13-2 疎ましい男②
やがて一行は小さな町に着いた。もう陽が暮れていたので、ここで一泊することになる。ただ、その前にベルからこれからの予定を知らされると、神太郎は聞き返してしまった。
「仕事?」
「ああ、この町に入る時、魔獣退治の依頼が出ているのを見てな。ここいらで旅費を稼いでおきたいんだ。どれくらい掛かるかは分からないが、もしアンタが急いでいるのならここでお別れってことになる」
「一応、難所だった森を抜けたので、あとは道なりに進むだけでエイゼンに着きますよ」
そういうことなら仕方がない。ルーシもそう補足してくれたので、神太郎も納得する。
「そうか。なら、ここまでで結構だ。助かったよ」
「まぁ、途中でゴブリンに殺されないよう気をつけるんだな。アンタ、トロそうだから」
「オタクも頑張れよ」
こうして神太郎とベルは互いに健闘を祈ると。束の間の道連れを終えることにした。
ただ、ベルにはもう一人別れる相手がいた。
「それとキックス、お前も出ていけ」
「えっ!?」
突然のクビ宣告に、キックスは瞠目。ただ、ベルの方は突然のつもりはなかった。今までずっと我慢していたのである。
「お前、今回の戦いでも人任せで後ろで縮こまっていたよな?」
「い、いや……」
「魔術士のくせに光弾魔術は撃てないし、回復魔術も使えやしない。全くの役立たずだ。俺のチームに無能はいらないんだよ」
更にカンクもまでも。
「全くだ。お前のそのオドオドしている姿を見ているとイラついてくる。無益どころか有害だ。働かずに食う飯は美味いか?」
ルーシが「そこまで言わなくても……」と仲立ちしようとするが、二人の苛立ちは収まらない。二人とも戦いでは前衛として身を張っているのだ。人の後ろに隠れているだけの男に怒りを示すのは神太郎も理解出来た。
「同じ村の誼で連れてきたが、もう限界だ。ニートに飯を食わせる余裕はないんだよ」
そう言い残すとベルとカンクは立ち去ってしまった。ルーシも一度は躊躇するも、結局二人に付いていく。
そして、取り残されたキックスは最後まで抗弁せず、ただ俯いていた……。
だが、場所を変えると一転、彼は怒りを露にした。
「ふざけるな! 俺がどれだけフォローしてやったと思っているんだ。俺がいなきゃ危なかった場面はいくらでもあっただろう!」
夜の宿屋の一室にて、キックスはこれまでの陰キャぶりが嘘かのような憤激を見せていた。
「確かに俺は攻撃魔術も回復魔術も使えないよ。けど代わりに相手に幻惑を掛けたり、動きを遅くしたりと、弱体化魔術を掛けていたんだよ。そのお陰で今まで楽に勝てていたんだ。俺だって働いていたんだよ! ああ、いいよ! もうこっちから願い下げだよ。後から戻ってきてくれと言われても、もう遅いからな! あんな奴ら全滅してしまえ!」
握り拳を何度も何度も振りながら、溜まっていた鬱憤を吐き出す。そのキレっぷりに、一緒にいた神太郎もつい「君、急に饒舌になるじゃん」とツッコんでしまった。
どうやら、先の戦いで何やらぶつぶつ呟いていたのは、その弱体化魔術を掛けていたからのようだ。一応、仕事はしていたよう。ただ、疑問も残る。
「でも、ベルたちからは働いていないと思われていたんだよな」
「ああ」
「何で? ちゃんと言ったのか?」
「え? ……いや」
「はぁ? 自分の役目を説明しなかったのか? 自分はこういう弱体化魔術は得意で、それで皆を援護するってプレゼンしなかったのか?」
「……」
そう詰められると、キックスは途端にいつものオドオドした陰キャに戻ってしまった。これには神太郎も呆れざるを得ない。
「報告! 連絡! 相談! ホウレンソウは社会の常識だろう。言わなきゃ分かんねーよ! 俺だってお前のことを人の陰に隠れるだけの陰キャだと思っていたし」
「いや、言わなくても分かっていると思っていたし……」
「言わなきゃ分かんねーよ。エスパーじゃないんだし。で、何で言わなかった?」
「それは……そういう性格だから……」
「性格?」
「俺たち四人は同じ村で育ったんだ。ただ、ベルとカンクがガキ大将だったのに対し、俺は気の弱い子供で、いつも相手にされず、たまに遊ぶことはあってもチャンバラで痛い目に合わせられていた。それでも、いつかは二人のようなしっかりした男になりたいと思っていたんだよ。二人とルーシが冒険者になると聞いた時、俺も連れていってくれと頼み込んだんだ。魔術の勉強はしていたから。……けど、二人の逞しい戦いぶりを見ていると……気遅れして……」
原因はへタレだというのだ。その上、小さい頃から刻まれた上下関係のせいもあるだろう。どちらにしろ、彼に冒険者は向いていなかった。神太郎もそれを忠告する。
「はぁ……。生来気が弱いっていうなら仕方がない。元々冒険者には向かなかったってことだろう。故郷に帰れよ」
「嫌だ。ここで諦めたらベルたちを見返せない!」
「見返すって……。面子のために旅を続けるのか?」
「どこかの冒険者と新しくパーティーを組んで、これまで以上の実績を積むんだ。いつか再会した時、アイツらがひれ伏しちまうような大きな実績をな」
「あっそ。まぁ、お前の人生だ。好きにすればいい。ってか、何で宿の部屋がお前と同じなんだよ」
「単身の旅人は相部屋だってさ」
「はぁ……。陰気なヤツと二人っきりになるくらいなら、まだ一緒に行動するんだったかなー」
基本社交的な神太郎でも、こういう逆恨みのような怨恨を抱えた人間と一緒にいるのは参ってしまう。
彼はベッドに腰掛けると、これ以上恨み節は聞きたくないとばかりにキックスに背を向けて横になるのであった。




