしたら、行き先の方から何やらやってくる。
「うわあああああああああ!」
悲鳴を上げながらやってきたのは、あの行商人。弟子と共に息を切らせながら必死の形相で走ってきた。
関所破りまでしてあれほど目指していた王都とは逆方向へ駆けているのだ。ただ事ではない。
やがて、行商人も神太郎に気づく。
「た、助けてくれ!」
「あ?」
「ば、バケモノが……!」
彼がそう言い掛けた刹那、逃げてきた先から眩い閃光が放たれ、弟子の方を貫いた。胴体に大穴を開けられ、絶命する。
「ひぃぃぃ!」
そのあまりの光景に腰を抜かす行商人と、ただただ呆気に取られる神太郎。
次いで、それが姿を現す。
夜の暗闇の中から現れたのは、人の形を模した巨大な石の像。体長四メートルはあろうそれが意志をもつかのように歩いてきたのだ。間違いなく行商人たちを狙っているよう。
「助けてくれ!」
這いながら神太郎に助けを求める行商人。
対して、神太郎はカッコいいポーズを決めながらこう答えた。
「今更助けてくれって言われても、もう遅いぜ!」
「そ、そんな……うぎゃあああああああああ!」
そして行商人は石像の一つ目から放たれた閃光に身体を貫かれ、彼もまた落命するのであった。
「た、大変だ! でも大丈夫、すぐにオタク自慢の薬を塗ってやるからな」
そうボケながら、行商人の死体のバッグを漁る神太郎。ただ、石像がツッコミを入れてくれなかったので、ボケた本人は少し空しくなってしまった。
その上、まだ事は収まりそうにはない。その石像は次いで神太郎をも標的としたのだ。閃光を放った目が彼を捉える。
「お、俺もっ!?」
そして問答無用に発射! 人の命を一瞬で奪う死の光が迫る!
神太郎、咄嗟に身体を捻って躱すも、足元に着弾。大爆発を起こし、「ぬわああああああ!」という悲鳴と共に彼方へ吹っ飛ばされてしまった。
宙に弧を描いて、描いて、描いて、臀部から着地。神太郎は「痛てて」と尻を擦るのだった。
「うぅ……。ノリが悪いぜ」
あの塩対応から見るに、どうやら機械のような意志のないマシンらしい。初めて出会うタイプだった。




