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15-1 関所破り①

 マルト連峰を越えた神太郎は、遂にエイゼン王国の領地に入った。あとは目的地である王都まで延びた街道に沿うだけである。彼の足なら今日中に着くことだろう。


 しかし、そう上手く事は進まないものである。


 神太郎は王都手前にある最後の街に辿り着いた。主要街道の宿場町なだけあってそこそこ大きく賑やかな街である。人で溢れていた。


「活気のある街だな。よし、ここで腹ごしらえでもするか」


 人混みの中を進みながら上機嫌に店選びをする神太郎。マルト連峰でも腹ごしらえをしたが、その土地々々の郷土料理を味わうのは旅の醍醐味である。どこの店も美味そうに見えた。……ただ、どこも満員で入れそうにない。


 更にもう一つ気づいたのは街の活況だ。活気があるといえばあるのだが、どちらかというと負の活気。どの人も苛立っている感じがしたのだ。


 そして、その理由は街の王都へ繋がる関所にあった。


 神太郎が食事を諦め早々と王都へ向かおうすると、その関所ではとてつもない人だかりが出来ていた。彼も門番なので関所が混むのは分かっていたが、それでも一向に進む気配がない。


 神太郎がひしめき合う人々を掻き分けながら無理やり前進すると、やっと関所の門に辿り着く。固く閉ざされた門に。


 関所は封鎖されていたのだ。


「何だぁ?」


 かんぬきでしっかり閉じられた門。その前には甲冑をまとった兵士たちが配置され、人々の行く手を遮っている。


 この街が賑やかだったのは、旅人たちが足止めを食らっていたからだった。皆、苛立っているわけである。


「おい、とっとと封鎖を解け!」


 群衆の一人が叫んだ。更に怒声は続く。


「もう一週間も足止めされているんだぞ!」


「こっちは急いで王都に納入しなきゃならないんだぞ。商売上がったりだ!」


「足止めされている間の宿代だって馬鹿にならないんだ。早く門を開けろ!」


 一人が不満を上げるとせきを切ったように次々と鬱憤うっぷんを吐き出す。これ以上酷くなれば暴動も起きかねない。だからこそ、多数の兵士が配置されているのだろう。


 すると、兵士たちの中から身なりが整った役人らしい男が出てきて、その不満に答える。


「現在、王都との行き来は禁止されている。何人たりとも通ることはまかりならない。これは王国の決定である!」


 彼は群集に届くよう威厳をもって言い放った。


「いつまで続くんだよ!?」


「そもそも何で王都に行けないんだよ!?」


 その旅人の尤もな問いに、役人は尤もらしいコメントで応じる。


「以前も発表したとおり、理由は王都へ道中にて魔獣が出没したという知らせが入ったからだ。封鎖は安全が確認されるまで続く。以上だ」


 傍から見ればそれは理屈の通ったものだった。だが、魔獣を理由に一日程度ならともかく一週間も足止めするのは考え辛い。街道の封鎖は国家の経済に大きな打撃を与えるので、モネ婆さんの畑での魔獣出没と違って、今回のような件は国家が本腰を入れて討伐するものなのだ。なのに、未だ解決出来ていない。それならば、旅人の何人かが魔獣に襲われるという多少の犠牲に目をつむりながらも往来を認めるという選択肢も出てくるだろう。ここに押し寄せる旅人たちも、それを知っているから納得出来ないでいたのだ。


 当然、神太郎自身も。


 ……いや、彼だけはその理由を見出せるはずだ。


 神太郎は考える。考える。考える。


「うーん、魔獣の出没ぐらいじゃ一週間も封鎖しないよな。ってことは別の理由? 王都で何か問題が起きたのか? 地震? 洪水? 魔族の軍勢に襲われているとか。……あっ!?」


 そして気づいた。


「アハハハ、そうだ、そうだ。親父が攻めてるんだった」


 だからこそ、自分がエイゼンに向かっていたのではないのかと、神太郎はつい笑ってしまった。


 群集に理由を明かせないのは、王都が勇者に襲われているなんて言えないからであろう。ルメシアも見送りの時に言っていたが、勇者が人間国家を攻めるなんて世の中に知られたくないはずだ。


 となれば、それを仲裁する神太郎だけは堂々と通っていいはず。彼は「どうも~」と手を上げながらその役人の前に進み出た。


「何だ、貴様は? 門は開かん。とっとと下がれ」


「私はキダイ王国の使者です。通らせて頂けませんか? エイゼン側へも連絡が行っているかと」


 居丈高いたけだかな役人に、神太郎は国の代表らしく丁寧な言葉で答えた。


「キダイからの?」


 そう明かすと役人も態度を少し和らげた。やはり、こういう時は立場がものをいう。彼は傍にいた補佐役と一言二言話すと、神太郎に問う。


「確かに使者の件は聞いているが、貴様がか? まだ子供じゃないか」


「ピッチピチの十七歳です」


「証明する物は?」


「キダイ王国宰相からの任命書とそちらへの書簡がある」


 神太郎はバッグの中を手探りながら答えた。勿論、宰相の兄からそういうものを預かっていたのだ。


 そして、それを得意気に差し出……、


 ……、


 ……、


 ……、


 ……そうとするも、見当たらず。


「……ん?」


 神太郎がバッグの中を覗いてもやはりない。消えていた。何故? いや、思い当たる節はある。マルト連峰にて魔族に蹴落とされてバッグを落としてしまったが、その際、中身がばら撒かれていた。全て拾ったと思っていたが、どうやら見逃していたようだ。


「いやぁ~、どうやら落としちゃったみたい」


 まだ出さないのかと怪訝そうな顔をしていた役人に、神太郎は頭を掻きながら素直に白状した。


 そして追い出された。

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