14-2 心地良い男②
メメッソの案内の下、神太郎は再び山を登り始めた。彼の先導は的確で、視界が利かない猛吹雪の中でも確かな道を選んでおり、神太郎もその足跡に従っていけば安全に進むことが出来た。
「凄いな。この吹雪の中でも見えているのか?」
「魔族でもこの視界不良は堪えるが、地形はもう覚えた」
「もう自分の家の庭みたいなものか。それに、そんな毛皮ボーボーだと寒くなくていいだろうしな」
「いや、めちゃくちゃ寒い」
「寒いんかい!」
進む一行。途中、足場がところどころ崩れたところがあったがそれを難なく跳び越え、更に全部崩れたところもあったが、それも絶壁にへばりついてロッククライミングの要領で進んでいく。実に順調な登山だった。順調過ぎてメメッソも不思議がってしまう。
「神太郎、お主、本当に人間離れしておるな。もしかして、魔術で身体能力を上げている魔術士か?」
「魔術は使えない」
「不思議な人間だ」
「よく言われる。アンタだって不思議な魔族だろう? 人間相手に親切をするなんて」
「……そうだな」
その神太郎の指摘には、メメッソもその通りだとつい失笑してしまった。
「けれど、隠遁先によくこんなところを選んだな。もうちょっとマシなところもあったんじゃないか?」
「いや、ここがいいのだ」
その後も登る、登る、登る。二人はまるでヤモリの如く断崖絶壁を登っていった。
「おい、何も見えなくなったぞ」
「大丈夫。雲の中に入っただけだ。そのまま上に登り続けろ」
やがて、一寸先まで見えていた視界すらも完全に塞がれてしまうが、メメッソの言葉を信じて黙々と上がっていった。
そして、遂に辿り着く。
雲の中を抜けると、そこはマルト連峰の尾根だった。
「おお!」
久しぶりに大地に立った神太郎は、目の前の光景につい感嘆の声を上げてしまった。
先ほどの吹雪が嘘だったかのような晴天に、下に広がるは雲の海。空気は薄く肌寒いが、平地では決して味わえない絶景に、彼は感動を覚えていた。
「凄い景色だ。まるで異世界に来たようだな。……まぁ、実際に異世界なんだが」
「何もない殺風景な景色だろう。そんなに気に入ったのか?」
「ああ、この山を登って本当に良かったよ。恋人たちにも見せてやりたかったな」
ここを住処にしているメメッソからすれば変わり映えしないつまらない光景だったが、人里で暮らす神太郎からすれば神秘的なもの。
「折角だから一番高いところに立つか」
序に最も高い山頂を目指してみる。疲れを全く見せない足取りでスイスイと登っていくと、マルタ連峰の最高点に到達した。片足立ちせざるを得ないほどの狭い足場にて、両手を大きく掲げた。
「ふははは! 見ろ、メメッソ! 俺は今、世界で最も高みにいる。この世の全てが俺の足元にひれ伏しているのだ!」
悪者のような台詞を吐くふざけっぷりは完全に観光気分である。彼の恋人たちが知れば、とっととエイゼンへ行けと怒ることだろう。
「喜んでいるところ悪いが、世界一高いのは別の山だぞ」
「何と!? それじゃ、今度はその世界最高峰に登るとするかなー」
メメッソの突っ込みにも、前向きに応じる様。神太郎のその楽天的な気質に、メメッソも「面白い男だ」と驚きを越えて感心するようになってしまった。
ただ、悪意を向ける者たちもいた。
高峰の天辺にいるはずの神太郎の上に、更に別の影があったのだ。それが急降下して彼に襲い掛かる。
「んっ!?」
神太郎もまさか自分より上に誰かがいるとは思わず、その突撃をモロに食らってしまう。片足立ちせざるを得ない足場のせいもあって、踏ん張ることも出来ずにその身体を大きく吹っ飛ばされてしまった。
そして……、
「うわあああああああああああああああああああああああああああ!」
悲鳴と共に何百メートル、何千メートルも下へと落ちていってしまった。




