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13-3 疎ましい男③

 翌朝、神太郎は改めてエイゼンへ向けて出立する。


 ただ、何故か解散したはずなのに道連れがいた。


「何故、付いてくる?」


 神太郎は後ろから付いてくるキックスに迷惑そうな視線をやりながら言った。されど、相手は離れる気などない。


「そんなこと言うなよ。新しいパーティーを見つけるまでの間だからさ。アンタも一人旅で大変だろう? 魔獣に襲われたら助けてやるよ」


「それが出来ないからクビになったんだろう」


「うぅ……。だから、一人でも立派に働けるようにこうやって修練してるんだよ」


 まぁ、その心意気は神太郎も認めるところ。何を言っても付いてくるので、渋々同行を黙認することにした。


 ただ、そういう経緯だからか、神太郎の方から話し掛けることはなかった。それが耐えられないとばかりにキックスが無駄話を始める。


「なぁ? 何で歩きなんだ? どう考えても馬は必要だろう」


「こっちの方が身軽だからさ」


「歩きじゃエルゼンまでまだ一ヶ月は掛かるぞ」


「いや、夕方には着く予定だ」


「もしかして魔術士か? 転移魔術が使えるとか?」


「走るだけだよ。だからちょっと近道を選ぶぞ」


 すると神太郎は進んでいた街道から離れ、山地へ続く脇道へと入っていった。キックスも躊躇ちゅうちょしつつも付いていく。


「お、おい。あの山を越える気か? 止めておけって。あれは『マルト連峰れんぽう』と言って、標高六千メートルはあるんだぞ。山の裾野すそのをぐるっと回る街道の方が絶対に早し、楽だ。それに人気の無い場所は獣が多い。魔獣に遭遇するぞ」


「ビビってるのか? お前は自分が行きたい道を行けばいいじゃないか」


「び、ビビっちゃいねーよ。ただ、わざわざ自分から危険に突っ込む必要はないって言ってるんだ。それに俺だって冒険者なんだから、アンタのことを見捨てるわけにもいかないだろう」


 臆病ながらも奉仕の意識も見せられれば、神太郎もまた黙認せざるを得なかった。


 一方、脇道は徐々に木立へと入っていくも、神太郎の歩は緩まない。キックスも遂にはいぶかしむのを通り越して呆れてしまった。


「……アンタ、本当、変なヤツだな」


「よく言われるよ」


「……気にしないのか?」


「何が?」


「ベルたちもアンタのことを馬鹿にしていただろう? 頭に来ないのか? 悔しくはないのか? 見返してやろうとは思わないのか?」


「思わんね。人それぞれだ。まぁ、人間は群れる生き物だから他人からどう見られるか気にするのは普通のことだ。ただ、それを気にするあまりやりたいことをやれなくなるのは本末転倒じゃないか?」


「っ!」


「俺は自由気まま望むがままに生きたいんだ」


「……」


 そう言い切る男に、キックスは言葉を失った。思いっ切り驚き、思いっ切り呆れたのだ。


 すると、その時だった。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 聞こえてきたのは獣の咆哮。


 神太郎とキックスがその方向に見ると、そこにいたのは巨大な魔獣。それは神太郎にも見覚えのある猪、ガーフボアだった。


「不味い、ガーフボアだ! 逃げよう! 以前、俺たちも出くわしたんだが、ベルやカンクの刃が全然通らず命からがら逃げ出したんだよ。勝てっこない!」


 慌ててきびすを返すキックス。


 片や、神太郎にその気はなし。彼は突進してくるそれを腰を落として待ち構えた。そして、キックスが「ば、バカ!」と呼び止めようとした時……、


 ガーフボアが飛んだ。


 いや、上空に射出されたというべきか。


 ガーフボアの頭突きを真正面から受け止めた神太郎が、そのまま力任せにその巨体を真上に放り投げたのだ。


 十メートル、二十メートル、三十メートルと、ぐんぐん天へ登る猪。思い掛けない飛翔に、獣も目を丸くしていたことであろう。


 だが、それもすぐに終わる。上空百メートルほどに達すると、今度は急降下。結果、猪の頭突きの先は頑強な大地となった。


 周囲に響く激突音。


 宙に舞う砂煙。


 やがてそれらは収まるが、キックスは唖然としたままだった。首が圧し折れ絶命したガーフボアと、それを前に泰然たいぜんとしている神太郎を見つめながら。


 そんな彼を他所に、神太郎は何事もなかったかのように話を再開する。


「お前のこれまでの言葉も全て本音なのか?」


「え?」


「俺は自分に正直に生きている。お前はどうなんだ?」


「も、勿論、本音だ」


 圧倒的な力をもつ強者の問いに、キックスは緊張しながら答えた。


「人からの評価を重きに置くのはいい。その結果は?」


「結果って……。周りに見返してやりたいんだ」


「だから、その先さ。見返した結果、何を得たいんだ?」


「……」


「何故、見返したい?」


「そりゃ……認めてもらいたいんだ。俺という人間をちゃんと知って欲しいんだ」


「だったら始めから言えばいいじゃないか。皆と話して、コミュニケーションを取って、自分を知ってもらえばいい。俺はこういう人間だ。俺が戦場で後ろにいるのもこういう役目を果たしているからだって。それだけで見返せる。認めてもらえる」


「それが出来たら苦労しねーよ!」


 キックスはこれまでのことを聞いていなかったのかとばかりに怒りを込めて抗弁した。


 だが……、


「話すことがそんなに難しいのか!? パーティーを追放されることより辛いことなのか!?」


「っ」


 神太郎がそれ以上の憤りで言い返すと、彼は言葉を失った。


「村を出る時パーティーに加えてくれたってことは、ベルたちもお前のことを嫌悪していたわけではないだろう。普通に歩み寄れた。お前が仲間として普通にコミュニケーションを取っていればな。なのに、ずっと隅でウジウジしていたわけだ。誰だって呆れて見捨てる。俺だって見捨てる」


「……」


「何故だ? 何故、話さない?」


 顔を背けるキックス。


 ……。


 ……。


 ……。


 やがて声を震わせながら答える。


「……分からない。怖いんだ」


 否、嘘だ。


「違う。俺は……甘えていたんだ。向こうから気遣って歩み寄ってくれることを願っていたんだ。楽をしたかったんだよ」


 やっと本音を明かす。


「仲間が欲しかった。心から通じ合える本物の仲間が……。でも、自分からそれを作ろうとせず、勝手に出来るのを待っていただけなんだ」


 それは彼の悔恨かいこんであった。


 自分で分かっているのなら神太郎もこれ以上言うことはない。


「なら、次のパーティーではちゃんと話せるようになれよ」


 そして二人は再び歩き出した。


 進むほど険しくなっていく山道。それはキックスの心情を表しているかのようだった。


 彼はゆっくりと口を開く。


「俺、戻れるかな?」


「ベルたちの元にか? でも、新しいパーティーの方がやり直しが楽だと思うぞ」


「同じ村だし……。やっぱり一緒に旅するなら……」


「まぁ、相手次第だろうな。けど、ただ謝罪するだけじゃ駄目だぞ。ちゃんと自分をパーティーに加えるメリットを説明しろよ。自分の言葉で自分の本音を伝えろ」


「うん……」


 強者にそうさとされると、臆病者にやっと勇気が宿った。


 簡単なことだ。神太郎の言う通り、実に下らない悩みだった。たとえ断られても命を落とすわけではない。キックスもそう思えれば、いくらでも謝罪と弁解が出来る気がした。


 覚悟を決めた若人わこうどは力強い足取りで歩み始めたのである。



 だが、現実は非情だった。

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