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13-4 疎ましい男④

 突如、先頭を行く神太郎が足を止めた。あるものを見つけたのだ。


「……キックス、どうやら元のパーティーには戻れなさそうだぞ」


「え?」


 キックスが彼の視線に従って木々の合間を見ると、それは死体だった。


 ベルの死体だ。


「っ!?」


 言葉を失う元仲間。宿った勇気は一瞬で失せ、恐怖と動揺が身体中を巡る。


 死体の腹には穴が空いており、出血も激しかったよう。少しの間は生きていたようだが、死んで数時間は経っているようだった。


 更に先を見ると、カンクの死体もあった。こちらは頭が完全に潰れており、即死だった模様。そちらまで目にすると、キックスは吐き気を催してしまった。


 片や、神太郎は冷静に検分する。


「この乱暴なやられ方から察すると、二人とも魔獣にやられたようだな。昨日言っていた魔獣退治の仕事で返り打ちに遭ったというところか」


「そんな……」


 ただ、キックスもうろたえているばかりではいられない。


「ルーシは? ルーシ!」


 彼は最後の仲間を捜すべく走り出した。森の中を駆け、彼女の名を叫び続ける。


 やがて、その足はある洞窟の前で止まった。


 僅かにだが、声のようなものが聞こえたのだ。


 そして、キックスが恐る恐るその中を覗いてみると……その奥深くに彼女はいた。魔獣と共に。


 目立った外傷はなかったが、衣服は破かれほぼ全裸状態。そして、胡坐をかいた巨大な猿の腰の上に座らせられ、身体を掴まれ無理やり腰を振らされていた。凌辱されていたのである。


 ルーシの目は虚ろで、声も「あ……あ……」と微かに聞こえるのみ。生きてはいるが、ぐったりしている。もう何時間も続いているようで、抵抗する体力も気力もないようだ。


 これまで仲間の非情な姿に耐えてきたキックスも、それを前にしては遂に胃袋の中のものを吐いてしまった。


 遅ればせながらやってきた神太郎もそれを見て不憫ふびんに思う。


「戦場にレイプは付きものだが、獣まで人間を犯すのか。気の毒に」


 ただ、その言葉がキックスのかんに障った。


「なに他人事みたいに……。早く助けてやれよ!」


「あん?」


「アンタならあの魔獣も倒せるだろ! 早くルーシを助けろよ!」


 それは依頼というより命令だった。それ故に、今度は神太郎の癇に障る。


「イラっとした。俺、今イラっとした」


 少々子供じみた返答。それが更にキックスを怒らせるも……、


「なっ!? そんなことを言ってる場合かよ! アンタだってルーシに良くしてもらっただろう!?」


「お前……全然反省していないんだな」


「え?」


「また他人任せかよ。お前は行動しないのかよ?」


「っ……」


 神太郎の怒りの正体を知ると、彼は抗弁出来なくなった。


「本当に助けたいと思ったのなら、後先考えず突っ込むだろう、今! なのに、この期に及んで後ろで高みの見物か?」


「い、いや……」


「結局、お前は自分に甘いだけなんだ。それなら元のパーティーに戻ろうとするな。相手を落胆させるだけだ。……尤も、そのパーティーももうなくなっちまったがな。どうだ? 『あんな奴ら全滅してしまえ!』と言っていた身としては、内心『ざまぁ』とか思っているんじゃないのか?」


 神太郎はそう皮肉りながら凌辱の光景を眺めた。キックスに言われるまでもなく彼も助ける気はあったのだが、捕まっているルーシを無傷で救うとなると、神太郎でも頭を使わざるを得なかったのだ。


 すると……キックスがひざまずいた。


「お願いだ。ルーシを助けてやってくれ」


 今度は怒りはなく、ただただ懇願するだけ。神太郎は一瞥もしなかったが、彼は請い続ける。


「全て俺の責任だ。俺がまだパーティーにいれば、幻惑魔術を使って皆で逃げ出せたかもしれない。俺がいれば救えたかもしれない。でも、今の俺の力では彼女を救うことは出来ない。だから、代わりに助けてやってくれないか。何でもする。金が欲しいなら、いくらでも払う。何年掛けても……」


 そして両膝を地につけて……土下座した。


「彼女まで死んだら、俺は一生自分を恨む」


「……」


 それでも視線を送らない神太郎。彼はルーシと魔獣の様子を観察し続けながら耳を傾けていた。


 そして決する。


「キックス、二、三秒だけでいい。その幻惑魔術とやらであの魔獣の注意を引けるか?」


「っ! ……あ、ああ!」


 傑物の力に臆病者の気概が加わって少女を救う機を得る。


 その後、事を成して洞窟から戻ってきた神太郎は、抱えていたルーシを寝かすとまとっていた外套がいとうを彼女にかけてあげた。気を失っているが命に別状はない。


 そんなルーシの前に、キックスは跪き両手を付いて涙を流す。


 恐怖からか、安堵からか、懺悔からか、はたまた現実を受け入れたくないからか、彼は声を上げて感情を噴出させていた。


 対して、神太郎はそれを黙って見ているだけ。


 キックスとは対象的に何の感情も表さず、ただただ彼を見つめていた。



 旅の道中であった疎ましい出来事であった。



―疎ましい男・完―

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